週末最後の授業の日、金曜日。
明日から三連休。
このZ組のほとんどは、3年生という受験を控えているというのにも関わらず、遊ぶことしか頭にない。
…いや、あたしは一応考えてるけどね!まあ、その、せっかくの三連休なんだから遊びたいんだよ。
それを踏まえて、金曜日の授業後。
あたしたちはZ組の教室で緊急会議を開いていた。
「よーし、だいたいこれでメンバーは揃いやしたね。では今から、宿題振り分け会議を行いまさァ!」
「「「「「おー!!」」」」」
そう、連休の邪魔者である宿題。
偶然なのか仕組まれていたのか、普段は滅多に出ない宿題が今日いきなり課せられたのだ。
「宿題は全部で…えーと4教科ですねィ。じゃあ、まず半分は土方さんで」
「ふざけんじゃねーよ総悟」
教卓の前で黒板にそれぞれの教科を書き出していく沖田に土方くんの低い声が飛ぶ。
「大体これおかしいアル!なんで化学の宿題が問題集20ページ分アルか!夏休みじゃねーんだぞコルァ!」
「いやそれここで言われても困るから」
今日は新八くんがいないので、代わりに退くんがつっこんだ。
ちなみに新八くんは午後のタイムサービスのために走って帰っていった。宿題は…多分、妙ちゃんと分担だろう。
「ま、まあまあ。20ページとはいえ、1ページに載ってる問題数が少ないからなんとかなりそうだよ」
「じゃあが化学担当で」
そんなに大きな声で話した覚えは無いのに、地獄耳の沖田には聞こえていたようだ。
「いやいやいや、別にあたし化学得意ってわけじゃないから!あっ桂くんって国語系は得意だよね!?」
「ん?ああ、まあ…そうだな。今出ている課題の中なら、一番できる教科だろう」
桂くんは黒板の方を見ながら腕を組んで言う。
「じゃあ国語は桂が担当ってことで決定ですねィ」
「ハイッ!ヅラ一人じゃ不安アル!私がサポートにまわってやるヨ!」
手を上げ、がたんと音を立てていすから立ち上がった神楽ちゃんは沖田にそう主張する。
「どっちかといえばサポートが必要なのはおめーだろチャイナ」
「何を言うネ!私が本領発揮すればこんな宿題ちょちょいのちょいアル!」
よく分からないけど、見えないところで火花を散らしている二人を見て桂くんが口を挟む。
「そうか、リーダーがサポートしてくれるなら心強い」
「ふっふっふ、さすがヅラアル。ちゃんと私の凄さを分かってるアルな!」
神楽ちゃんはどかっといすに座って足を組み、得意げにフンと笑った。
「じゃあ残るは英語と数学、あと化学ですねィ。まあ英語は予習みたいなものなんで、土方さん担当で」
「何勝手に決めてんだコラ」
土方くんが言うと、今まで呆然とやりとりを眺めていた退くんがさりげなく口を開いた。
「でも土方さん、いつも英語の授業の予習やってますよね」
「そういえば…あたしも前に土方くんからノート借りたときちゃんと予習してあったような…」
ぼそぼそと呟くくらいの声量で言ったのに、やはり地獄耳の沖田は聞き取っていた。
「山崎との証言もあることですし、今回の英語担当は土方さんで。がんばってくだせェ、予習2単元分」
にやにやと笑いながら沖田は土方くんを見る。
2単元っていうと少ないような気がするけど、ページにすると今回は7ページ分くらいだ。
「山崎ィィ!てめっ、余計なこと言うんじゃねーよ!!!」
「ギャアアア!ちょっ痛い!殴らないでくださ、痛ッ!!!」
教室の隅に引っ張っていかれた退くんの悲鳴と、どかっどかっという音が聞こえる。
その間も何事もなかったかのように沖田は話を進めている。お前ほんと鬼だな沖田!
…まあ、余計なこと言ったのはあたしもだし、止めに入るか。
「それくらいにしとこうよ、土方くん。ここで退くんが再起不能になったら宿題担当メンバーが減っちゃうし」
「再起不能て…ちゃん…」
既にヨロヨロしている退くんからツッコミなのか呟きなのかよく分からない声が聞こえた。
「チッ、仕方ねーな」
「まーまー落ち着いて落ち着いて。英語の予習、がんばってね土方くん。頼りにしてるよ」
ぽんと少し高い位置にある土方くんの肩を押すと、土方くんは少し驚いたような顔をして「おぅ」と小さく言った。
ヨロヨロしてる退くんを引っ張って、元の席に戻る。
「じゃあ残りを考えると、やっぱりは化学担当ですねィ」
「だから待ってってば!一人じゃ無理だって、20ページ!」
さっきはなんとかなるとは言ったけど、実際やったら…すごく時間がかかりそうだ。
「でも残るは数学15ページですぜィ。ふたつにひとつ。さー、どっちにしやすかィ」
「うぐぐ…どっちも面倒な宿題じゃん…」
そもそも宿題自体面倒なんだけどね。
「まぁ、俺が手伝ってやってもいーんですけどねィ」
「え?沖田が?」
珍しい。人に押し付けることはあっても、手伝うなんて、沖田が言うなんて…。
「…見返りは?」
「来週一週間分の昼飯代と、水曜日にまわってくる日直の代役ですかねィ」
「多ッ!!お前宿題でどんだけ見返り要求してくるんだよ!!!」
それお小遣いは無くなるわ、休み時間は無くなるわでリスク高すぎじゃん!
「あ、じゃあ俺が手伝おうか…?」
いつの間にか立ち上がって抗議していた私の手を退くんがくいくいと引っ張っていた。
「へっ?退くんが手伝ってくれるの?」
「うん。化学ならなんとかできると思うし…あ、見返りとかいらないからさ」
殴られた痕を擦りながら退くんは控えめにそう言った。
「じゃあ、あたし退くんと化学やる!ってことで沖田ァ!お前数学15ページな!」
ビシッと教卓の前に立つ沖田を指差す。
「山崎のクセにいいとこもっていきやしたねィ…。わかりやした、じゃあこれで振り分け完了でさァ」
…一瞬退くんにものすごい鋭い目線が飛んでいた気がするけど、気のせいということにしておこう。
「じゃあ休み明けの学校初日の朝、全力で宿題写し合いやしょう。…忘れた奴ァ俺から制裁が下るんで覚悟しなせェ」
ニヤリとサドオーラ全開の笑顔を向けて放った沖田の言葉で、今日の会議は終了した。
ざわざわと喋りながら皆は帰宅の準備をする。
「分担かあ…20ページだし、ちょうど10ページずつの分担でいいかな」
「あ、でも最初の方って確か問題数が多かったはずだから…ちゃん、最初の5ページ頼んでいい?」
荷物をまとめ終えた退くんは笑って言った。
「いい、けど…それだと退くん大変じゃない?15ページもあるよ?」
「大丈夫大丈夫、俺そんなに予定入ってないから時間あるし。手伝うって言い出したの俺だからさ」
喋りながら荷物をまとめて、退くんと一緒にあたしも教室を出る。
でもやっぱりそこまでしてもらうのも悪い気がするなあ、と思っていると退くんはあたしの顔を覗き込んで少し笑った。
「じゃあ、さ。さっき見返りいらないって言ったけど…ひとつだけ、俺の頼み事聞いてくれる?」
「もちろんだよ!何がいい?」
少し悩むような仕草をした後に、退くんは少しはにかんであたしを見る。
「休み中、1回でいいからお昼ごはん作りにきてほしいなー…なんて。だめかな?」
夕焼けを背に足を止めた退くん。同時にあたしも足を止めて、じっと目をみつめる。
「…あたし、あんまり料理上手じゃないよ?」
「いいよ。ちゃんが作ってくれるなら、その…それだけでうれしい、から」
少しずつ顔が赤くなっていく退くんの手を掴む。
「宿題も頑張るけど、お昼ご飯は退くんのために頑張る!けど、期待はしないでね!」
そう言って、あたしは明日のお昼ご飯のメニューを考えながら退くんの手を引いて夕暮れの帰り道を歩き出した。
宿題分担会議
(「……(お、俺のため、って、ちゃん…!)」「…ちょ、何か喋って退くん!なんかあたしまで恥ずかしい!」)
あとがき
3Zで退オチギャグハーというリクエストでした!ありがとうございますー!!
逆ハーはいつ書いても長くなる…!そして前半ほとんど退が絡んでなくてすみません!
皆でワイワイしてるところを妄想…いえ、想像しながら読んでいただけたら幸いでございます!
2010/09/12