キーンコーンと今日の授業の終わりのチャイムが響いた午後。

窓の外では雨がぽつぽつと降り続けていた。

 

 

「結局止まなかったなあ…」

「天気予報は晴れる、って言ってたのにね」

はあ、とため息をついたあたしの後ろで退くんは帰りの支度をしながら苦笑いをして言った。

 

「あたし天気予報を信じて傘持ってこなかったんだよ」

「え、じゃあちゃんどうするの?止むまで待つ?」

少し心配そうにあたしの顔を覗き込む退くんにビシッと窓の外を指差して言う。

 

 

「今はまだ小雨だし、酷くならないうちにダッシュで帰る!」

「いや、ダッシュで帰れるほどちゃんの家近くないでしょ」

新八くん並みの的確なツッコミだった。

ちなみに今週、新八くんは妙ちゃんと神楽ちゃんと桂くんと共に理科室掃除の担当。

なんとなくメンバー的に、早く終わりそうにはないなあと思っていたことは秘密だ。

 

 

「傘ねぇんなら、入れてってやるぞ」

がたんとイスの音がした方を見ると、土方くんが折りたたみ傘を片手に立っていた。

「えっ本当!?途中まででもいいよ、すごく助かる!」

「別に家まで送ってやってもいいけどな」

土方くんは少し顔を背けて鞄を持ち直す。

本当にいいの、と聞こうと口を開く前に、私の背後から沖田の声がした。

 

 

 

「あっれ、土方さん。今日マヨネーズ特売があるとか言ってやせんでしたっけー?」

の家まで行くと、商店街通り越すことになるけどいいのかなー多串くーん」

「すっげぇウゼェよお前ら」

ニヤニヤしながら言う沖田と銀八先生をひと睨みしてギリッと歯を鳴らす。

 

 

「っつーわけで、は俺が送ってってやるよ。今日車だし」

白衣のポケットから車の鍵を取り出し、くるくると手で弄ぶ。

「マジですか先生。こういう時だけは頼りになりますね!」

「普段どういう目で見られてんの俺」

 

 

 

「え、でも先生さっき廊下で坂本先生にこの後職員会議があるって言われてましたよね」

「ジミー君、そういうことを今言うのは間違ってると思うよ俺」

間違ってんのはお前だ。

新八くんがいたらそうつっこんでいただろう。

 

「っつーわけで、特別に今一番手が空いてる俺が送ってやりまさァ」

「え、あんた傘持ってんの?」

見たところ折りたたみ傘を持っているような感じはしない。

 

 

「いや、今日昼から来たんで普通に長傘持ってきてるんでさァ」

「そういえば今日は午前中がすごく平和だったような…」

いつもなら朝からあたしの筆箱隠したり、教科書を掃除道具ロッカーの上に投げたりしてくるのに。

 

、総悟に送ってもらったら命の保障はねぇぞ」

「なんだろう…この安易に否定できない感覚」

「おめーら二人まとめてシメますぜィ」

 

 

 

 

結局話はなかなかまとまらない。

心なしかさっきよりも雨が強まってきた気がする。

「ちょ、ほんとに早く帰らないとこれダッシュしても駄目な気がする!」

「最初からその方法は無理だっつーの」

土方くんが少し気の抜けた声でつっこんだ。

 

 

「ほらほら、だから俺が送ってやるって言ってんの。送ってくっつーことで職員会議パスるから」

「それが目的ですね先生」

この人会議に行きたくないだけじゃないのか。

 

「まさかー。俺はお前が雨に濡れて風邪引かねーように、って思ってんだぜ?お前が休むと調子出ねぇし」

すっとあたしと同じ高さに目線を合わせる。

授業中でさえ見られない、真剣な目にたじろいでいると校内放送がかかった。

 

 

「…呼び出されてますよ、先生」

「あーもー!あいつらほんっと空気読めねーな!」

「この場にいないのに読めたら逆に怖いですよ」

銀八先生はわしゃわしゃとあたしの頭をなでて、送ってやれなくて悪ィと言って教室を出て行った。

 

 

 

 

 

さて、本格的にどうしたものかこの状況。なんて思っていると、とんとんと肩をたたかれた。

「あの、ちゃん、俺折りたたみ傘2本持って…」

「よーっし、しょうがねぇから俺が送ってやりますんで、土方さんとザキは心置きなく商店街行ってきてくだせェ」

退くんの声をさえぎるほどの大きな声で言った沖田は、そのままあたしの手を引っつかむ。

 

「ちょ、ちょっと待って!ね、退くん今なんて…」

「いいから行きやすぜ。さっさとしねーと水溜りに突き飛ばしてやりまさァ」

「すいませんでした」

 

 

「おい総悟!」と叫ぶ土方くんを肩越しに見る。

口パクで二人にごめんと言ってあたしは引きずられるようにして教室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ、まて、走るな!」

「走ってやせんぜ。早歩きでさァ」

「歩幅の違いがあんのよ!」

沖田とあたしじゃ、足の長さが違う。…別にあたしの足が短いわけじゃない、男女の差よ!

 

 

「ほら、さっさと行きやすぜ」

昇降口でさっさと靴を履き替えた沖田は、言ったとおりの長傘を片手にあたしを見る。

 

「本当に、送ってくれるわけ?何か企んでるんじゃ…」

「こんな自分にリスクがあるような企みするわけねーだろ」

確かに、沖田なら自分は安全な位置にいて周りを見下すはず。

 

 

に風邪引かれて学校休まれちゃ、俺も暇でしょうがねーんでィ」

「あんた他の人もいじめてんじゃん。暇じゃないでしょ」

主に土方くんがその標的になっているけど。

 

 

「うるせーな、とにかくさっさと行きやすぜ。これ以上雨が強くなったら気が変わりそうでィ」

くいと顎で外を指しながら言う。

「…了解」

 

 

 

 

昇降口を出た屋根の下で、沖田はパンと傘を広げる。

「あ、あのさ、さっきみたいな早歩きはやめてね。あたし置いていかれそうだから」

「分かってらァ。大体、あんな歩き方したら跳ねが上がって俺まで濡れるだろ」

そう言って沖田はあたしに手を差し出す。

 

 

「早く行きやすぜ、

その声に頷いて、あたしは沖田の傘の下へと入る。

 

 

「ありがとうね、沖田」

「…おう」

こっちを見ないまま返事をした沖田は、ちゃんとあたしの歩幅で歩いてくれた。

たまには優しいとこもあるんだね、なんて言ったら傘から追い出されそうだったから言わないままにしておいた。

 

 

 

 

 

 

相合傘のお相手







(「わかった、きっと今日の天気予報が外れたのは沖田が優しいからだ」「川に突き落とされたいんですかィ」)

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

3Zで甘々逆ハー沖田オチというリクエストでした!ありがとうございました!!

逆ハーは台詞配分が難しいですが、書いていてとても楽しかったです!

しかしギャグ要素が増えちゃいまして…。最後しか甘くないんじゃないのかというものになってしまいましたが、

楽しんでいただければ幸いでございます…!リクエスト、本当にありがとうございました!

2010/11/13