「ふー。さっぱりー」
冷たいお茶を片手に風呂場から居間へと移る。
肩にタオルをかけて、居間のソファに座る。
神楽ちゃんに「次どーぞ」と言うと「いってくるヨ!」と言って風呂場へを駆けていった。
開けた窓から流れ込む涼しい風を受けながら、お茶を飲む。
「ふーっ、いやあ今日も一日疲れたァー」
「おっさんかお前は」
「うっわ、銀さんに言われたらおしまいだよ」
「それどういう意味ですかちゃーん」
いつもの定位置でジャンプを読んでいた銀さんがチラリと私の方に視線を向ける。
机に足を乗せてページをめくっていく銀さんこそ、十分おっさんに見えるんだけど。なんて心の中で思った。
しばらくすると、パタンとジャンプを閉じて銀さんがぐっと伸びをした。
それと同時に私はふわ、とあくびをして空になったコップを机に置いた。
「あれ。なんだよ、まだ乾かしてなかったのか?」
銀さんはジャンプを置いて、濡れたままの私の髪を見る。
「あー、うん。なんかめんどくさくって。まあ、そのうち乾くかなーと思って放置中」
そっと自分の髪に触れてみると、まだたっぷり水分を含んだままだった。
「お前なァ…そんなことしてっと風邪引くぞ」
「大丈夫大丈夫。よくやってるから」
そう言って笑うと銀さんは、はあ、と盛大にため息をついて立ち上がる。
そのまま私の後ろに立って、肩にかけていたタオルをばさっと私の頭にかぶせた。
「ぶわっ、な、なに!?」
「特別に今日は銀さんが乾かしてあげますー」
目まで覆われたタオルを押し上げて振り向くと、言うほど面倒くさそうな顔をしていない銀さんがいた。
「…ジャンプ読み終わって、暇なんだ?」
「うっせーな、あんま喋ってっと口に手ェ突っ込むぞ」
銀さんなら本当にやりかねないので、そのまま口を閉じた。
がしがしと、優しくとは言えないものの銀さんなりに丁寧に髪が拭かれていく。
頭頂部から毛先まで、ぽんぽんと撫でるように拭かれたりしているうちに、私の目は閉じかかっていた。
「…なんか眠くなってきた」
「こんな状態で寝たら襲うぞ」
「よっしゃー絶対寝ないぞー!」
「………」
髪を拭き終わってから、ドライヤーで髪に風を送る。
「熱かったら言えよー」という銀さんの声を聞きながら、その手の心地よさにそっと目を閉じた。
「しかし…綺麗な髪しやがって、羨ましいなちくしょー」
「銀さんだって綺麗な髪してるじゃん。ふわっふわでさ。私、結構好きだよ」
ドライヤーの音にかき消されないように少し大きめの声で言う。
「、お前自分がこの髪だってみろ。ぜってー嫌ってんぞ」
「うん。絶対ストパーかけにいく」
「ねえさっきから銀さんいじめられてんの?こんなに尽くしてんのにいじめられてんの?」
…尽くしてたのか。単なる暇つぶしだと思っていたのに。
乾いてきた髪と、地肌に触れる銀さんの手のくすぐったさに少し身を捩る。
「ん?どーした?」
「いや、銀さんの手が…」
そう言ってる間も首筋に触れる手がくすぐったくて、体が震える。
「何だ何だ、俺の手はそんなに気持ちよかったか?」
「セクハラくさいんだけどその言い方」
さっきと違う手つきで首筋を撫で上げる銀さんの手をばちんと叩いておく。
「いってェ!」と声を上げる銀さんに、調子に乗るからだよ、と言っておいた。
ドライヤーを止めて櫛で髪をとかしていく。
「ほい、綺麗に乾きましたよーっと」
ぽん、と両肩に手を置いてきた銀さんの顔を見上げるように顔を上げる。
「ありがと、銀さん」
「どーいたしまして」
にっと笑って銀さんはそのまま私の顔をぐいっ前に向けさせて、そっと後ろ髪に口付けた。
小さく音を立ててから離れた銀さんの香りに驚いて、私はそのまま動けずにいた。
「なあ、他の男にあんま髪触らせんじゃねーぞ」
呟くような声が聞こえて、ゆっくりそっちを振り向く。
「俺以外の男の前で、あんな可愛い仕草すんなよ」
ほんのり顔を赤くした銀さんの目を見ながら、私は小さく声を出して笑った。
「銀さんの手じゃなきゃ反応しないから、大丈夫だよ」
反応するのは貴方のぬくもり
(「ふー、サッパリしたアル」「おかえり、神楽ちゃん」
「ただいまアル!…銀ちゃん、なんか顔赤いヨ。風呂入る前からのぼせたアルか」
「べっ、べべべべっつにィー!これが普通だから!これがデフォルトだから!」)
あとがき
銀さんほのぼの甘夢というリクエストでした!ありがとうございましたー!
ほのぼの、ということだったのでそこを重視しようと思いギャグ控えめにしてみました。
お風呂上りに銀さんとまったりした時間を過ごせたら、一日の疲れが飛ぶと思います。
2010/07/10