最近の我らが第七師団団長こと神威団長は、なんだか変だ。

でもどうやらそう思っているのは私だけ…いや、私と阿伏兎だけらしい。

 

「ねえ阿伏兎、私なにかした!?」

「…そりゃ、俺じゃなくて団長に聞くべきなんじゃねぇの?」

「それができないから阿伏兎に聞いてるんだよォォ!」

 

 

できないというか、会えない…というわけでもないのだけれど。

最近の神威団長は、私を見ると急に無表情になってどこかへ去っていってしまうのだ。

 

「あのいっつもニコニコしてる団長が無表情になるんだよ!?怖いでしょ!?」

「いつだって怖い気がするけどねぇうちの団長は」

まあそれは否定しない。

 

 

「このままだとなんか神威団長とギクシャクしちゃってなんか居心地悪いし…どうしよう、阿伏兎…」

しゅん、と頭を下げるとそこに大きな手がぽんと乗せられた。

「ま、そのうち戻るだろうよ。…団長が吹っ切れたら、な」

「吹っ切れ…?」

 

 

阿伏兎の言葉の意味が分からず、顔を上げた瞬間、部屋の戸がバンッという音を立てて倒れた。

突然の出来事に「うぉわっ」と叫んで思わず目の前の阿伏兎に飛びつく。

 

「…俺の部屋の戸は引き戸だったはずなんだけど、何で倒れてくんのかねぇ…」

修理すんの俺なんだけど、と呟く。

 

 

「ねぇ、何してるの」

 

 

倒れた戸を踏みつけながら、にっこりと恐ろしい笑みを浮かべた神威団長が座ったままの私たちを見下ろす。

神威団長が歩く度にバキバキと音を立てる戸は、なんだか死へのカウントダウンみたいでものすごく怖い。

 

そして神威団長はぴたりと私たちの間近で止まり、私を見下ろす。

「か、神威団長…」

「ねえ。何、してるの?」

 

 

あ、久々に神威団長が笑ってるの見た気がする……ってちょっとまて、何故ピンポイントで私指名なんだ。

しかも怖い。逃げ出したいくらい怖いんですけど。

 

 

「えっと、その、ちょ、ちょっと阿伏兎とお話を…」

「ふーん。そう」

聞いたのは自分の癖に興味なさそうな声を出して、神威団長はすっと手を上げる。

その手はビュッと風を切る音と共に勢いよく私の首あたりに向かって飛んできた。

 

思わずぎゅっと目を閉じると、ドスッという音が聞こえる前に、私の体はさっきいた場所から移動していた。

 

 

「…何するの、阿伏兎」

「バカ野郎、嬢ちゃんは夜兎じゃねーんだからそんな勢いつけたら死ぬぞ」

どうやら阿伏兎が腕を引っ張って神威団長の攻撃を避けてくれたらしい。

私がさっきいた場所の床には、神威団長の手が埋まっている。

 

 

 

「か、神威団長ォォ!私を殺したいんですか!?私、そんなに嫌われるようなことしましたか!?」

あ、阿伏兎がよけてくれなかったら今頃私はあの床の二の舞…!ひええ!

 

 

「ん?嫌ってなんかいないよ。…だから、ちょっとおいで」

がしっと乱暴に私の手首を掴んでずんずんと歩き出す神威団長。

ちょっとこれ殺されそうなんだけど、という目線を送ろうと阿伏兎を振り返る前にぽんと背中を押された。

 

え、何これ、「死んで来い」みたいな後押し!?と思ってぐるりと首だけ阿伏兎を振り返る。

そこには予想に反して、面倒くさそうに、けれど優しく笑う阿伏兎がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

春雨の戦艦を無言で突き進み、辿り着いたのは神威団長の部屋だった。

神威団長は部屋につくとぴたりと足を止めて、くるりと私と向き合うように振り返った。

「ねえ。俺さ、最近気づいたことがあるんだよ」

「な、何ですか」

離してもらえない手首と神威団長の顔をちらちら見ながら返事をする。

 

 

が俺以外の奴と喋ってると、なんかイライラするんだよね」

 

 

にっこりと笑いながら言った言葉は一瞬頭にちゃんと入らなかった。

「は…?な、何ですかそれ。私はてっきり、君ってバカだよねとか言われるのかと…」

がバカだってことは随分前から知ってるよ」

「改めて貶されるとダメージ大なんですけど!!」

 

 

ぐっさりと突き刺さった言葉のダメージを受けている間も、神威団長はにこにこしていた。

「そんなことより…ほんと、最近のせいでイライラするんだよ」

「それ私のせいなんですか!?」

え、喋ってるとイライラするって言ったよね?私に喋るなと?

 

「おかげで仕事もはかどらないし」

「はかどるも何も、相変わらず私や阿伏兎に仕事押し付けてますよね」

今日阿伏兎の部屋に行ったときも、積みあがっている書類には神威団長殿、というメモがついていた。

 

 

 

「とにかく、俺のためにも他の奴と喋るな」

「む、無理ですって。生活できないじゃないですか」

そんな生活に支障が出るようなことには協力できない。

 

「まあ、ならそう言うと思って、選択肢を用意してあげたんだよ」

選択肢って。…ろくなものじゃなさそうなんだけど。

 

 

「他の奴と喋って時点で俺に殺されるか、喋ってもいいけどずっと俺の側にいるか、どっちがいい?」

 

 

あれ、これ選択肢になってる?

 

 

「すいません、前者の方、どう考えても今日中に死にそうなんですけど」

「どっちにする?」

 

聞いてない。こいつ、人の話を聞いていない。

そしてなんとしてもこの二択を選ばなくちゃいけないのか。

って選ぶも何も片方しか選べないじゃないか。

 

 

「…しゃ、喋ってもいい方で…お願いします」

そう言うと、神威団長はこくりと頷いて「わかった」と言い、やっと私の手を離してくれた。

 

 

「ていうか、何で喋っちゃ駄目なんですか。何でイライラするんですか」

そう尋ねると、神威団長は呆れたような目で私を見て言う。

 

 

「好きな子が他の奴と喋ってたら、イライラするだろ?」

 

 

 

「は?」

え、今この人なんて言った?好き?

 

「そういうわけだから、は今日から俺の部屋に引越しね。夜までに荷物運んでおいてよ」

「え、あの待ってください、現状が理解できないんですけど…!?」

何でこんなデンジャラスな部屋に引越ししなくちゃいけないんだ。

 

 

「だって、自分で選んだだろ。俺の側にいる、って」

「あれってそういう意味だったんですかァァァ!?」

 

今更撤回なんて…しないよね?と恐ろしい笑顔とセットで言われてしまっては反抗もできず。

私はただ、「こ、これからよろしくお願いします」と頭を下げるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

フラグが立ったとすればそれは死亡フラグ






「新手の死刑宣告ですかコレ」「何でそうなるの。どう聞いてもプロポーズじゃん」「あぁ、そうですかプロ…はァ!?

 

(でも不思議なのは、神威団長の部屋で生活することを怖いと思いながらも嫌とは思っていない自分がいること。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

7万打設定の神威で恋人になるまでのギャグというリクエストでした!リクエストありがとうございました!

恋人になってるんだかなってないんだか分からない感じになってしまいましたが、神威なりの告白です。

そして阿伏兎は神威よりも先に神威のヒロインへの好意に気がついてました。なんてすごい人。(ぁ

2010/07/25