真選組屯所では、今日も稽古の掛け声が暑苦しい…いや、賑やかに響いている。

そんな屯所で数少ない女中を務める私は、掃除洗濯と仕事で駆け回っていた。

 

 

「おはよーございます土方さん!」

「ああ。今日も忙しそうだな、

ふーと煙草の煙を吐きながら土方さんは廊下から稽古に励む隊士を見ていた目を私に向ける。

 

 

「あ、そうだ。さっき土方さんの部屋の煙草の吸殻、片付けておきましたからね」

「そうか、いつも悪ィな」

「そう思うならちょっとは吸う数減らしましょうよ。肺真っ黒になりますよ。真っ黒は沖田さんだけで十分ですもん」

「…確かに」

そう言って私たちはぶっと噴出して笑った。

 

ひとしきり笑ってから、私は再び掃除のために客室の方へ向かった。

 

 

 

 

 

まあ、客室といっても客なんて滅多に来ないから、隊士の人たちの宴会会場みたいになってるけど。

「あーあー、また散らかし……」

酒瓶やら割り箸やら、色んなものが飛び散ってる中、人が倒れている。

 

 

恐る恐る上から顔を覗き込んでみると、その表情はアイマスクに隠されていて見えなかった。

「…沖田さーん。稽古始まってましたよー」

声をかけてみても起きる気配は無い。

 

「沖田さーん、死んでるんですかー、生きてるんですかー?」

つんつんと持ってきたホウキで足元をつついてみるが、反応は無い。

 

 

 

「…土方さあああん!燃えるごみ袋持ってきてくださいィィ!できるだけ大きいやつー!!!」

「オイどういう意味でさァ

いつの間にか起き上がっていた沖田さんに後ろから髪の毛を引っ張られる。

 

 

「や、じょ、冗談ですよ!イッツジョーク!ていうか痛い!痛いです髪の毛!」

後ろ手にベチベチと沖田さんの手を叩いて離してもらう。

 

 

「あー痛かった…。もう、沖田さん、こんな所で何してるんですか」

「昨日隊士の連中と土方さんのグチを肴に酒飲んでて…あ、そこから記憶がねーや」

アイマスクを首から提げたままボッサボサになった髪の毛を手でとかす。

 

「そうですか…誰にも起こして貰えなかったんですね。これも日頃の行いが…アイタタタすいません足踏まないでください」

ぎゅうぎゅうと私の足先をつま先で踏んでくる沖田さんをドンドンと叩いて離れる。

今は足袋で見えないけどこの下はきっと真っ赤になっているんだろう。

 

 

「つーかは何やってんでさァ」

「掃除ですよ、掃除!」

どん、とホウキを床に突き立てて主張する。

 

「してないじゃないですかィ。仕事サボるなんていっけねーんだー」

「誰が邪魔してるのか分かってます?誰のせいで掃除できてないのか分かってます?」

それより稽古始まってましたよ、と言ってから一旦ホウキを壁に立てかけ、酒瓶を集める。

朝ダルそうな顔してる隊士の人がいるなーと思ったら、夜中に酒盛りしてたのか…。

 

 

 

「…、おめー最近煙草吸ってますかィ?」

「は?吸ってませんけど」

肺真っ黒になったら困るし。それにこれ以上屯所に真っ黒が増えるのは…ってコレ朝土方さんに言ったな。

 

 

酒瓶を部屋の端に集めてホウキをとりに行こうと振り返ると、真後ろに沖田さんがいた。

「うおっ、な、何してるんですか!背後霊ごっこなら遠慮します!」

「違ェよ」

冷静なツッコミだった。

…ってあれ、なんか目が真剣。

 

 

 

「お、沖田さん…?」

どうしたんだろうと思いながら名前を呼ぶと、私の両手首を掴んですぐ後ろの壁にドンっと押し付けられた。

そのまま沖田さんは私の首筋に顔を近づける。

 

「ちょ、お、沖田さんんん!!ストップストップ!そ、そういう冗談は勘弁してください!」

首にかかる息がくすぐったい。

 

「沖田さ…」

「煙草の匂いがするんでさァ」

 

「は?」

 

 

吸ってないんですよねィ、と聞いてくる沖田さんにこくりと頷いて答える。

でも、どうして煙草……あ。

 

 

「沖田さん、それ多分、さっき土方さんの部屋の煙草の吸殻掃除してきたからです」

「土方さんの…ああ、なるほど」

納得はしてもらえたようだけど、沖田さんは顔を首筋から離して私の目をじっと見たまま手を離さない。

 

 

「あの、掃除が…」

「なんか気に食わねーんでさあ」

 

ぼそりと呟いて、沖田さんはそのまま私の手を、べろりと舐めた。

 

 

 

「いっ…ぎゃああああ!気持ち悪い!!!あっごめんなさいくすぐったいです!」

「今思いっきり本音が出やしたねィ…」

呆れたような視線を向けながらため息を吐く。

 

 

「私の手、汚いですって。まだ掃除の途中なんで、手洗ってないですし…」

「俺ァ良いとこ出身の野郎じゃありやせんからね。こんくらいじゃ病気にもなりやせんぜ」

「確かに沖田さんが相手なら病原菌も逃げ出しそう…イタタタすいません手に力入れないでください!」

 

ギリッという音を立てた手首に視線をずらす。

けれど顔の横あたりにある私の手は見えず、少し骨ばった沖田さんの手が辛うじて見えるくらいだった。

 

 

「…よし」

何がいいのかサッパリ分からないでいると、沖田さんは私の右手を引いて歩き出した。

「え!?ちょっと待ってください、どこ行くんですか!?」

「その香り落としに行くんでィ。黙って着いてきやがれ」

「今洗ったってまた汚れるんですってば!あーもー!!」

 

 

叫びながら沖田さんに引きずられていく私に拒否権なんてものは存在せず。

真っ赤になった左手首を見ながら、抵抗することを諦めた。

 

 

 

 

 

 

 

仕事妨害の香り








(「、おめー今度から土方さんの部屋は掃除しなくていいですぜ」「いやそういう訳にはいきませんから」)

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

女中ヒロインで沖田ギャグ甘夢というリクエストでした!ありがとうございました!!

ほとんどギャグじゃね?っていう感じになりましたが、まあ、沖田さんなりの嫉妬ということで。

この後洗面所の帰りに偶然出くわした土方さんは沖田さんにフルボッコにされます。(ぁ

2010/08/28