清々しい朝。
万事屋にはテレビの音を掻き消すような掃除機の音が鳴り響いていた。
「ちゃん、うるさーい」
「しょうがないでしょ、掃除しないと埃溜まるんだから」
普段皆が集まる居間に掃除機をかけながら、少しだけ普段より声量を上げて会話をする。
「ていうか、文句言うなら手伝ってよ!銀さんも手伝ってくれたら早く終わるし!」
今日は新八くんはお通ちゃん親衛隊との会議、神楽ちゃんは近所の子との約束があるらしく、万事屋にはいない。
「いや、俺ももう少ししたら出かけるから。今日は出る気がするんだ」
そう言って銀さんはクイクイッと右手を捻る。…パチンコか。
「そんなとこでお金スってくるより、掃除手伝ってくれた方が助かるんだけど」
「今日の結野アナの星座占いで俺一位だったし。特に午後の運勢が良いんだってよ。きっと午後行けば勝てる!」
そんなこと言われても。ていうかパチンコは占いじゃどうにもならない気がする。
「だったら出かけるまで手伝って。私まだ洗濯物干し終わってないんだから!」
掃除機の電源を一旦切って、ソファに座ったままの銀さんにどんっと突き渡す。
めんどくせえ、という表情を露骨にされたが気にしない。どうせいつものことだ。
「じゃあ、あとは和室だけだから。よろしく…っ!」
くるりと方向転換して一歩足を踏み出した瞬間、ぐいっと何かに足が引っかかった。
どうやら掃除機のコードがいつの間にか一杯一杯まで引っ張られていたようだ。
「うわわわっ!」
顔面ダイブだけは避けようと両手を床に伸ばす。
けれど、私の手が床につく前に銀さんの腕がお腹に回った。
「…何やってんの」
「べ、別に」
と言ってはみたものの、銀さんの顔はにやにやしている。
むかつく、絶対こいつドジだなーとか思ってる顔だ…!
「私のことはいいから!ほら、早く掃除してきてよね!!」
「へいへい」
掃除機のコンセントを抜いて和室へと入っていく銀さんを見送り、私は洗濯物を干しにベランダへと向かった。
手早く洗濯物を干し終えて、こっそりと和室の方へ足を進めてみる。
ゴオオオという掃除機の音と共に銀さんの姿が見え、ちゃんと掃除してるんだなと思い、少しだけ微笑む。
気づかれないように台所へ行き、コップを二つ用意して隠してあったストックのいちご牛乳を注ぐ。
手伝ってくれてありがとう、っていう気持ちをこめて。
「…って良く考えれば和室しか掃除してないじゃん!何誤魔化されてんの私ィィ!」
そうだよ!朝からご飯…は新八くんの当番だったけど、洗い物して他の部屋掃除して洗濯したの私じゃん!
「いや別に久々に銀さんの真剣そうな顔見たからとか、そういうわけじゃ…」
「俺が何?」
突然真後ろから聞こえた声に、心臓が止まるかと思った。
「いっ、いいえ何も!!」
「そうか?なーんか俺の名前が聞こえた気がするけど?」
じーっと顔を見てくる銀さんの視線に耐えられず、目を逸らそうとしたが先に目を逸らしたのは銀さんだった。
「おっ、なんだよ!この前いちご牛乳もうねえって言ってたのにあるじゃねーか」
私の背に隠れていたはずのいちご牛乳を目ざとく見つけて銀さんは微笑んだ。
「コップ二つ、ってことは一緒に飲もうと思ってたのか。可愛いこと考えてんじゃん」
「なっ…別に銀さんと飲もうと思ってたわけじゃないし!さ、定春と一緒に飲もうと思って!」
「なんでそこで定春?」
銀さんのためじゃないんだからと、ばたばた手を振っていたらコツンとコップに手が当たってしまった。
ぐらりと傾くコップを横目に、しまったと思った瞬間。
ぱしっと銀さんがコップの傾きを押さえた。
「おっと危ねぇ。貴重ないちご牛乳が零れるとこだったじゃねーか」
ギリギリセーフーと言ってコップを二つ手に持つ。
「ほら、向こうで飲むぞ。も洗濯終わったんだろ?一緒に休憩しようぜ」
「あ…う、うん」
なんだか考えを読まれているようで、少し悔しい。
そう思いながら銀さんの後を追いかけて居間へ戻った。
「はー、労働の後のいちご牛乳は格別だな!」
「銀さん和室しか掃除してないじゃん」
「俺にとっては労働なんですぅー」
コンと音を立てて空になったコップを机に置く。
そしてぐーっと伸びをして銀さんはふう、と息を吐いた。
「ところでさ、何で横並びで座ってるわけ?」
私も飲み終わったコップを机に置いて、ちらりと横へ視線をずらす。
向かい合うようにソファは置かれているのに、私と銀さんは並んでひとつのソファに座っていた。
「あぁ、それはな」
私の顔を見てふわりと笑い、銀さんはぽすっと私の膝に頭を乗せた。
「こうしようと思って」
下から見上げるようにして目を合わせてくる。
「何勝手に膝使ってんの!ていうか、あれ、パチンコはどうしたの!」
なんだか目のやり場に困り、銀さんの手元を見ながら早口で言う。
「んー。やっぱ今日はといるわ。なんか心配だし」
「し、心配って…別に私危ないことしないけど」
どっちかといえば普段から危ないことしてるのは銀さんの方だろう。
「今日朝から転びそうになったりしてんだろ。さっき結野アナの占いでもお前の星座最下位だったし」
「えっ嘘!?」
あんまり占いとかは信じないけど、結野アナの占いだけは妙に当たるのだ。
「だから、今日はお前の側にいてやるよ。今日一位の俺が側にいりゃ、少しは緩和されんだろ」
視線の先の手がそっと私の頬へ伸びる。
一緒に動いてしまった視線は、また銀さんの顔へと戻った。
「それに、朝俺がパチンコ行くっつったらお前寂しそうな顔してたしな」
からかうような笑顔でそう言われ、かあっと顔に熱が集まる。
「寂しくなんかないし!そんな顔してないって!」
「嘘。してたしてた。銀さん出掛けちゃうのかーみたいな顔してた」
可愛いなーお前は、なんて言いながら銀さんの手は頬をすべる。
本当に今日は考えを読まれてばっかりだ。
「ぎ、銀さんこそ本当は私と一緒にいたかったんでしょー」
悔しさからそんなことを言ってみた。私みたいに慌てるがいい!
「ばーか。俺は今日だけじゃなくて、いつでもと一緒にいたいと思ってんだよ」
言葉に詰まって真っ赤になった私を見て、銀さんはまた笑った。
勝てる気がしない
(「ぎ、銀さんのばか…!なんでそんな余裕なのよ…!」「余裕じゃねーよ。すっげードキドキしてるって」)
あとがき
大人の余裕たっぷりな銀さんとツンデレなヒロイン夢のリクエストでした!リクエストありがとうございました!!
普段子供っぽいというか、マダオな銀さんしか書いていないので大人の余裕にかなり苦戦いたしました。
これ…大人か…?という感じですが、私の書く銀さんにしては大人な方です。(ぁ
でも大人銀さんに挑戦できて楽しかったです!10万打感謝企画にご参加ありがとうございました!
2011/01/30