久々に春雨の戦艦から外へ出て買い物へ行った帰り道。

戦艦を出たときは晴れていたのに、今はぽつりぽつりと雨が降り始めていた。

 

 

「あーもう早く帰りますよ神威団長!」

「えー。やっと日の光が収まってきたのに、もう帰るの?」

「帰ります!濡れるの嫌ですからね!」

 

にこにこしながら私に手を引かれて歩く神威団長。

そんな間に雨は少しずつ強まっていく。

 

 

そもそも神威団長が朝っぱらから私の部屋にやってきて、

「ロールケーキが食べたい。ねえ、君も一応女の子だからそういう店詳しいでしょ。連れてってよ」

なんて言い出したのが始まりだ。

 

一人で行ってこればいいものを…なぜ私まで…!

まあ、今日は神威団長がお金負担してくれるって言ったから連れてきたけど。

 

 

「お目当てのものは買ったんですから!早く帰りましょうよ!濡れるの嫌です!」

なんでこの人はなかなか帰りたがらないんだ。

 

「そんなに濡れるの嫌なんだ?」

「当たり前です!」

ケーキの箱を濡れないように守りながら神威団長を振り返ると、ぐいっと繋いでいた手を引かれた。

 

 

その手が離れたすぐ後、頭上がフッと暗くなった。

 

 

「仕方ないから、入れてあげるよ」

「え」

頭の上に広がる深い紫色の傘。

ぽつ、ぽつ、と傘に雨が当たる音が耳に響く。

 

 

「あ…ありがとう、ございます」

「うん」

隣を歩く神威団長は、私と同じ歩幅で進んでいく。

あれ、神威団長ってこんなに優しい人だったっけ、なんて思っていると肩にぽつりぽつりと雨が落ちてきた。

 

 

 

「…あの、神威団長。もうちょっと傘寄せてくれないと濡れるんですけど」

「そうしたら俺が濡れるじゃん」

 

前言撤回。

優しくねーわこいつ。

 

 

「どうせならもうちょっとくらい寄せてくださいよ。私のスペース明らかに狭いんですけど!」

「だって俺の傘だし。はおまけみたいなものだから。あ、ケーキ濡らしたら後でシメるから」

「ひえええ」

 

なんてこった。

私はケーキ以下なのか。いや、そりゃ私は濡れても拭けばいいけど…ってそうじゃない!

 

 

「か、風邪引いたらどうするんですか!」

「大丈夫大丈夫。風邪なんて半日で治るから」

「治りませんよ!」

神威団長はときどき夜兎の基準で物事を考えるから困る。

阿伏兎はちゃんと考えてくれるのになあ。

 

 

 

「…そんなに濡れたくないなら、もっと寄れば?」

すっと私の方へ顔を向けて言う。

「え、寄るって、だって」

「濡れたくないんだろ?」

 

 

それは、そうだけど。

あれ、私さっきまで神威団長の手引っ張って歩いてるくらいだったのに。

なんでだろう。今は側に寄るっていうだけでなんだかどきどきする。

 

 

「濡れたいの?濡れたくないの?ねえ、どっち?」

 

濡れたくない。

でも、寄るのはなぜか緊張してしまう。

 

答えられずにぱくぱくと口を動かしていると、神威団長は小さく息を吐いた。

「濡れたいんなら、俺先に帰るけど」

「濡れたくないですぅぅぅ!!!」

ぐるりと神威団長の方に顔を向けて叫ぶ。

同時に傘に溜まった水滴が、ぼとりと私の肩に落ちた。

 

 

「どぅああ冷たっ!!」

「はは、どんな叫び声だよ。さすがはだね」

何がさすがなのかサッパリだが、とにかく私の肩がどんどん濡れていく。

 

 

 

「しょうがないなあ。ほら、持って」

そう言って傘を差し出される。

…濡れたくないなら自分でさせ、ってことですか。そうですか。

 

「しっかり持っててね。あと、俺の肩も濡らさないようにしててよ」

「りょ、了解です」

まあそう言われることは予想済みだ。

 

 

ぎゅっと傘の柄を持つ。

普段私が使っている安物傘と違って少し重い。

 

神威団長と、ケーキと、私を濡らさないように。

…あれ、なんか難易度上がったんじゃね?

 

 

どうやったら上手く雨を防げるだろうと考えていると、ふいに腰にするりと腕が回る。

「うおおおおっ!?なっ、か、神威団長!?」

「うろたえすぎだよ」

にこにこと笑っている神威団長を見ると、そのままぐいっと腰を寄せられ、団長にぴったりと肩がひっついた。

 

 

「な、な、なななな」

「濡れたくないんだろ?」

「で、でもっ、なんでこ、腰っ…」

「だっての肩濡れてるし。肩寄せたら俺の手が濡れるだろ」

 

こんちくしょう。

なんかもうことごとく私のときめきが潰されている気がしてならない。

いや、違う、そもそもこんなデリカシー皆無団長にときめきを求めることが間違っているのよ私!

 

 

「何か失礼なこと考えてない?」

「失礼はどっちですか!」

 

 

はあ、と心の中でため息をついて少し早歩きで進む。

すたすたと足を進めていると、腰に添えられている手にものすごい力がかかった。

 

「ぐえっ、ちょ、何ですか…」

「歩くの早いよ」

にこにこと笑顔を絶やさないまま、神威団長は私の腰に添える手に力を入れていく。

 

「どう考えても神威団長の方が歩幅広いですよね。私遅いくらいですよね。ていうか痛いんですけど」

「あんまり早く歩くと傘から落ちる雨で濡れるんだよ、俺が」

 

 

あくまで自分主義ですかこのやろう。

 

仕方なく歩く早さを元に戻す。

同時に腰に添えられた手に入っていた力も抜けていった。

 

 

 

 

「…折角と2人きりなんだから、そんなに早く帰ったらもったいないだろ」

「へっ?」

 

雨音にかき消されそうなほど小さくこぼれた声。

え、神威団長、そんなこと考えてたんですか。

 

……。

 

 

「…神威団長。折角外に出たので、ちょっと遠回りして散歩していきませんか」

「いいんじゃないの。あ、でも濡らさないようにしてね、俺とケーキ」

「やっぱりすぐ帰りましょうか」

 

 

 

 

 

雨降りの散歩道






(「今度はせめて曇りの日にしましょうよ。傘持つの大変ですし」「別に俺は大変じゃないよ」「私が大変なんです!」)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

7万打設定の神威ギャグ甘というリクエストでした!ありがとうございましたァァ!

夜兎族だと、晴れの日に外出歩けませんよね、っていうことで、雨の日のお散歩になりました。

理不尽俺様なくせにヒロインとデート気分を楽しみたかった神威夢でした。ちなみに阿伏兎は仕事に行きました。(ぁ

2010/06/11