お昼休みが終わるほんの10分前。

「ああああ!」

教室でお昼御飯を食べ終わったあたしは、机の中を探って叫び声をあげた。

 

「何でィ。机の中に洗濯バサミでも仕込まれてやしたかィ」

「違うよ!っていうか何その具体的な例!お前やるつもりか沖田」

ふいと目を逸らしてお茶を飲む沖田をよそに、私の後ろの席である退くんが顔を覗かせた。

 

 

「で、どうしたの?何かあった?」

「さっきの授業の時に…ふ、筆箱を理科室に忘れてきちゃったみたいで…」

筆箱忘れるってどんだけドジなんだあたし…!と少しヘコみつつ、イスから立ち上がる。

 

 

「ちょっと走って取ってくる!」

「俺も一緒に行こうか?」

退くんはお茶やパンの袋を片づけながらそう言ったけど、大丈夫と言って遠慮しておいた。

 

「そこらへんで転んで授業遅刻して良い感じの笑いとってくだせェ」

「絶対時間までに戻ってきてやる」

ギッと沖田をひと睨みして、あたしは退くんに行ってきますを叫んで教室を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

理科室に到着して、筆箱を探す。

目的のものを手に取って時計を見る。次の授業まで、あと4分。

「走らないとまずいかなあ…」

ふう、と一息ついて教室を飛び出そうとした瞬間、教室の扉のレール部分に躓いた。

 

 

転ぶ、と頭が考える前に私の体はドン、と何か床とは違う柔らかいものに倒れ込んだ。

 

「おっと…きみ、大丈夫?」

「え…あ、はい」

驚いて顔を上げると、心配そうな顔をしている男子生徒がいた。

どうやら、あたしが転ぶ前に受け止めてくれたようだ。

 

 

「ってうわあ、ご、ごめんなさい!!」

ばっとその人から離れて頭を下げる。

「ううん、いいよ。怪我がなくてよかった」

にこりと笑う笑顔はとても優しくて、あたしも笑ってもう一度ありがとうと言ってからその場を離れた。

 

 

 

どこかで見たことある顔だと思ったら、多分あれはB組の人だ。

名前は知らないけど、前に図書館で難しそうな本借りてた人…だと思う。

そんなことを考えながら廊下を早歩きで進み、階段への道を曲がった所に退くんが立っていた。

 

 

「うおわっ、びっくりした…!どうしたの退くん」

こんなところで、と言おうとしたけれどそれより早く退くんはあたしの手を掴んで階段を上っていく。

掴まれた腕の強さに驚きながら、引きずられるようにして階段を上る。

Z組の教室は、もう1つ下の階なのに。

 

 

 

 

 

 

 

階段を上り、屋上へ続く扉の前で退くんは急にあたしの方を振り返り、ぎゅううとあたしの体を抱きしめた。

「ちょっ、え、えええ、さ、退くん!?」

思わず手に持った筆箱を落としそうだった。

首筋に顔を埋めた退くんは、小さな声でぼそりと呟く。

 

 

「…ごめん」

何に対するごめんなんだろう、と思うよりも押さえつけられる体が少し痛みを感じてきた。

退くんって、こんなに力強かったっけ…?

 

「ごめん、ちゃん」

「退くん…えと、何のことかわかんないんだけど、とりあえず、ちょっと痛い…」

その言葉にはっとしたように退くんは少し顔をあげて、腕の力を緩めた。

 

 

俯いたままの退くんは、どこか辛そうな顔をしていた。

どうしたのと声をかけようとした瞬間、午後の授業が始まる鐘が響いた。

 

 

「あー…授業始まっちゃってごめん、ってこと?」

「それもある、けど…違うんだ。その…俺が勝手に嫉妬しちゃっただけ、なんだけど…」

ぼそぼそと消え入りそうな声で呟く退くん。

 

「さっき…ちゃんが転びかけた時、俺が助けてあげられなかったことが悔しくて」

ぽつりぽつりと退くんは言葉を紡ぐ。

「俺じゃない、他の男に助けられてるの見たら、なんだかすごく悔しくて」

ぎゅうと制服の胸元を握りしめて退くんは辛そうな顔をする。

 

 

 

「ってさっきの見てたの!?」

「う、うん。やっぱりちゃん転びそうだなって思って心配で…」

まあ実際に転びかけてしまった手前、なんとも言い返せない。

 

 

「そっか。嫉妬かあ」

小さく呟くと、ほんの少しあたしは笑ってしまった。

「そういう理由なら、別に謝らなくていいのに」

「え…」

 

眉根を下げたままあたしの顔を見る退くんの手を取って、にこりと笑顔で口を開く。

「心配してくれて、ありがとう。よく考えればさ、1時間くらいシャーペン借りればよかったんだよね」

なんだか勢いで教室飛び出しちゃったけど。

 

 

「でもおかげで退くんにすっごく愛されてるんだなーってことも分かったから結果オーライかも」

ふふ、と笑うと退くんは一瞬ぽかんとしてから顔を真っ赤にしてうろたえ始めた。

 

 

「今度は、ちゃんと退くんを頼るね」

握った手にもう一度力を込めて、ぎゅうと握り返す。

 

「…うん、もっと俺を頼ってくれていいからね、ちゃん」

そう言って退くんは、さっきと違ってとても優しくあたしを抱き寄せる。

 

 

「…で、授業どうしよう」

「大丈夫だよ。どうせ国語だし」

それはどうせ銀八先生だし、という意味だろうか。

 

 

「やっぱりなんか悔しいから、もうちょっと一緒にいたいんだけど…駄目、かな」

少し控え目にそう言った退くんに、あたしはそっと頷いた。

 

 

 

 

 

 

頼って、守って








(「今度は俺がちゃんを助けるから。ちゃんと傍で守るからね」「うん、よろしくお願いします!」)

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

3Zの退甘夢リクエスト、ありがとうございました!

途中で出てきたB組の人は特に誰ってこともありませんのでお好きなイケメンをご想像ください。

嫉妬ネタは一歩間違うとヤンデレみたいになっちゃうのですが、今回は甘くなるように頑張ってみました…!

少しでもきゅんとしていただければ幸いでございます…!では、リクエスト本当にありがとうございました!

2010/12/20