やたらと賑やかな城下町。

そこのスーパーからは、更に賑やかな声が聞こえていました。

 

 

 

「醤油みっけ!しかもお一人様2本…!」

いつもは1人1本なのに…!今日は店長の機嫌でもいいのかな。

 

買い物かごに醤油を入れて、明日からの献立を頭に浮かべる。

うーん、やっぱり4人家族は大変なんだよねー。

 

 

 

「今日も元気ね、ちゃん」

「相変わらず貧乏生活アルなー」

後ろから声を掛けられ、少し驚きながらも笑顔で答える。

 

「お妙ちゃん!神楽ちゃん!…貧乏生活はお互い様でしょ

「…そうアルな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

買い物かごを手にさげながらお妙ちゃんと店内を歩く。

神楽ちゃんはいつのまにかお菓子コーナーに行ってしまった。

 

 

「ところで。人の事いえないけど、ちゃんはこんなところで買い物してていいの?」

「ん?何で?」

「広告はいってたでしょう?お城の舞踏会」

朝、ちらりと見た広告を思い出す。

 

 

 

「ああ、あれ!うん、みたけど…どうかしたの?」

ちゃんは行かないの?」

「うーん、私は、ね。変わりに兄さん達が」

そこまで言いかけたとき、ばたばたと走る音が聞こえてきた。

 

 

 

 

「姉御ォォ!これもお願いヨ!」

「神楽ちゃん、お菓子はみっつまでよ」

「ち、違うヨ!酢こんぶは私の主食ネ!」

 

「…神楽ちゃん。返してきなさい」

にっこり、という効果音がつきそうな微笑の裏からは物凄い圧力がかかっている…ように感じる。

 

「…りょ、了解アル…!」

 

 

 

 

 

「…それで、お兄さん達だけ行くの?」

「うん。私は醤油の安売りに、兄さん達は城の食料を掻っ攫いに」

「さすが家ね。…ちゃんは行ってみたくないの?」

 

 

 

明日の夕飯は鯖にしようか、それとも鰤にしようか…なんて悩んでるところ、お妙ちゃんがたずねてくる。

…お城かぁ。うーん、色々と設備整ってるんだろうなぁ。

 

 

「行ってみたい…けど、やっぱり堅苦しそうだし。それに備品とかうっかり持ってきちゃうかもしれないし」

高値で売れそうだもん、と続けるとお妙ちゃんは、それでこそちゃんね、と言って笑った。

 

 

 

 

 

お菓子売り場から戻ってきた神楽ちゃんと合流してレジへ向かう。

「でも、あの舞踏会って王子の婚約者決めも含まれてるらしいわよ」

「ん?こんにゃく?」

婚約よ。結婚相手。行ってみたら?上手く行けば玉の輿よ」

ふふ、とお上品に笑うお妙ちゃんはどう見ても私と同じ庶民には見えない。

けど、うちと同じくらい貧乏なんだよね。

 

 

 

 

「でもんトコの兄たちは結婚なんて絶対認めそうにないアル」

「そこよね。多分それで舞踏会にもいかせないように…」

まったく、困った人たちねぇ。

と、近所のおばさん顔負けの会話を繰り広げる私達。

そんなことを喋っている間にレジの順番がまわってくる。

 

 

 

 

 

 

 

買い物袋に醤油を押し込みながら話し合う。

「でも一応時間はあいてるのよね?」

「あいてるよー」

「じゃあ、一緒に行かない?」

「…舞踏会、に?」

お妙ちゃんたちは行く気だったんだ。

 

 

 

 

「…玉の輿?」

「違うわよ。私の弟が働いてるから、冷やかしによ。うふふふふ」

とっても楽しそうに笑うお妙ちゃん。

弟…っていうと新八君かぁ。うーん、真面目に働いてるんだなぁ。えらいえらい。

 

 

 

「それに、一緒に行けば今日の夕飯代が浮くアル」

「よっしゃ行くかー!」

買ったものを詰め込んだ袋を持ち上げて、勢いよく私達はスーパーを出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お妙ちゃんと神楽ちゃんとは待ち合わせをして、家に向かう。

がさがさと鞄をあさって鍵を取り出して、玄関の扉に差し込む。

 

 

……あれ、あいてる。

 

 

って嘘!?ま、まさか空き巣…!?

うちから盗っていくものなんてないのに!

 

 

ぎゅ、と買い物袋…から醤油ボトルを掴み、玄関の戸をあける。

そして、ガチャリ、と戸を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

「ん?やっと帰ってきましたかィ…」

「私の家から物盗ろうだなんてこの、最低野郎ォォオオォォー!!!」

 

ブンッと空気が揺れる音がするほどに醤油ボトルを振るう。

その醤油は見事空き巣?にヒットしたようで、ベチン、と鈍い音をたてたあと、ぐえ、という声が聞こえた。

ちなみに醤油ボトルは少しだけ形が歪んだだけで、無事でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…おっかねー女でさァ…」

「いきなり人の家にいるのもどうかと思うんだけど」

割と早いスピードで復活したこの空き巣さん…もとい、魔法使いさんはだぼだぼと鼻血の滴る顔を抑えて言う。

 

 

「チッ、俺ァあんたのためにここまできてやったんですぜィ」

「別に頼んでないし。っていうかどうやって家はいったのよ」

ちょっと不憫に思えてティッシュを差し出す。

「そんなもん魔法でちょちょいのちょいでさァ」

くるくる、と持っていた杖を振り回す魔法使いさん。

 

 

 

 

「舞踏会へ連れてってあげようかと思いやしてね。女なら憧れるだろィ、城なんてモンは」

「そりゃあ憧れるよ!豪華な食事…綺麗な絨毯…ふかふかベッド…そして、金の山!!」

「…あんたとは気が合いそうでさァ」

 

 

 

 

 

「それで、連れてってくれるの?」

「その準備でさァ。俺は魔法使いなんでね。そのダッセェ格好なんとかしてやろうかと思いやして」

ダッサイ言うな。そういう魔法使いさんも変な服じゃない。センス悪っ」

魔法使いさんは暑苦しそうなマントによく分からない重ね着をしている。

 

 

「…魔法使いさんはやめなせェ。俺ァ総悟でさァ」

「総悟…さん、ね。私は

「知ってますぜ。おめーのことは調べ済みでさァ」

……調べ済み?

 

 

「ここここのストーカー…!!!」

横においてあった醤油を再び掴む。

「違うつってんだろ。俺ァ魔法使いだから何でもわかるんでさァ」

「うーん、魔法使いって…なんかお得な言い訳よね」

 

 

 

 

「チッ、このままじゃ話がすすまねぇ。つーか俺もさっさと帰りてぇんで、そこに準備してある服着ていきなせぇ」

「え、準備してあるの?」

総悟さんが指差した台所の机を見ると、家には縁のなさそうなちゃんとした綺麗な服が置いてあった。

…なんだ、良い人だったんだ。物貢いでくれるなんて!

 

 

 

「あ、そんで12時になったらこの靴片方脱いで王子の顔面に投げつけて帰ってきてくだせェ。そういう設定なんで」

いや無理があるでしょそれ!!っていうかどうやって帰るの総悟さん!?」

「魔法使いは魔法使いらしく…な。じゃ、健闘を祈りまさァ」

 

 

 

そう言ってボンッという爆発音と共に、一瞬にして私の目の前から総悟さんの姿は消え去っていた。

「…と、とりあえず…服は着てみようかな。でも靴投げつけるのは無理かも」

売った方が金になるじゃない、と思いながら私は台所へと向かった。

 

 

 

舞踏会が始まるまで、もう少し。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いざ、戦場…いや舞踏会へ



(正装って動きにくいだろうなぁ…。でも、行くからにはいっぱい収穫してこなくっちゃね…!)


 

 

 

 

 

 

 

あとがき

魔法使いさんは気まぐれです。気が向いたときにふらりと登場します。

2008/1/6