「王子様!一緒に踊りませんか?」

「私が先ですわ!」

「いえっ、王子様、私と…!」

 

 

 

 

「…そういえば舞踏会だったっけ」

「タダ飯会じゃなかったアルな」

「まったく、2人とも…しょうがないわね」

「そういう姉御もタダ飯に釘付けヨ」

 

 

遠すぎてよく見えないけど、王子様の周りには綺麗な女の人が集まっている。

流石、王子。なんて思いながら私達はバイキング式の料理を皿にとっていく。

 

 

 

 

「おーおー、そんなにとってきて…全部食えるのか?」

「食べられない分はタッパーに入れて持って帰りますから…ってうおっ!!」

気付くと横にさっき門で会った銀髪の人が立っていた。

 

 

 

「えーと……ぎ…ぎ…なんだっけ」

「もう名前忘れたのかお前ェェ!!」

「私人の名前を顔覚えるの苦手で…」

そう言うと銀髪の人は、銀さんって呼んで、と言ってきた。

 

 

 

「うーんと、銀さん、ね。…うん、多分もう忘れない!…多分」

「すっげぇ不安なんですけど。そしてすっげぇショックなんですけどちゃん」

お皿を持ってあいている席に座る。

っていうかお妙ちゃんたちいないんだけど!!ど、どこ行ったんだろ…。

 

 

 

「お妙たちなら向こうのほうの料理まで走っていったぞ」

「え、ほんと?…っていうか何当たり前のように隣に座ってるのよ。仕事は?」

ガタガタといすをひっぱってきて私の横に座り込む銀さん。

 

 

 

「仕事は…………ボランティア精神旺盛の新八が引き受けてくれたんだよ」

「絶対嘘だ。サボったなあんた。給料ドロボー…もぐもぐ」

あ、やっぱりお城の料理って美味しい。

コックさんいい腕していらっしゃる…!!

 

 

 

 

「…ほんっとに王子目当てじゃねーんだな、あんた」

「ん」

もぐもぐ、と口を動かしてるのでちゃんとした返事ができない。

王子…王子ねぇ。そういえばこの食事会…じゃなくて舞踏会開いてくれたのは王子なんだよね。

私の家の食費が助かったわけだし…。

 

 

 

 

そう思って王子のほうをちらり、と見る。

 

 

「王子様!」

未だに王子の周りはきゃーきゃーという声で賑やかだ。

でも今いる席からは少しだけ、声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

「……王子、ちゃんと返事してあげてください」

「…めんどくせぇ」

「しょうがないですってば!それか早く婚約者探して…」

 

 

「……あー…お前ら!」

 

 

「何でしょう王子様!」

「一緒に踊りますか!?」

 

 

「………マヨネーズは好きか!?」

 

 

「……えーっと」

「…あの…」

 

 

 

「………王子、皆ドン引きですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…銀さんとこの雇い主、どういう人なわけ?」

「いや俺にもサッパリだ。かなりの味覚オンチであることは確かだな。うん」

耳を澄まさなくても聞こえるほどの声量だったのか。

それともこの場にあまりにもふさわしくない単語だったからか、その言葉はとてもよく聞こえてきた。

 

 

 

 

「顔がいいだけあって、あの言葉は強烈ね」

「そうそう…ってはああいう顔が好みなの!?」

「いや別に好みというか…うーん。よくわかんない」

まだまだ人だかりがあって、ちゃんと姿を見るのは難しそうだ。

もうちょっと近くに……って王子近づいてくるけど。

 

 

 

 

 

「ねぇ銀さん。王子こっち来るんだけど。どうしよう、私逃げたくなってきた」

「あー…俺も逃げたくなってきた」

ガタン、と音を立ててイスから立ち上がって門のほうへ向かおうとする銀さん。

 

 

 

「テメェェまた仕事サボりやがったな!!!」

「げっ。…さ、さぼってませーん。休憩でーす」

「嘘つけコラァァァ!!」

 

 

 

そう叫んだところで王子の飛び蹴りが銀さんにヒットォォ!!

そっか。銀さんからしたら、王子は上司みたいなものか…。

 

 

 

「あぁもう!何してるんですか王子!!」

王子と銀さんが取っ組み合いを始めかけたときに、側近の人…と思われる人が走ってきた。

 

 

 

「ちょっと王子、今日はこんなとこで乱闘されちゃ…」

「黙ってろザキ。今日こそサボってる瞬間見つけたんだ…その首切り落としてやらァァ!!」

腰に刺していた剣を抜き、銀さんの首元に突きつける。

…え、ちょっと待とうよ。私が夕飯食べてる目の前でそういうことされるのは勘弁なんだけど。

 

 

 

 

「オイオイ、今日はまずいんじゃねーの王子サン」

「給料ドロボーが何言ってやがる。毎回毎回上手いこと逃げやがって…」

 

「ちょ、ちょっと…!勘弁してくださいってば!」

 

 

 

大分雲行きが怪しくなってきた。このままでは本当に、大惨事になりそう。

カタン、とフォークをテーブルに置いて、ゆっくり立ち上がる。

 

そして、王子が剣を振り下ろす前に。

 

「喧嘩は…やめんかこのバカ野郎ーーー!!!

ぐっ!?

 

ドカッ、といい音と共に、思いっきり王子の腹に回し蹴りを食らわせる。

 

 

「いい加減にしなさいよ!人が夕飯食べてる目の前で…食欲も半減するじゃない!!」

 

 

…お前、すっげぇな。マジで。かっこいいよ銀さん惚れそう」

「……しまった。蹴るつもりはなかったんだけど、つい」

身分が違いすぎる人に回し蹴り食らわせてしまった。

 

 

「…お前」

ドスのきいた低い声が響く。

「あわわわわ、すすすすみません!!ほんとすみませんでした!!

何を言われるかわかったもんじゃないので、精一杯頭を下げて謝る。

か、金要求されても家にはないわ!かといって打ち首にされるのも嫌!!

 

 

 

「やるじゃねぇか」

「…はい?」

頭の上から降ってきた声は予想とは全く違うもの。

 

 

 

「俺ァお前みたいな強い女の方が好きだぜ。…だが、さっきのお礼はしてやらねぇとなぁ?」

「……あははは」

やっべぇ、殺される。

目が、目がまったく笑ってないもんこの人…!!!

 

 

 

そして私は、唖然としてる銀さんや、まわりの人の間を潜り抜けて、逃走を開始しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王子からの逃亡戦開始



(ああもう!私のバカ!なんか兄さん達の喧嘩を思い出しちゃったせいだよ…!!)


 

 

 

 

 

 

あとがき

ヒロインは王子から逃げ切れるか。…あれ、そんな話だっけ?

2008/1/13