さっきから走りっぱなしな私と銀さん。
戦場を抜け出したはいいけれど、さすがはお城。
「ちょ、門ってまだなんですか!?」
「もうちょいだ、もうちょい」
「そう言って大分走ってない!?迷子じゃないでしょうね!?」
そう叫ぶと、銀さんは一瞬ちらりと目線をそらす。
「…そんなことはねぇよ!」
「迷った!!絶対これ迷ってるよ!!!」
「魔法使いほったらかして逃げるからですぜィ」
…幻聴だったらいいのに。
なんていう願いは、届かないものでした。
「何でいるのよーー!!」
「おま、王子どうしたんだよ!」
小走りになりつつそう言う私達。
「いや、トドメはにやってもらおうかと」
「何でよ!!」
「それがセオリーだろィ。…もうすぐ、12時になりまさァ」
総悟さんは、空を見上げるようにお城の外壁についた時計を見る。
12時…。何かあったっけ…。
頭を回転させ、なんとか思い出そうとする。
今日あった出来事なのに、だいぶ昔のことに感じる。
そのとき、後ろの生垣からガサリと音がした瞬間、隣にいた銀さんにどんっと突き飛ばされる。
「えっ!…ちょ、何!?」
「下がってろ、!」
庭の草むらにしりもちをついたまま、見上げるそこには、
王子が振りかぶった剣を、自分の剣で押さえつける銀さんがいた。
「オイオイ…王子が、こんなことしてていいのかよ!」
「最近執務ばっかりで体が鈍ってなァ…!」
キンッ、ガキンッと剣の合わさる音が響く。
不謹慎かもしれないけれど、月に照らされる2人は、なんだかかっこよく見えて。
「…って何してんのよ!!危ないでしょうが!!」
「いやー、久々にこんな景色みれやした。今回の作戦は成功ですねィ」
いまだ座り込んだままの私の横で楽しそうに言う総悟さん。
「あんた魔法使いでしょ!なんとかしなさいよ!」
「えぇー」
「えぇーじゃないわ!!」
そう言った瞬間、ガチリ、という時計の針が動く音が響いた。
時刻は、11時58分。
「、時間ですぜィ」
「いやだから、なんなの」
「…忘れたんですかィ。靴片方脱いで王子の顔面に投げつけろ、って言ったじゃないですかィ」
「そんなこと…!」
…そういえば言われたかもしれない。
いや、でも無理でしょ。それこそ打ち首モノだからね!!
また、時計がガチリと音を立てる。
時刻は、11時59分。
「…でっ、できない!」
「何ででさァ。惚れでもしやしたかィ」
にやりと笑う魔法使い。
月に照らされて、その笑みはいっそう、おそろしいものに。
「違う。身分が違うでしょ!そんなことしたら指名手配犯になっちゃうじゃん!」
「そこまでスッパリ断るたァね。さすがでさァ」
そう言って魔法使い、総悟さんはしゃがんで私の耳元でこう言った。
「さすが、俺が今回の主役に選んだヤツでさァ。…少々予定は狂いやしたけど…楽しかったですぜィ」
「…ってやっぱりストーカー…!」
「靴は投げてくだせェ。そのかわり、あんたの命は保障してやらァ」
「よしきた」
ぎゅ、と手を握り締めて立ち上がる。
今だキンキンと甲高い音を響かせている二人を見据えて、両手に靴を。
「…おい、なんでお前ェ両手に…」
「喧嘩両成敗ーーーー!!!」
ガンッ、ガツンッ、と鈍い音が響く。
そして12時を告げる時計の鐘の音が重く響いた。
「…ほんと、あんた…はすげぇや」
ドサッと2人が倒れた音と重なって、魔法使いさんがそう言ったのが聞こえた。
「…で、どうなってんのよこれ」
12時を告げる鐘が響き終わったとき、私の着ていた服は、普段着ているようなものに変わった。
つまり、城にいるには場違いな感じに。
「いや、さすがに魔法使いでも無から作ることはできねぇんでさァ」
「なおさら早く帰らなきゃならないじゃないの!でも靴投げちゃったから帰れないじゃない!」
別に靴は消えたわけじゃない。
…靴の横には、頭を押さえて唸る二人の男がいるわけで。
「とってこれば」
「無理にきまってんでしょうが」
「…別に、両方投げなくてもよかったんですけどねィ。王子にさえ当てれば」
けろりとしてそう言う総悟さん。
そういうことは早く言え!
「ま、しょうがねぇや」
すたすたと2人の傍に歩いていく総悟さん。
「旦那。王子は俺がトドメを…いや、なんとかしておきやすんで、のこと頼みまさァ」
「いっててて…それどころじゃねぇよ頭が」
「まぁまぁ。あぁこれ、の靴」
「靴?何でこんなとこに………っておい」
「細かいことは気にしねぇでくだせェ」
「…はーい」
そんな会話を遠くで聞いていると、頭をさすりながら銀さんが寄ってきた。
「ほい、お前の靴お届けにまいりましたー」
「す、すいません…っていうかそんなに痛かったの?」
「あったりめーだっつーに。…まぁあいつよりはマシだろーがな」
思いっきりヒールが衝突してたし、と言いながら銀さんは私の靴を地面に置く。
「んじゃ、もう日付も変わっちまったみてーだし…家まで送ってやるよ」
「また迷ったり…」
「しねぇって。さっきは、ほら、急いでたから」
言いながら銀さんは、私の手を握って引っ張り進みだした。
…家に帰れば、またいつもの日常。
普通にもどるだけ。
なのに、私は心のどこかで、戻りたくないと、感じていた。
「そういえば、服変わってねぇ?」
「遅ッ!!」
長い長い1日の終わり
(…楽しいと、そう感じてるんだろうか。ずっと、あの人と一緒にいたいと。…そんな、こと、あるはず…)
あとがき
実際のシンデレラは裸足で帰ったんですよね。足の裏怪我しなかったんでしょうかね。
2008/2/2