夜の町は暗く、少しだけ不気味な感じがするのに、今日はそんな気持ちにはならなかった。

むしろ、世界が切り離されたように、ここだけ別の空間のような。

 

…って何ちょっと哲学的なこと考えてるんだ自分!

 

 

 

そんなツッコミを心の中でしていると、私の家が見えてきた。

 

「あ、銀さんあそこです、私の家」

「へぇー。そこまでボロい家じゃねーじゃん」

「見た目だけですって………あれ?」

 

 

誰もいない町に、ぽつりと人影がみえる。

しかも私の家の前。

 

 

「…辰馬、兄さん…!?」

「おお、やっと帰ってきただかー」

へらりと見てるほうが力の抜ける笑顔で言う兄さん。

 

 

「な、なにしてんのこんな外で!!」

「いやーそれがのう、帰ったらがおらんからどうしたもんかと」

「あ、あわわわ、ごめんなさい!!!」

ちょ、なんとかなってないじゃないの魔法使いィィ…!!

 

 

 

「そげん心配せんでも、今ヅラが暴れとる晋助をなだめとるからの」

「うわぁ…でも、今帰ったら質問攻めね」

「大変な家だなオイ」

それまで黙っていた銀さんが私の横で呟く。

 

 

 

 

も男連れて帰るようになっただかー」

「いや、違うって。送ってもらっただけだって」

「…そうは見えんけどのぅ」

 

「…え?」

 

 

笑顔こそいつもと同じだけれど、その声色はいつもと違う…気がする。

そう思った時、辰馬兄さんは懐から黒く光る銃を取り出し、銃口を銀さんに向けた。

 

 

「って、ちょっと…兄さんッ!?」

「ちょっと聞きたいことがあるだけじゃき、心配いらんぜよ」

いや、聞きたいことあるんだったら普通に聞きなさいよ、と言いたかったけど、いえなかった。

 

 

 

だって、そう言った辰馬兄さんは、笑ってはいるものの、真剣な目をしていたから。

 

 

 

 

はうちの大事な一人娘じゃからの。そう簡単にはあげられんぜよ」

「兄さん………ってえぇぇぇえ!?何か壮絶な勘違いしてない!?

 

普段と違ってちょっとかっこいい顔して何言い出すのよ!

そう叫ぼうとしたのを銀さんがすっと腕を伸ばしてとめる。

 

 

 

「ぎ、ぎん…」

「そーだなぁ。んじゃ、本人の意思を聞いてみようじゃねぇか。なぁ

 

 

 

「って銀さんまで!」

「いいのか?このまま、元にもどって」

「…っ…」

 

 

 

さみしい。

一瞬その言葉が頭をよぎる。

 

 

 

 

「……わ…私は…」

「もう俺と会えなくなってもいいのか?」

「…それは…」

 

 

どくんどくんとうるさいほどに心臓が音を立てる。

 

 

 

「…俺はともう会えなくなるなんて嫌だね」

ぽつりとそう呟いて、銀さんは私のほうを振り向いて、一言。

 

 

「好きだ、

 

 

 

「…っ、……!?」

息が、つまる。

好き?私を?…す、き?

 

 

「城の門番なんざ辞めてやらァ。これからはお前に仕えてやる」

「仕える!?」

私は一般人で、そんな立派な身分じゃない。

 

 

「俺の傍にいてくれませんか」

私ほどではないけれど、銀さんの顔はほんのりと赤く染まっていた。

 

今度は、頭で考えるよりも先に口が開いていた。

 

 

「…い、たい。一緒にいたい。銀さんといるの、すごく楽しいの!もっと一緒にいたいよ!」

 

 

 

「よっしゃ!王子だろうが、魔法使いだろうが、誰からでも俺がお前を守ってやる」

にっこりと笑ってそう言った後、銀さんは辰馬兄さんを振り返る。

 

 

「そういうことで。妹さんの了承もバッチリだけど、どーですかお兄さん」

「…がそげなふうに笑うのを久しぶりに見た気がするのう」

「兄さん…?」

「楽しそうにじゃのぅて、幸せそうに笑うのを、のぅ」

 

 

ふぅ、と一息ついてから構えていた銃をおろす。

 

 

「今日はあいつらも荒れとるから…明日改めて挨拶に来るとええ」

「了解。…ありがとーな」

泣かせおったら命はないとおもっときー」

「…努力しまーす」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家から離れて町をふらふらと歩いていると、銀さんがふいに口をひらいた。

 

 

「…んで、告白の返事は?」

「え?あ…ええっと…?」

「俺まだに好き、って言ってもらってねーんだけど」

 

 

 

残念ながら今まで惚れた腫れたの話題からは遠いところにいたわけで。

銀さんが言っているのは、私が兄さんを好きっていうのとは違う感情。

 

…これは、今私が思っている"好き"は、どれ?

 

 

 

 

「好き…だけど、わ、かんない。多分銀さんとは違う、好き…だと思う、今は」

「…そっか。は箱入り娘だろうし。恋なんざしたことねーから分からないんだろ」

「は、箱入り!?違っ…」

「あーあー、違うな。箱入れられ娘か」

「ち……がわないかもしれない」

確かに兄さん達は過保護すぎる部分があったりなかったり。

 

 

 

「ま、そのうち分かるさ。…近いうちに、きっとな」

「そうかな…」

「突然、気付くって。銀さんが好きで好きでたまらないの!銀さんのことしか考えられないー!ってな」

「それはない」

「そんなキッパリ言わないでくれる…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…で、いまからどこいくの?」

 

 

ふらふらと月明かりに照らされた夜の街を歩く私たち。

街の人の大半は、未だにきっと城にいるだろう。

そのせいか、町はいつもよりも人気が無く、静かだった。

 

 

 

「…考えてねぇ」

「ちょっとォォ!!もう日付かわってるし、なんかもう眠いし!あ、あそこに宿あるから!」

考えてみれば今はもう12時を回って大分たっている。

 

 

 

 

「うーん、宿かぁ…そうだな。うーん、頑張れ俺の理性」

 

「何ぶつぶつ言ってるのー!?早くきてってば!」

 

「あーはいはい。……頑張れ、俺」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これから知る、その感情



(その感情を知るのは、きっと近い未来。たった一日にして私の日常は変わった。シンデレラの恋のように)


 

 

 

 

 

 

 

あとがき

最終回。お付き合いくださり、ありがとうございました!

坂本さんの土佐弁がかなりエセな感じでほんとすいません。

2008/2/9