お昼を過ぎてしばらく時間が経ち、休憩をはさみたくなる時間帯に真選組屯所の廊下を一人の女性が歩いていた。

両手に抱えた書類を落とさぬよう、片手と体で支えながらがらりとある一室の戸を開ける。

 

 

「土方さん、報告書持ってきましたよー……っていないし!!」

 

思わずノリツッコミをした彼女、はこの真選組屯所の紅一点の隊士だ。

与えられた仕事をきちんとこなす優秀な隊士として、土方からも信頼を受けている。

 

そのおかげで雑務が色々回ってきてしまうのだが。

 

 

 

「もー、せっかくあの沖田隊長にも報告書書かせてもってきたのに…」

とりあえず綺麗に整頓されている机の余白部分に書類を置き、風で飛ばないよう側にあった本を重石代わりにした。

 

「勝手に置いてっちゃまずいよね。なんだこれ、ってなりそうだし」

どうしたものか、と心の中で呟いてはその場に座って机に頬杖をついた。

重石代わりにした本を挟むようについた頬杖は知らぬ間にずるずると下がり、静かには顔を伏せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日は傾き、空の色が赤く変わりつつある頃。

見回り後に屯所内でダレている隊士に渇を入れてきた土方は隊服のポケットから煙草を出しながら廊下を歩いていた。

自室の前で煙草を口に咥え、右手で戸を開けながら左手でライターを弄ろうとした時。

 

 

「……あ?」

自室に、人がいる。

思わず部屋を間違えたかと思い部屋の中を見回すが、家具の配置からしてもここは土方の部屋だった。

 

 

自分の気配に気づいていないのか、ピクリとも動かないその人物の傍に寄って土方は咥えていた煙草をぽろりと落とした。

「なっ、!?」

なぜここに、と驚きつつ落としてしまった煙草を拾い、ひとまず机の灰皿に乗せる。

 

 

「お前こんなとこで何やって…って、なんだ、寝てるのか…?」

机に突っ伏しながらも顔だけは横を向くの顔を覗きこむ。

すうすうと小さな寝息を立てる彼女をしばらく見つめ、ハッと我に返る。

 

 

「ったく、こんな所で寝てんじゃねーよ」

困ったような声音で呟いて彼女の頬にかかる髪をそっと手で払う。

その時の下に、明日までに仕上げるように頼んだ書類が積まれているのが見えた。

 

 

「…どうせまた睡眠時間削ったんだろうな」

爪の垢でも他の奴らに飲ませてやりたい、と思いくすりと笑った時に土方の手が少し揺れた。

するりと頬を滑っていた手の甲がそっと彼女の唇を掠める。

 

 

う、っと声にならない声が土方の喉から零れる。

ドクンと一気に体に血液が回ったような感覚に陥り、土方はバッと彼女から距離をとった。

 

 

 

 

 

「ん、んん…?あれ、土方さん…?」

の睫毛が揺れてまだぼんやりしているのであろう両目が土方を捉える。

「っ、ああ、そう、だ」

何をうろたえているのだと自分に問いかけながら土方は未だまどろみの世界に片足を突っ込んでいる彼女を見る。

 

 

「…え!?土方さん!?あれ、私…あれっ」

やっと頭が覚醒したのであろうがきょろきょろと部屋を見渡し、自分の現状を確認する。

「そっか…報告書持ってきたんでした、あの、すみません勝手に寝ちゃって」

すっと立ち上がって頭を下げるに土方は気にするなと宥めた。

 

 

「まだ期限はあったんだ、寝る時間削るほど無理するにはまだ早いだろ」

「う…でも、早い方がいいかと思いまして…って寝る時間削るのは確定なんですか」

むう、と声に不満の色がまざった。

くくっと土方は笑っての髪を輪郭に沿うようにして一撫でする。

 

「ま、は睡眠時間削らない方がよさそうだな。どこで寝ちまうかわからねーみたいだし」

からかうような口調で笑った土方に対して目を見開き、一瞬にして再び焦りの表情に戻る。

 

 

「そ、その、今日は本当にすみませんでした!」

再び謝罪の言葉を口にして、部屋を後にするべく土方の横を通り過ぎようと足を踏み出した時だった。

 

 

 

「あ、わっ!」

 

ガッと躓き、体のバランスを崩したを支えようと土方はとっさに手を伸ばした。

倒れ込んできた体を抱きしめるような体勢で支え、土方はふうと息を零す。

 

 

 

「…っと、危ねえ。つーかお前今、自分で自分の足に躓…」

「いっいいい言わないでください!!!」

顔を赤くして土方から離れたは後ずさるようにして土方と距離をとる。

 

 

「ほんと、すいませんでした!でも…さ、支えてくれてありがとうございました!」

わたわたと慌てながらは部屋を飛び出すようにして出て行った。

 

 

 

「…しっかりしてるようで抜けてる所もあるんだな」

くすりと笑って彼女の背を見つめる彼の眼は、鬼の副長なんて呼ばれている人物と思えぬほど優しかった。

 

 

 

 

 

 

素顔が垣間見えた瞬間










(あああ!恥ずかしい、寝顔晒しちゃったことも転びかけたことも、土方さんの笑顔にどきっとしちゃったことも!)

 

 

 

 

 

 

あとがき

「部屋でヒロインが待ちくたびれて寝てるのを発見してドキッな土方甘夢」というリクエストでした。

リクエストありがとうございました!頂いたシチュエーション設定だけでもドキドキしちゃいました。

甘いというかほのぼのチックになってしまったような気もしますが楽しんで頂けたら幸いです!

2012/09/22