真選組の一日は忙しい。

朝稽古からはじまり見回りや書類仕事に部屋掃除、だがそれを終えた後の風呂は極楽のように感じる。

ちなみに屯所に女隊士は私しかいないためお風呂はみんながご飯を食べている時間帯に入るのが決まりだ。

つまり、私はお風呂の後に夕飯、他の人たちは夕飯後にお風呂といった順番になるのである。

 

 

 

そしてゆったりとお風呂とご飯を終えた今から、もう一仕事。

ぺたぺたと裸足で屯所の廊下を歩き、向かう先は退くんの部屋。

戸を前にして中から聞こえる声を聞いた私はすっと息を吸う。

 

 

 

 

「揃ってるね皆の衆!では、ただいまより沖田隊長にぎゃふんと言わせよう作戦会議を開始する!!」

 

 

「いや、皆の衆て3人しかいねーよ」

「出鼻くじかないでください土方さん」

初っ端からツッコミをいれられ、勢いを削がれながら退くんの部屋の戸を閉める。

既に座っている土方さん、退くんとで三角形をつくるように座る。

 

 

「あの、さん、なんで俺の部屋なんです?」

「一番綺麗に片付いてそうで尚且つ一番空気が綺麗そうだったから。あ、私の部屋も綺麗だけど男入れたくないんで」

誤解されるわけにはいかないのでちゃんと注意をしておく。

 

 

「土方さんの部屋は片付いていそうですけど、なんかこう…煙草とマヨネーズの香りが漂っていそうで」

「いいじゃねーか、マヨネーズ」

「よくねーよ」

思わずツッコミが退くんとカブった。上司にタメ口利いちゃったよ。

 

 

 

 

 

 

「チッ、まあいい。さっさと本題に入れよ」

「おっとそうだった」

ごほんと一度咳払いをして喉の調子を整える。

 

「ここ数日で悪化してきている沖田隊長の攻撃…もとい仕掛けに対抗する手段を考えたいと思います」

報告されている例としては、部屋の前にバナナの皮が敷き詰められている、お茶がめんつゆにすり替えられる。

マヨネーズが屯所内に隠される、靴の中にタワシが詰め込まれている…。

 

「あとは報告書書いてる最中に邪魔されるとかですね。ちなみにほとんど土方さんが被害者です」

被害の例を挙げると、土方さんは重いため息を吐いた。

 

 

「でも俺はそこまで被害に遭ってないような…」

眉間にしわを寄せる土方さんを横目に、ぽそりと呟いた退くんをちらりと見る。

 

 

「退くんが愛用してた湯呑が昨日忽然と姿を消したのは沖田隊長のせいです」

「えええええ」

勢いよく顔を上げて、あの湯呑お気に入りだったのにと叫ぶ退くんの肩にポンと手を乗せる。

 

「ちなみに土方さん抹殺の儀式の生贄になりました」

「ちょ、え、どういうことなの!?」

「加担したのかザキ!」

「ちょっ、違いますってばうわああああ」

ナイスバックドロップ!と二人の取っ組み合いを見ながら叫ぶ。

 

 

 

 

「なるほど、あの呪いが成功しなかったのはが見てたからだったんですねィ」

 

 

「どぅわッ!お、おき、おきたたたた」

突如背後からかかった声にびっくりしてその場から飛びのく。

土方さんは眉間にしわをよせ、退くんは私と同じような驚愕の表情をしていた。

 

「誰がおきたたたただ。たが多いでさァ」

「びっくりしたんですよ!!」

当然のように私と土方さんの間にどっかりと座りこむ沖田隊長。

くっ、今日の議題の本人が来てしまうだなんて…!

 

 

 

 

「おい総悟。今日はこの時間帯、外の見回り当番だろ。なんで屯所にいるんだ」

「えっ」

ぽかんとした表情で土方さんに目をやった後、くるりと顔をこっちに向ける。

 

 

「…、代わってくれるって」

「言ってませんよ。絶対言ってません」

「もしかして忘れてたんですか」

退くんの言葉に目を泳がせる沖田隊長。うん、それが大正解なんだろう。

 

 

 

「今からでも行ってこい!」

「まあまあ、何かあったら通報入るでしょうし。そうそう毎日事件なんておこりやせんよ」

「通報が来る前に未然に防ぐのが仕事だろーが!!」

ちゃき、と刀を抜こうとする土方さんを退くんが慌てて止める。

 

「ややややめてください副長!俺の部屋で殺人事件なんて勘弁してくださいー!」

なんとか刀を鞘から抜かせないように奮闘する退くんを見ていると沖田隊長がそっと耳打ちするように言う。

 

 

「嫌ですねィ、あれが最近の若者ですぜ。すぐ何かあると刀抜いて」

「困っちゃいますよねー。何事も刀持ち出せば済むとでも思ってるんですかね」

「なんで団結してんだてめーらァァァ!!」

「あ、ついうっかり」

 

てへっ、と付け加えたら土方さんに怒られた。

でもそのおかげで怒気は収まったようだ。

 

 

 

 

 

「で、何やってんでさァ。修学旅行ごっこですかィ」

「だったら枕投げしてるに決まってるじゃないですか」

「あとはしりとりですかね」

なんやかんやでノリ良いな退くん、と心の中で呟く。

 

 

 

「お前らは小学生か」

「考えが甘いですよ土方さん!私たち大人もしりとりします!」

「素振りの最中とか口が暇ですもんね」

「猫にひっかかれて死ね土方」

「さりげなくしりとりしてんじゃねーよ!」

つーか素振り稽古中に遊ぶな、と土方さんからお叱りをうける退くんを眺める。

 

 

 

 

 

「はあ、もうお前らと付き合ってると取れた疲れが戻ってくる」

「奇遇ですねィ、俺も土方さんといると疲れが溜まってきやす」

「なんでだ」

お前一番フリーダムだろうが、とツッコミ返す土方さんからここぞとばかりにコソコソと距離をとる退くん。

ほんと見てると面白いなこの人たち。

 

 

 

「今度からはお茶とお菓子も用意しよっか」

「ですね。…って待ってさん、絶対零れる!絶対お茶零れるしお菓子散らかる!」

「確かに」

またしても刀に手をかけそうな土方さんをちらりと見る。

どうしたものかと退くんの部屋を見渡すと、あるものが目に入りピンと閃いた。

 

 

 

「土方さん沖田隊長、退くんが困ってるんで刀じゃなくてコレで戦ってください」

ぽんとふたりの手に紙製のハリセンを手渡す。

 

 

「…、なんでお前こんなの持ってんだ」

「持ち歩いてるみたいな言い方しないでくださいよ!即席で作ってあげたんです!」

世話がやけますね!と言うと即行でスパーンと頭を叩かれた。

 

 

「酷い!土方さんの鬼!」

「成敗!」

私が叫ぶのと同時くらいに、土方さんの背中からバッシィーンというさっきと比べ物にならない音がした。

 

 

「痛ェだろーが総悟ォォォ!」

「油断してる方が悪いんですぜ」

ニヤリと笑う沖田さんはブンッと風邪を切る音が鳴るほどの勢いでハリセンを振る。

 

 

、俺の後ろに隠れておきなせェ」

「あれっ沖田隊長がかっこよく見える…目悪くなったのかな」

「しばかれたいんですかィ」

パシンパシンと自身の掌にハリセンを打ちつけながら狙いを変更しようとする沖田隊長。

首を左右に振って否定しておいた。

 

 

 

「隙ありッ!」

「っと、甘いですぜ土方さん!」

バッシィィィンとハリセン同士が当たる音が耳に響く。

背後から叩こうとした土方さんのハリセンを受け止めた沖田隊長が反撃を開始する。

紙製とは思えないほど重い音を立てながら私と退くんは二人の攻防を眺める。

 

 

 

 

 

 

「…で、何しに集まってたんだっけ」

「もう忘れました」

 

 

 

 

 

蛙鳴蝉噪








 

(「ところでさん、あのハリセンって」「そこに置いてあった報告書用紙は犠牲になったのだ…」「……」)

 

 

 

 

 

 

あとがき

「蛙鳴蝉噪をテーマに真選組ギャグ夢」というリクエストでした。ありがとうございました!

リクエスト頂いた時に漢字読めなくて調べました。おかげでひとつ賢くなりました、ありがとうございます。

作戦会議とはなんだったのか、状態ですが会話のノリを楽しんでいただけたら幸いです!

2012/11/17