「じゃあ、行ってくるからな」
「うん。行ってらっしゃい!あんまり怪我しないでよ」
「…努力、する」
少し視線をそらして言う。
「夕飯までには戻るから、それまで我慢してろよ」
「わかったわかった。お兄ちゃんこそ私がいなくて泣くんじゃないぞー!」
「くっ、努力する」
「いやそこは「泣くわけねーだろバカ!」とかにしてほしかったんだけど!」
そんなやりとりをして、お兄ちゃんを見送る。
あれで結構強いらしいからなぁ。家と、向こうじゃ違うのかな。
静かに玄関の戸を閉めて、台所へ戻った。
風呂敷におにぎりを包んで今日もいつもの丘へと向かう。
天気もよくて遠足日和!って感じ。
丘に着くと、いつもと同じ景色が迎えてくれる。
まだつぼみの花もあるけれど、十分綺麗な景色だった。
木陰に座って、空を見上げる。
もうすぐお昼時だな、なんて思いながら、ゆっくりと目を閉じた。
「おーい。お嬢さん」
真っ暗な視界の中、声が聞こえる。
「こんなとこで寝てるとあぶねーよー」
「…ん……うおわっ!?」
目を開けるとかなり近いところに男の人の顔があった。
「見かけによらず、男らしい叫び方するなァ…」
そう言って男の人は少し離れて頭をかく。
「え、あの…何か御用ですか?」
「いや別に用ってことはねーんだけど…その、それ、飯か?」
ちらりと見た目線の先は持ってきたおにぎり。
「…一緒に食べます?」
「遠慮しないよ、俺」
「いいですよ。ちょっと今日作りすぎちゃったんで」
「うめぇぇええ!」
「いや、普通のおにぎりなんで誰でもできますよ」
「そんなこたァねーよ。マジ美味いからこれ」
がつがつと美味しそうに食べてくれると、作ったこっちとしても何だか嬉しいものがある。
私ももぐもぐと口を動かしながら、横の人の腰にぶら下がる刀を見る。
「もしかして、攘夷志士…さんですか?」
「そーそー。よくわかったなー。俺ね、坂田銀時っつーの。よろしく!」
「坂田、さんですか」
「あー…うーんと、銀ちゃんって呼んでくれるといいんだけどな」
ほっぺについたご飯粒を取りながらそういわれる。
いや、それ初対面で言う呼び方じゃないよね。
「名字さ、呼びなれてねーんだ。だから銀ちゃんって呼んで?」
にこにこ、というよりも、へらへらと笑いながらそう言われる。断る理由も見当たらない。
「…じゃあ、銀ちゃん」
「敬語も使わなくていいからなー」
「は…う、うん。あ、私は…、っていうの」
初対面で敬語じゃない、っていうのはなかなか難しい。
うっかり気を抜くと敬語になりそう。
「はいつもここにいんの?」
「うん、大抵はね。坂田さんは…」
「銀ちゃん、って呼んでっていった」
むすっと膨れるさか…銀ちゃんは、なんだか子供っぽくて、可愛かった。
「銀ちゃんは…やっぱり、戦争に出てるの?」
「おう。これでも結構強いんだぜー!」
へらりと笑うその顔からは、冗談なのか本気なのかがわからない。
けど、きっと本当なんだろうな。お兄ちゃんもあれで強いみたいだし。
人は見かけによらないんだよね。
「何か今失礼なこと考えてなかったか?」
「かっ、考えてないよ!凄いなーって思っただけ!」
「…凄い、か」
ふいに銀ちゃんは遠くを見つめながら呟いた。
「銀ちゃん?」
「強いっていっても…俺は…」
すっと目を細める。
「(…助けられなかった。殺すことしかできなかった。)」
「…銀ちゃんたちのお陰で、私たちみたいな戦えない人は生きていられるんだよ」
ぎゅ、と手を握ってゆらゆらと揺れる花を見ながら言う。
「私は感謝してるよ。凄いって思ってるよ。…だから、ありがとう」
村の人たちはきっと、そうは思っていないんだろう。
彼らの戦場が近い所為で、村にまで影響がこないか心配で、怖いんだ。
私の考えはそれと逆。彼らのお陰で、村はなんとかなっているんだろうなって思う。
「…お前、変わってるって言われねぇ?」
「あはは。結構言われる」
そう言って、私たちは2人で笑い合っていた。
「なぁ、明日もここに来るのか?」
「うん、雨じゃなかったらね」
「俺もまた、来ていいか?」
銀ちゃんは頭をかきながらそういう。
頭をかくのは銀ちゃんの照れ隠しの癖なのかな。
「もちろんっ!今度はちゃんとお弁当作ってきてあげようか?」
「マジでか。頼むぜ!向こうって男ばっかりだから、こういう手料理なんてなかなか食えねーんだよ」
にこにこと笑う。
なんだかみてると私まで笑顔になってしまう。
「じゃあ約束ね。明日の…今日と同じ時間にここで待ち合わせ!」
「ああ。楽しみにしてるからな、弁当!」
「そっちかよ」
鍵をあけて玄関の戸をあける。
「ただいま」
いつもは虚しく感じるのに、今日はそんな気がしなかった。
むしろ、早く夜になって、そして明日になればいいのに、なんて思っていた。
夕飯の支度が終わりかけた頃、玄関の戸の開く音が聞こえた。
「ただいま、」
「おかえりお兄ちゃん!」
「…なんだ、いいことでもあったのか?」
お兄ちゃんは台所へ来るなりそう言った。
「えっ、わ、わかるの?」
「いつもより声が明るいからな」
お皿を机に並べながら言う。
「えへへ、新しいお友達ができたんだー」
「男か」
「……女の子でーす」
「なら、いい」
…ごめんね銀ちゃん。
そう心の中で謝って、明日のお弁当の献立を考えていた。
不思議な友達ができました
(攘夷志士さんだから…栄養に気をつけなきゃいけないよね。よし、明日のお昼も気合入れるぞー!)
あとがき
ちょっぴりシリアスから脱出。そして銀さん登場。
2008/4/12