いつもより、少しだけ早く目が覚めて、窓の外を見る。

今日も空は青く綺麗だった。

 

 

 

「お兄ちゃーん…起きてるー?」

なるべく静かに、小声で戸をあける。

「起きてるぞ。どーした、こんな朝から」

 

 

「あ、あのさ…お弁当とか、作ったら持って行く?」

「……も、持って行く」

「!じゃあ今から作ってくるね!」

 

聞いたときはかなりびっくりしてたみたいだけど、良い返事をもらえた。

今までは向こうへ行きっぱなしだったけど、今は毎日帰ってきてくれるからお弁当も持っていける。

 

せめてもの、私からの応援がしたかった。

 

 

「……さすが俺の妹。くそ、可愛いな…」

 

 

部屋でひとり、お兄ちゃんが呟いていることもしらずに、私は台所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気をつけてね」

「ああ。…戦はなくても、安全じゃねーんだからな。も気をつけろよ」

「うん、大丈夫大丈夫!」

にっこりと笑って見送る。

 

 

「さて、と」

出掛ける準備をしなくちゃ。

約束の時間まで、あと少し。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

丘への道を、全力で走る。

ただ、今日はいつもと状況が違う。

 

「…はあっ、はあっ…」

時々後ろを振り返りながら、丘を目指して、逃げる。

 

私は偶然出くわしてしまった天人に追われ、走って逃げていた。

両腕で、作ったお弁当が落ちないように。

 

 

息が切れて、足がもつれてきたとき、ガサッという草の揺れる音と共に、きらりと光る刃が見えた。

「…っ!」

ソレは、まっすぐ、私のほうへと向かってくる。

叫ぼうにも声がでない。

乾いた喉からは、粗い息の音しか聞こえない。

 

…助けて、お兄ちゃん…!

 

 

 

心の中で叫んでぎゅううっと目を閉じる。

けれど来るはずの痛みは無く、ガキィンッという、刀のぶつかる音が聞こえた。

 

 

「まったくよォ、一般人に斬りかかってんじゃねーよ」

 

 

場に合わない、ふにゃりとした声が聞こえて、目を開ける。

 

「ぎ…銀、ちゃん…」

「大丈夫か。…あー、もうちょっと目ェ閉じてろ。そんで耳も塞いでてくれるといいんだけど」

「わ…わかったよ」

 

言われたとおり、ぎゅっと目を閉じて耳を塞ぐ。

世界から隔離される。

 

「…命拾いしたと思え。今は…血ィ流すわけにいかねーんだよ」

 

かすかに、刀の音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

ー。もう大丈夫だぞー」

ゆさゆさと肩を揺さ振られて目を開ける。

「銀ちゃん…なんでここに?」

「なーんとなく嫌な予感がして。俺の昼の危機かと思って」

「はいはい。お弁当はちゃんと死守しましたよーだ!」

「よっしゃ!」

 

へらりと笑う。

実はさっき、一瞬目を開けてしまっていた。

 

そのときに見えた銀ちゃんの表情は、とても冷たくて、少しだけ、こわ、かった。

 

 

 

 

 

「あの……助けてくれてありがとう」

私の前を歩き出した銀ちゃんの服のすそを引っ張って小さな声で呟く。

「おう。お安い御用よ」

銀ちゃんはその手をきゅっと軽く握って、私たちは丘へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「銀ちゃんって強いんだね」

「あれ、昨日言わなかったっけ?俺結構強いんだよー」

「信じて無かったよごめん」

「酷ェなオイ!」

 

 

風の吹く丘の上で、お昼ご飯を食べながら話す。

話をしている最中も、私は考え事をしていた。

 

 

 

 

「…ね、銀ちゃん」

「ん?どーした

ぎゅっと握った手を見つめながら私は言う。

 

 

「明日からさ、しばらく…これないかも、しれない」

「何か用事でもあんのか?」

「うん、そんなとこ」

心の中でごめんね、と言いながら答える。

 

 

「そっかー。しばらくの昼飯ともさよならかぁ。くそ、寂しいぜ…!」

「銀ちゃんはお昼ご飯さえあればいいわけ!?」

「うそうそ。もいねーと、つまんねぇよ」

銀ちゃんは本気だか嘘だか分からない笑顔でそういう。

 

 

日が暮れるまで、私たちはたくさん、いろんな話をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

完全に日が暮れた頃に、家に帰る。

私より少し遅れてお兄ちゃんが帰ってくる。

そして私の決意を。

 

 

 

 

「お兄ちゃん…お願いがあるの」

「ん?どうした?」

 

 

 

 

 

「私に…剣術を教えて欲しいの」

 

 

 

 

 

 

「……本気…なのか」

「うん」

じっとお兄ちゃんの目を見つめながら、答える。

 

「お前は…刀なんざ持つ必要ねぇんだぞ」

「護身用だよ。こんな時代だもん、あって損はないよ」

「だが、お前は…」

 

 

「お願い。…お兄ちゃんにしか、頼めないんだよ」

握った手のひらに爪が食い込む。

 

 

 

 

「……わかった、だが約束がある」

「なに?」

「お前は…誰かを斬るためじゃなく、護るために刀を振るえ」

 

 

そっとお兄ちゃんの手が私の手に触れる。

「…うん、わかった」

「言っとくが短期間で教えるから、相当厳しいぞ?」

「うん。大丈夫。お願いしますっ!」

「……しょうがねぇ、か…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の決意



(護るために。強くなろう。…私は、護られるだけが嫌みたいだから。)


 

 

 

 

 

 

 

あとがき

分類がわからなくなってきました。

あと、細かいことは追求しないようにしてくださいませ…!(ぁ

2008/4/19