に会わなくなってから、数日がたった。

そして、久々に天気のいい日になった。

 

 

 

「めずらしいな、お前がこんないい天気の日に昼寝してないとは」

「うるせーよ」

小さな仮屋の縁側に座って、空を見上げたままで、俺の後ろに立つヅラに言う。

 

は…今日はいるだろうか。あの丘に。

 

 

 

「なー、ヅラ。もうすぐデケェ戦があんだろ」

「そうだな、前の戦から時も過ぎた。そろそろ…頃合かもしれん」

「この近くの村…とかも被害出ちまうのかな」

「被害がない、とは言い切れんな」

「そっか」

 

 

今はこんなに平和なのに。

もうすぐ、ここら一帯が血で染まるんだろーな。

 

 

 

 

 

 

「最近ふらふら出掛けていたようだが…いい女でもいたのか?」

「ぶふっ!!」

「なんだ、図星か」

「ち、違ェよ!」

ぐるっと顔の向きを変えて、ヅラのほうを向くと、あいつは楽しそうに笑っていた。

 

 

「いい女っつーより…ちょっと変わったおもしれぇヤツだ」

 

 

 

 

そう呟いて、立ち上がる。

「ちょっと出てくる」

「戦が近い。腕が鈍らないようにしておけよ、銀時」

「へいへい。わーってるよ」

ひらひらと手を振って、ゆっくりと歩き出す。

 

久しぶりに行ってみようか、あの丘に。今日なら、に会える気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ、ふあっくしょんっ!!」

「どうした、風邪か?」

「ううん。ちょっと鼻がむずむずして…」

ふわりと手で鼻を覆って言う。

 

 

「油断すんじゃねぇぞ。風邪は万病の元だろうが。どうするんだ重い病気にでもなったら…!!

「ちょっと鼻がむずむずしただけだって言ってるでしょうが」

変なところで心配性が出るお兄ちゃんに一言言って、私は玄関へ向かう。

 

 

 

「どこか行くのか?」

「うん、ちょっとね」

 

「…あんまり遅くなるんじゃねーぞ。それから変なヤツについていったりするなよ。それから…」

「わかってるから!私のこと何歳だと思ってんのよ」

延々と続きそうだった忠告の途中で口を挟む。

 

「…気をつけろよ」

「はいはい。じゃあいってきまーす」

「あぁ」

 

 

いってきますを言って返事が返ってくるのは久しぶりな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

涼しい風の吹く道を、軽い足取りで走る。

前は毎日のように通っていた丘に行くのが、とんでもなく久しぶりのような気がしていた。

 

 

今日は、銀ちゃんに会えるだろうか。

 

 

 

 

 

たどり着いた先、あの時と同じ場所に、人影が見えた。

 

「…!銀ちゃんっ!!」

遠くからでも分かる、綺麗な銀髪が風に揺れていた。

「お。久しぶりだな、ー」

 

 

 

ひらひらと手を振る銀ちゃんは、あの時と変わっていない。

そのことに、何故か少しだけほっとした。

 

 

「久しぶり!会えてよかったー!」

「なになに、そんなに銀さんが恋しかったのかー?」

「うん!」

「え、っ…」

にっこりと笑って答えると、銀ちゃんは口をぱくぱくとさせていた。

 

「なんてね!いるかどうか賭けだったから、会えてよかったってことだよ」

「あ、ああー、そういうことね。ったく…」

銀ちゃんはばりばりと頭をかきながら視線をそらす。

何故か私までちょっと気恥ずかしくなって、視線を足元へと落とす。

 

 

 

 

 

 

「あのさ、

「うん?」

少しだけ真面目な声が降ってくる。

 

 

―――もうすぐ、戦が始まるんだ。

 

 

「………あー…明日、昼飯作ってきてくれねぇ?」

「へ?あ、うん。いいよ!」

 

…銀ちゃん?

さっき、何を言おうとしたんだろう。

何だか、すごく大切なことを言おうとしてたように見えたんだけど…。

 

 

 

「それにしても、この間の雨には参ったぜー」

「あぁ、凄い大雨だったよね」

「天パには辛いモンがあるっつーのによォ」

 

くるくるの髪が更に大変なことにー、なんて喋る銀さんから、さっきの雰囲気はなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつの間にか、空は夕方へ近づいていた。

「じゃあまた明日ね!」

「おぅ。昼飯忘れるんじゃねーぞ」

「はいはい、わかってるってば」

 

じゃあね、と言って手を振る。

そろそろ帰らないと、お兄ちゃんが心配するだろうな、と思いながら丘を駆け下りた。

 

 

 

 

「……明日、か。…いつまでこうしていられるんだろーな、…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまーっ」

がらりと玄関を開ける。

しかし、声は返ってこない。

 

「…?」

お兄ちゃんは…部屋にいるのかな。

 

 

がらっ、と部屋の戸を開ける。

「ん?あぁ、帰ってたのか」

「うん。…何してるの?」

暗い部屋の中、私の問いかけに答えずにお兄ちゃんは立ち上がって私の前へ来て言う。

 

 

「…、俺は今から向こうへ戻る」

「もしかして…」

「あぁ。そろそろ戦が近い」

「そっ、か…気をつけて、ね」

 

えらく急な話だった。

ううん、もしかしたらもっと前から分かってたのかもしれない。

 

 

名前を呼ばれて、無意識に俯いていた顔を上げる。

「お前にこれをやるよ」

そう言って手渡されたのは、刀だった。

 

 

「こ、れ…」

「護身用だ。人を斬る為に使うんじゃねーぞ」

そう言って、ぽんぽんと私の頭を撫でる。

 

「俺のお古なんだから、大切にしろよ」

「…もちろんだよ。ずっと大切にする」

ぎゅっと刀を抱きしめる。

 

 

 

「じゃあ、俺はそろそろ行く」

「…あの、無事に帰ってきて、ね」

今回の戦場はこの近く。

そう分かっているからこそ、帰ってきてと、言った。

 

 

 

「お前も、気をつけろよ。何があるかわからねぇからな」

「うん。大丈夫、心配しないで」

「…っ」

「お兄ちゃ、!?」

 

瞬間、ぎゅっと抱きしめられる。

「何かあったら、思いっきり叫べ。絶対…絶対助けにきてやる」

「…あはは、戦場じゃ聞こえないって」

「お前の声なら…の声なら聞こえるさ」

 

強く抱きしめるお兄ちゃんの顔は見えない。

どんな顔をしてるんだろう。いつもみたいな心配顔?それとも…。

 

 

 

「…お兄ちゃんこそ、危なくなったら叫んでよ。私が助けに行ってあげる」

「ククッ、そりゃ心強ェな」

片手で刀を握り締めて、もう片手をお兄ちゃんの背にまわす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、また私はこの家に1人になった。

ううん1人じゃない。今はお守りの刀がある。

…明日は丘に行かなきゃ。

 

 

 

 

 

 

 

動き出した時間



(怖いっていうよりも、不安だった。大切なものが急に遠くへいってしまう気がしていた。)


 

 

 

 

 

 

 

あとがき

糖分がちょっとだけ増えました。

銀さんはともかく、高杉さんのは完全兄妹愛です。深い意味はない…はず(←

2008/5/6