夜中だというのに、ざわざわと人の声で賑やかなかぶき町。
いつかあの町で自由に買い物したり、遊んだりするんだ、なんて思っていた。
そのために考えに考え、大奥を脱走したけど…予定も、作戦も、狂いっぱなし。
一期一会
いちごいちえ
「さて、どーしてやりやしょうかねィ」
月明かりの元、にやりと笑う黒い服を着た人。
そしてあたしは、その人に押し倒されてるわけで。
えへへへ、空が綺麗だなぁ…!
…って現実逃避してる場合じゃない!
「あの、すいません。勢いで飛び掛ってしまったのは謝りますから、とりあえずどいてください」
「嫌でさァ。さっきの礼がまだ済んでやせんからねィ…」
茶髪のお兄さんはそう言いながら顔を近づけてくる。
え、もしやこれはアレですか。貞操のピンチが近いってやつですか。
…じょ、冗談じゃない!!ファーストキッスは好きな人と!をモットーに今まで生きてきたんだから!
こんなところで、こんなサディスティック野郎に色々奪われてたまるものか!
とはいえ、がっしりと掴まれた腕はぴくりとも動かせない。ど、うしよう。
そう思っていたとき、低い声とともに、目の前にきらりと光るものが現れた。
「何してんだ、総悟。テメェ見回りはどーしたんだ、あァ?」
怖いものが増えました。
ドスのきいた声がした方をみると、黒髪のお兄さんが刀を構えてました。
「失礼ですねィ。俺ァちゃんと見回り行こうとしてたんですぜィ。ちょっとこいつに邪魔されやして…」
「こいつ…?」
そう呟いて黒髪のお兄さんはあたしの方を見る。あれ、今まで気付いてなかったんですか。
「なっ、女ァ!?つーか総悟、お前何してんだ!」
「いやそれ貴方もですからね。刀早くしまってくれませんか、首切れそうなんですってば!!」
「うう、死ぬかと思った…」
「チッ」
「え、なんですか。殺す予定だったんですか。ちょ、あたしを解放してくださぁぁい!!」
ただいまあたしは、茶髪のお兄さんと黒髪のお兄さんに引っ張られて、真選組屯所、ってとこの廊下を歩いている。
ちなみにさっき舌打ちしてきたのは茶髪のお兄さん。マジ怖いよあの人。
歩いているうちに、1つの部屋の前で黒髪のお兄さんが立ち止まった。
「入るぜ、近藤さん」
そういうと奥から「おう」という返事が聞こえた。
「さて、あんたがウチの屯所にいた理由を教えてもらおうか?」
目の前にさっき近藤さん、って呼ばれてた人。
両脇にはあたしを連れてきたお兄さんが座っている。正直、逃げたい。
ガタガタと震えながら、あたしはこれまでの経緯を話した。
「こんなヨレヨレの着物着た女が、大奥から来たと思えねーがな」
「ヨレヨレなのは全力疾走したからです、黒髪のおにーさん」
あ、あと壁登ったりしたからかな。
「だが…行くところもないんだろう?だったらここに置いてあげてもいいんじゃないか、トシ」
「なっ、近藤さん!?攘夷志士だったらどーすんだよ」
「違います!あたし、その…じょーいなんとかじゃないです!!」
良く考えれば、こんな夜中にまた町へ放り出されたら、それこそ色々な危機がやってくるだろう。
それに、この近藤さんっていう人はいい人…みたいだし。
「あ、あたし、掃除とかご飯作ったりとかできますから!そういう雑用なら頑張りますから!」
「ほらみろ、トシ。いい子じゃないか」
「だーかーら!!嘘だったらどーすんだっつってんだよ!」
うう、なかなかしぶといなこのお兄さん。
まぁ、言い分もわからないことはないんだよ。多分あたしが逆の立場だったら、疑うだろうし。
「俺ァいいですぜィ」
「え?」
「は…はぁぁぁあ!?総悟、てめっ…」
「総悟もああいってることだ、いいじゃないか」
にかっ、と明るく笑う近藤さんの笑顔に負けたのか、黒髪のお兄さんは、はあ、とため息をついて言った。
「…仕方ねーな。しばらく、ここにいていいぞ」
「!ありがとうございますー!!」
ぺこりと頭を下げて、あたしはお礼の言葉を叫んだ。
「んで、おめー名前はなんて言うんでさァ」
「あ、あたしです」
「俺ァ沖田。沖田総悟でさァ」
「俺が真選組局長、近藤勲だ。よろしくな、ちゃん」
わしわしと頭を撫でてくれる近藤さん。…ほんとにいい人、なんだなぁ。
「…はいっ、あたしもできることは、頑張ります!」
残るは1人。ちらり、とそっちを向くとぽつりと呟くように言った。
「…土方だ。土方、十四郎」
「えっと…土方さんがあたしを疑う気持ちは、わかります、から。でも…できれば、信じてほしい、です」
「嘘ついてるようには…見えねぇしな。まぁ、しっかり働けよ」
そう言って土方さんは、初めて笑って言ってくれた。
「…はい、はいっ!!頑張ります!」
あたしは一生に何度もないであろう、いい出会いをしたんじゃないかと思う。
ぶっきらぼうだったり、素直じゃなかったりする人たちだけど、本当は優しい人たちなんだろうな。
「…つーか総悟、めずらしいなお前がこういうこと承諾するたァ」
「あぁ、まぁ最初はこのまま町へ放り出して貧相なツラしてるのを見るのもいいかと思ったんですけどねィ」
そこまで言って、沖田さんは立ち上がり、部屋を出る前に振り返って言った。
「ここで思いっきり虐めてその顔歪ませてやるのもいいかと思いやしてね。いやぁ、楽しみでさァ…なぁ」
あたしは返事をすることも忘れて、立ち去っていく沖田さんを呆然と見ていた。
「…まあ、頑張れ。何かあったら助けてやっから」
「根は悪いやつじゃねーんだけどなぁ。まぁ、何かあったら俺に言ってくれよ」
「よろしくお願いします、土方さん、近藤さん」
その後土方さんに部屋を用意してもらった。
明日から波乱の毎日が始まるんじゃないか、なんて布団に寝転がりながら考えていた。
あとがき
ここの連載では、沖田さんのS度がちょっぴり上がる予定。頑張ります、ドS。
とりあえず、ヒロイン寝床ゲット。
2008/7/27 *サイト一周年記念更新3