真選組に来て、数日がたった。

あれからあたしは、隊士の人たちとも仲良くなり、楽しい日々を過ごしていた。

ただ1人、あの人の嫌がらせを除いて。

 

 

 

前途多難

ぜんとたなん

 

 

 

 

ちゃーん、朝ごはんまだ残ってる?」

多くの真選組隊士さんたちが食堂から出て行った頃、そんな声が聞こえた。

 

「まだありますよー、山崎さん!食べていきます?」

「うん、頼むよー」

 

 

 

もうすぐお昼だから、軽めの朝ごはんを準備して山崎さんのところへと向かう。

「はい、どーぞっ!」

「ありがとう。ちゃんの作るご飯美味しいんだよね」

「えへへ、ありがとうございます!伊達に将軍様の下にいたわけじゃないですからね!」

「全然そう見えないのにね!」

「あははは、ぶっとばしますよ

 

 

 

毎日こんな感じで楽しい日々を送っている。

最近では土方さんも、少しだけ笑いかけてくれたりするようになった。

 

 

「へー、副長が…。めずらしいね」

「今まで凄く警戒されてたんですけど、最近は色々心配してくれますよ」

「心配?」

ご飯をごくんと飲み込んでから首をかしげて山崎さんは尋ねる。

 

「んーと、朝からあたしの部屋の前に藁人形が敷き詰めてあったり、夜な夜な変な呪文みたいなのが聞こえたり」

「それ心配っていうより同情な気がするんだけど」

 

 

 

 

なんて喋っていると、土方さんがやってきた。

「あ、土方さん!朝ごはん、まだでしたっけ?」

「ああ。早朝の見回り行ってたからな…。はぁ、食ってから行けばよかった」

小さくため息をつきながら空いていたイスに座る。

あたしは朝ごはんを準備するために、台所へ戻る。

 

 

「何かあったんですか、副長」

「あー…最近見回りサボりっぱなしの総悟を引きずって連れてったんだが…あー、思い出すのも嫌だ」

「お、お疲れ様です」

 

 

 

 

そんな会話が台所まで聞こえてくる。

そう、あたしのさっきの被害も土方さんの悩みも、すべては沖田さんによるもの。

そんな共通点もあってか、あたしたちは結構早くに打ち解けていけた。

 

 

 

「はい、土方さん、朝ごはん。あとマヨネーズですよね」

「ん、ありがとな」

 

そう言ってすぐにご飯からおかずまで満遍なく、大量のマヨネーズをかけていく。

隣にいる山崎さんがそれから視線をそらした。

 

 

 

「またやってるんですかィ、土方さん。その犬のエサクッキング」

沖田さんが、食堂へやってきて一言、そう言った。

片手に持ったバズーカが気になるけど、あえてつっこまないでおこう。…嫌な予感がするし。

 

 

「テメー、マヨネーズバカにすんじゃねーぞコラァ」

「違いまさァ土方さん。俺がバカにしてんのは、その犬のエサですぜ」

ぴしっと人差し指で土方さんの朝ごはん…っていうかマヨネーズのかたまりを指差す。

 

 

もよくそんなん直視できやすねィ」

「あー、大奥にもいたんだよね。お料理にものすっごい量の醤油かける人が

「は…はぁぁああああ!?」

 

一番最初に叫んだのは、山崎さん。

 

 

「え、大奥ってそんな奇特な人がいるものなの!?」

「まぁ人の好みは文句言えないしね。だから、まぁ、その応用だと思えば平気平気」

あはは、と笑うあたしに呆然とする山崎さん。

 

 

!」

「は、はいっ!?」

突然叫んだ土方さんは、ばんっと机に箸を置いてあたしの両手を握った。

 

 

「え、え?」

「久しぶりだ、俺の土方スペシャルを理解してくれた奴は…!」

「は、はあ」

心なしか目がキラキラしてるきがするんですけど。

っていうか、理解したっていうか、コレはこういうものなんだって思って流しただけなんだけど。…ま、黙っておこう。

 

 

 

「…最初は疑って悪かったな」

「土方、さん…」

話が飛びすぎです。

マヨネーズひとつでそこまで話飛ぶんですか。

アレか、マヨネーズ好きに悪い奴はいない!みたいなもの…の応用。

 

「いつまででも、ここにいていいからな。だが、仕事はサボるなよ」

そう言って、片手であたしの頭をぽんぽん、と撫でる。

う…ちょっと照れるじゃないか。

 

 

「えへへ、ありがとうございます。仕事、がんばりますから、これからもよろしくお願いしますね」

「ああ。になら、この土方スペシャルを少し分けて「あたし今お腹一杯なんですよ!」

 

にっこりと笑って言葉をさえぎる。

食べるのは勘弁していただきたい。

 

 

ちゃんって、凄い…」

ぽつり、と山崎さんが呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

「って、そういえば沖田さん何しにきたんですか」

「さっきバズーカの試し撃ちしてたら、物干し竿に当たっちまいやしてねィ。洗濯物全部吹っ飛びやした…って報告に」

「あ、それはどうも…ってうおおおーーーい!!!

 

あまりにもさらりと言うから、流してしまいそうだったじゃないか。

 

 

「な、何で試し撃ちしてんですか!?しかも何で洗濯物吹っ飛ぶんですか!?」

「攘夷の奴を見つけたときにすぐ撃てるようにですぜィ。洗濯物は、ちょうど目の前にあったんで標的にしやした」

何故に。おかしいでしょ。普通避けるよ!洗濯物標的に選ばないって!!」

 

 

 

「おーい、さっきそこの垣根に着物引っ掛ってたけど…どーしたんだ?」

そう言って近藤さんが持ってきてくれた着物は、あたしが今朝洗濯したもの。

 

 

「…こ…近藤さん、もしかして庭って…」

「着物とか布団のシーツとか散乱してたけど何かあったのか?」

きょとん、として言う近藤さんと反対に、あたしの顔はどんどん青ざめていっているんだろう。

 

 

 

 

「…ちゃん、俺、洗い物やっておいてあげるよ」

「いえ、そういうわけには…といいたいところですけど、任せていいですか」

「うん。頑張って、洗濯物」

ぱん、と静かに手を合掌する山崎さんに一度お辞儀をしてから、食堂を抜け出す。

 

 

 

 

 

 

庭に出て最初の光景は、飛び散らかった洗濯物と、倒れた物干し竿。

 

 

 

「…沖田さんのばっかやろぉぉぉーーーーー!!!」

 

 

 

 

 

 

その後、あたしの絶叫を聞きつけた手の空いている隊士の皆さんに協力してもらって、洗濯物大回収が行われた。

沖田さんは土方さんにみっちり怒られた…はずが、「総悟ォォ!テメー、切り刻んでやらァァ!!」という声が

聞こえたってことは、きっと返り討ちにされたんだろうなぁ。

 

 

 

うん、ここでの悩みはこれくらいかな。

皆優しいし、よくしてくれます。…沖田さん以外はね!!

 

 

明日は、物干し竿の回りにトラップでも仕掛けてもらおうかな、山崎さんに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

いじめっこと、いじめられっこたち。

ところで、山崎さんを、つい退くん、と打ってしまいます。3Zの癖ってやつです。

2008/8/1