空は綺麗なオレンジ色に染まっていた。
今日も僕はこのZ組の日直の仕事のために、学校に残っていた。
そう、ほんとは1人で、仕事をするはずだった…けど。
「今日あたし暇だからさ、日直手伝ってあげるよ」
そう言ってちゃんは、黒板消しを手に窓辺へと歩いていく。
僕は慌ててイスから立ち上がって言った。
「で、でも悪いよ。僕なら大丈夫だよ、ほら、ほとんど毎日やってるし」
「毎日やってるから、手伝ってあげるの。ずっと任せっきりじゃ、申し訳ないし」
窓から外へ黒板消しを出して、ぱんぱんっと叩く。
2つの黒板消しが綺麗になったところで僕のほうを振り向いて、ちゃんは不満そうに言う。
「それとも、あたしがいたら邪魔?」
「そんなことないよっ!邪魔なんて、ぜんっぜん思ってないっ!」
「なら、何も言わずに手伝われててよ」
ちゃんはにっこりと笑って言う。
「…ありがとう」
「どーいたしまして!」
ちゃんが黒板の掃除をしてくれている間に、さっさと日誌を書き終えようと席に戻る。
シャープペンを握って、今日の一言欄を見つめる。
「新ちゃん、うかうかしてると、誰かにちゃん取られちゃうわよ」
不意に後ろから聞こえた声に驚いて、イスから落ちそうになる。
「なっ、あああ姉上ッ!?何、言ってるんですかッ!?」
なんでここにいるんですか、を聞く前に先に出た疑問はこれだった。
「あら、私が気付いてないとでも思ってたの?新ちゃんがちゃんを好きなことくらいバレバレよ」
ふん、と勝ち誇った笑みを浮かべる姉上。ハッタリ…ではなさそう。
「男ならさっさと決めちゃいなさい。潔く当たって、砕けてきなさい。じゃ、私は先に帰ってるからね」
こそこそと小声でそう言って、姉上は教室から出て行った。
「…いや、砕けたくないんですけど。っていうか砕けたら立ち直れそうにないんですけど」
ぽつりとそう呟いて視線を前に戻すと、黒板に濃く残ったチョークの痕を一生懸命こするちゃんが見えた。
シャープペンをまた放り出して、席を立つ。
「僕も手伝うよ」
「えっ、あ、ありがとう!…ってこれじゃあたし手伝いになってないよね」
「そんなことないよ!寧ろ、いてくれるだけで十分…」
最後のほうはほとんど声にならず、口の中で呟いていた。
こういうときにもっとカッコよく言えたらいいのに。
なんて自分のヘタレさにへこみながら、黒板消しを動かす。
力の入りにくい高い場所は僕が消して、力を入れやすい場所はちゃんが消して。
その作業を続けていると、ちゃんが黒板を見つめたまま言った。
「新八くんって、地味とか言われてるけど、実は頼りになるよね」
「…え、っ?」
「あたしじゃなかなか消えないチョークの痕も、軽々消しちゃうし」
ちゃんは言いながらきれいになった黒板を見つめる。
姉上、フラグが立つってこういうのなんですか。
タイミングって、こういうときなんですか。
どくんどくんとうるさく鳴る心臓を右手で押さえながら、ぎゅっと目を閉じる。
頑張れ、僕。なんて自分にエールを送って目を開ける。
「まったく、あの先生無駄に筆圧強すぎなんだよね」とか呟いているちゃんを見据えて、声を絞り出す。
「…、ちゃん」
「ん?なに?」
視線を僕に向けて首をかしげる。
あぁあ!もう、今そういう可愛いことしないでくれるかな、もう一杯一杯なんだよ僕は!!
ぎゅっと両手を握り締めて、ゆっくりと乾いた喉から声を出す。
「あのっ、僕は、僕はっ…ちゃんが、好き、です」
「…遅い」
少しの間の後、呟かれた声はイエスでもノーでもなかった。
「え?」
「遅いよ新八くん!!こういうのは、男の子からっていうのがセオリーでしょ!」
「は、はいっ!?」
思わずそう返事をしちゃったけど…あれ、なんで怒られてるの僕。
っていうか、返事は…!?
「あたし、ずっと、新八くんから言ってくれるの待ってたんだよ」
「え…そ、れって」
「あたしもずっと前から、新八くんが好きだったんだよ」
少しはにかんだ表情を浮かべて、目線をそらす。
「色々やったのに!色々機会とか作ってみたのに…全然気付かないし!この鈍感!」
色々、と言った言葉にふと思い出す。
もしかして、学校休んだ日にプリントとかわざわざ届けてくれたこととか、
移動教室のときに一緒に行こう、って誘ってくれたこととか、
当番じゃないのに日直一緒にやってくれたりしたことって、
全部、僕の、ため…?
「…ごめん、ごめんね、言うの遅くなって」
「ほんとだよ。遅すぎ。鈍すぎ」
放たれる言葉はきついものの、その表情はとても優しい。
「今まであたしが頑張ったんだから、これからはちゃんと新八くんがリードしてね」
「…うん。頑張る、よ」
未だ落ち着かない心臓に少しの不安を抱えつつ。
まずは……手を繋いで帰るところから始めようと思います。
遅い遅いはじまり
(今日の一言:なんかもう、いま僕、幸せすぎて、ドキドキしすぎて、あぁもう死にそう!)
あとがき
新八夢は、こう、書いてて「あぁぁあーー!!」って頭掻き毟りたくなる甘さというかラブがある気がします。
文章力が乏しいので伝わるかどうかわかりませんが、私の中ではこれでも甘めのお話になってます。
2008/12/19