「わ…私っ、土方君のことが、す、好き、です」
「あー…悪ィ、俺は今んとこ、そーいうの考えらんねーんだ」
まさか、忘れ物を取りに来たことに、こんなに後悔するハメになるとは思ってなかった。
告白の舞台は体育館裏だと思っていたのに、まさかこんな通路でやっているとは。
この道を通らないと教室には行けないのに。
とりあえず植え込みの陰に隠れてみたけど、その、非常に出づらい。
告白していた女の子の方は、あたしがいる方と反対の方向へ走っていったっぽいけど…。
なぜ、そこで立ち止まっているんだ、土方くん!!!
出づらい!!非常に出づらいじゃないか!!
「何やってんだよ」
「あ」
植え込みにしゃがんで、頭を抱えていたあたしに声をかけてきた土方くんは、いつもと同じ表情だった。
「いっ、いや別に何もしてませんよ!立ち聞きしたかったわけじゃないし!」
言いながら勢いよく立ち上がる。
がさがさっ、と揺れた植え込みの葉っぱが制服に張り付いた。
「聞いてたのか」
はあ、と呆れたように溜息をつきながら、あたしについた葉っぱをとってくれる。
「…ごめん」
苦笑いで言ったあたしに、土方くんも苦笑いで返した。
「なんで告白受けないの?好きな子でもいるの?」
「別にそういうんじゃねーよ」
教室までの道を歩きながら話す。
土方くんも、暇だから、という理由で教室までのお喋りに付き合ってくれた。
「土方くん顔はいいから、違う学年の子にまで人気なのに」
「顔はってなんだよ、顔はって」
ちっ、目ざとい。
「お昼ご飯一緒に食べたら皆逃げると思う」
「なんでだよ」
本気で分からない、という声を出す。
あたしは、あはは、と乾いた笑いで誤魔化しておいた。
…目の前で持参したマヨネーズを大量に出されたら、マヨラーな子以外は逃げる。
もしくは固まって失神だわ。
あたしはもう免疫ついちゃったけど。
「まぁ、俺はみたいにサッパリしてる奴のほうがいいんだよ、扱いが楽で」
「それ褒めてないよね」
失礼な、と呟くと「お互い様だろ」と土方くんにつっこまれた。
お互い様だね、と一緒に笑いあっているうちに、目的のZ組にたどり着いた。
あたしは教室の戸をあける。
「っていうか土方君なら『俺にはマヨネーズという恋人がいるんだ!』って言えば
皆ドン引きして告白する人もいなくなるんじゃないの?」
「ドン引きって何だコラ。マヨネーズなめんな」
そう、それだよ。それを前面プッシュしていけば告白する子も減るって。
それともこのギャップがいいのだろうか。
「…じゃあさ、付き合っちゃう?あたしら」
「は?」
忘れ物のノートを机から引っ張り出しながら言う。
あたしの視線は、机の中。
「だって、土方くんはあたしみたいなさっぱり系が好きなんでしょ?だったら丁度いいじゃん」
ノートを抱えてよいしょ、と立ち上がる。
「そんで、付き合ってみると案外こっちの方が面倒かもよー」
唖然とした顔であたしを見ている土方くんに、にっこりと笑いかけながら言う。
実際、さっき告白してた子は可愛かった。
そりゃもうあたしなんて顔で比べられたら即行で負けるくらいに。
そんな可愛い子をフッた土方くんに、ちょっとだけ後悔させてやろうか、なんて遊び心が沸いた。
「…上等だ。、軽く言ったこと後悔させてやるよ」
シニカルな笑みを浮かべた土方くんの顔は、夕焼けに照らされてとても綺麗だった。
そう、半分は遊び心。
残りの半分は、あわよくば、このまま一緒にいられますように、という願い。
顔こそ笑ってはいるものの、今のあたしの心臓はうるさいくらいにドキドキと音を立てている。
「そっちこそ、本気であたしに惚れるんじゃないぞー!」
「ハッ、こそ俺にマジになるんじゃねーぞ」
不器用な駆け引き
(…いや、抜けさせねーよ。折角のチャンスなんだ、逃してたまるか。覚悟しとけよ。)
あとがき
結局ふたりは両思いなんです。言い出せなかっただけなんです。
っていうか、なんて受身な土方。ヒロインの方が男前です。
2009/02/13