みんなが帰ったZ組の教室の黒板を綺麗にするべく黒板消しをかける。
チョークで白くなっていた部分が綺麗な色に戻る。
なんというか、こうやって綺麗になったのを見ると、掃除もやり甲斐がある。
「黒板だけにどんだけ時間かかってんでさァ、」
この、後ろで優雅に日直日誌を書いている奴がいなければ、もっとスッキリしていただろうに。
悔しいことに、本日の日直はあたしと沖田。
役割分担をするべくジャンケンをして延々とあいこが続き、勝敗がついたときには、皆帰ってしまっていたのだ。
「あのね、日直日誌書くだけと、黒板掃除に花瓶の水取替えに掲示物の整理に…明らかに量がおかしいでしょ!」
十数回のあいこの末、負けたのはあたしだった。
その時におしつけられたのが、日直日誌以外の雑用だった。
「負けるが悪いんだろ」
「でもこの分け方はおかしいってば」
もう1つ、花瓶の水取替えくら手伝ってくれればいいのに。
なんて思いながら、黒板の桟を濡らした雑巾で拭く。
「早く終わらせてくれねェと帰れねーんですけど」
「うるっさい!やってるじゃん!働いてるじゃん!帰りたいなら手伝え!」
「それじゃあジャンケンした意味が無くなるだろ。ほら、さっさと手ェ動かせィ」
こっ…こいつには優しさのやの字も無いのか…!!
内心ギリギリと歯軋りとしながら、雑巾を濯ぐべく水道へを走る。
「あーもう!腹立つ!」
雑巾をこする手に力が入った所為で水が跳ね上がり、袖口が濡れる。
それにまた苛立ちを感じつつも、はあ、と溜息をつく。
「もうちょっと…優しくしてくれたらいいのになぁ」
ぽつりと零れた一言は、流れる水の音にかき消された。
雑巾を干して、教室に戻る。
掲示物の整頓はもう終わらせたから、あとは花瓶の水を替えるだけ。
教室の隅に置かれた花瓶を持ち上げる。
「さっき水道行ったんなら、一緒に持ってきゃ1回で済んだじゃねーか。要領悪ィですねェ」
「…いちいちうるさいってば!あんたこそ、日誌書いたの!?」
ぐるりと沖田の座る方を見る。
机に足を組んで乗せて、くつろぎ体勢で言う。
「とっくに、終わってまさァ。とは違うんでね」
「……あーそうですか!作業が遅くてすいませんね!!」
早足で再び水道へと向かう。
あーもう!なんなの、なんなのあいつ!!
最初はあそこまで物言いが酷くは無かったのに、最近は酷さに磨きがかかっている。
今まで土方くんはこういう気持ちだったのだろうか。
…負けては、いられないよね。
「…よしっ」
花瓶に新しい水を入れて、冷え切った手で頬を叩く。
1回深呼吸をして、花瓶を手に持って教室へと向かう。
がら、と教室の戸を開けると、いつもと同じ表情で沖田がこっちを向く。
「水かえるだけにどんだけ時間かかってんでさァ」
「なんで、そんなに突っかかってくるのよ」
コトンと花瓶をもとおいてあった場所に戻す。
「突っかかってるわけじゃねーやィ。本当のことしか言ってませんぜ」
沖田は机から足を下ろしてイスから立ち上がり背伸びをする。
「…意地悪男」
「バカ女」
ぽつりと呟いた言葉に、同じくらいの声量で返事がくる。
「陰険」
「ドジ」
「サディスト!」
「のろま」
「猫かぶり!」
「じゃじゃ馬」
「性悪!!」
「好きですぜィ」
「あたしだって好き……じゃない好きじゃない好きじゃない!!!」
ぽろりと零れてしまった言葉に、両手を左右に振って否定する。
っていうか、今、何を言われた?
混乱するあたしの近くにいつの間にか来ていた沖田はフン、と鼻で笑って言った。
「…嘘つき」
飴と鞭戦法の敗者
(その短い言葉と共に降ってきたのは、沖田に似合わない優しいキスだった。あぁ、そんなの、ずるいよ。)
あとがき
ひたすら前半はSな沖田。飴と鞭が上手すぎるといい。文才が追いついてないところが悔しいですね!
好きな子ほど苛めたくなる沖田でした。
2009/03/11