朝のHRを告げるチャイムが鳴って数分後、銀八先生がZ組に入ってくる。

起立、礼、と委員長の号令がかかる。

そんないつもどおりの日常。

 

「…ん?今日、はどーしたんだ?」

 

俺の前にいつも座っている、彼女がいないことを除いて。

 

 

どうしたんだろう、と思っていると神楽がガタリとイスから立ち上がった。

「先生!朝、から『風邪で休みます。1日あれば治るので、お見舞いとか絶対来るな』っていうメールがきました!」

「…なんで見舞い拒否?」

きょとん、とした顔で言う銀八先生。

 

「…俺はわかる気がする」

ぼそりと呟いた土方さ…副委員長の後、沖田さんが口を開く。

「なんでィ、早く復活できるように青汁でも作ってやろーかと思ったのに」

…なるほど。

 

 

 

 

それから他愛もない話のHRを済ませて、1時間目の授業の準備をする。

「オイ、そこのジミー」

「や、地味じゃないから」

そうつっこんだ目線の先にいたのは、神楽。

 

「一応、教えておくアル。、『退くんには心配しないで、って伝えておいて!ホントに軽い風邪だからさ!』…って」

携帯を見ながら、メールを読み上げる。

がこうやって言う時は、大抵大丈夫じゃないときネ。…行ってこいヨ、お見舞い」

ニッと笑って言う神楽に、ありがとう、と呟いて、俺は鞄を持つ。

 

「先生ェェ!お腹痛いんで、早退します!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

窓から見える空は、とても綺麗だった。

「風邪なんて…久々にひいたなあ…」

ぽつり、と呟く。

 

お父さんもお母さんも、今は仕事に行っていて、家にはあたし1人。

ベッドに寝たまま、携帯を弄る。

今頃、皆授業中だよね。メールもできないよね。

 

 

「暇、だなあ…」

そう呟いた時。ピンポーン、と玄関のチャイムが鳴った。

いや、今起き上がれないし。

そう思って居留守を決め込んでからチャイムが鳴ること数回。

 

 

 

その後、携帯が鳴った。

「…っ、えなんで…!?」

メールかと思いきや、電話がかかってくる。しかも、何故か、退くんから。

 

「…も、もしもし?」

ちゃん、玄関開けて!」

「………は、はああぁぁぁ!?」

 

 

 

 

状況についていけない頭で、ふらふらとベッドから降りて玄関の戸を開ける。

そこには、走ってきたのか、少しだけ息を乱して鞄と携帯持った退くんがいた。

 

「な、なんで、こんなとこに!?学校は!?」

「腹痛、って言って早退してきた」

ぽかーん、とするあたしのおでこに、するりと手が触れる。

 

 

 

「…はあ、熱、あんまり高そうじゃなくてよかった…」

息をゆっくり吐いて、安心したように退くんは言う。

「とりあえず、上がらせてもらうね」

ああ、うん、としか言えず、あたしは退くんと部屋へ戻った。

 

 

 

 

 

 

「…あの、つかぬ事をお伺いしますが」

「なあに、ちゃん」

「……あのさ、退くん……なんか、怒って、る?」

 

そう。さっきから、退くんの纏っている空気が、怖い。

 

 

「そう見えるの?」

「うん。何でかわかんないけど」

そういうと、退くんは溜め息をついて、あたしの寝転ぶベッドの足元に座った。

 

 

「…なんで、一番に俺にメールしてくれなかったの」

「だって…心配、かけたくなかったし」

退くんは優しいから。

きっと、あたしが風邪引いたなんて言ったら、飛んでくるだろうから。

…まあ結果的に来ちゃったんだけど。

 

 

もごもごと口ごもるあたしの頬を、両手で包み込んで退くんはあたしと目線を合わせる。

「あのね。ちゃんはいっつもしっかりしてるから、なんていうか、俺の威厳がさ、なくなるんだよ」

ときどき、言葉を選ぶように目線をくるくると移動させる。

 

 

「だから、あの…風邪のときくらい、俺を頼ってよ。もっと俺に甘えてよ」

 

 

 

そういった退くんは、なんだか男らしくて、かっこよくて。

そう思った瞬間、退くんの顔はだんだん赤くなっていって、あたしの頬から手を離してバッと顔をそらした。

 

「…ごめんね。でも、ほんとに心配かけたくなかったの」

言いながら、布団から手を出して、退くんの手をそっと握る。

「でも、退くんがそう言ってくれるなら、今だけ、甘えていい?」

 

 

「…もちろん」

顔を赤くしたままで、退くんは言う。

 

「ほ、ほら、寝ておかないと、明日学校行けないよ」

そう言って、1度手を離して自分の学ランを脱いで、あたしの布団の首元にかける。

「暖かくしておかないと…」

 

 

ふわりと香る、退くんの香りにドキドキしながら、あたしは閉じそうな瞼を押し上げる。

 

「…早く、元気になってね」

そう呟いて退くんは、あたしのおでこにそっと口付けた。

ちゅ、と小さな音が鳴って、あたしのまぶたもゆっくりと閉じていく。

 

 

 

「手、離しちゃ、やだよ」

「うん。ずっとここにいるから。ちゃんの側にいるから」

退くんの手があたしの髪を撫でていく。

心地いい、なあ、なんて思いながら、あたしの意識は落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

どれくらい時間が経ったのか、分からないけれど、目を開くと真っ先に退くんが見えた。

ほんとに、ずっと側にいてくれたんだ。

 

「…あ、起きた?体調、どう?何か食べれそう?」

「うん…ちょっとお腹へった、かも」

目をこすりながら言うと、退くんはあたしの手を握りなおした。

 

 

「何か雑炊とか、作ってくるよ。すぐ、戻るから待っててね」

うん、と言おうとしたあたしの頬に、空いている手を優しく添えて退くんはそっとあたしの額に口付けた。

 

 

「……え、っ…?」

ちゅ、と音を立ててすぐに離れた退くんの口元を呆然と見ながら、声をもらす。

 

 

「は、早く治るように、おまじない。…じゃ、台所借りる、ね!!」

ばたばたと足をもつれさせながら退くんは部屋から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

君の行動は予測不能




(折角、熱下がったのに、また、上がってきちゃったじゃない。何で、こんないきなり、男らしくなってんのよ!)

(甘えてとは言ったけど、いきなり手握ってきて寝顔見せ付けられて、もう俺死にそうなんだけど!)


 

 

 

 

 

あとがき

強引にいこうとして結局撃沈しているヘタレ退。

次の日見事復活したヒロインと学校で会って、気まずくなってるでしょうね!(ちょっと待て

2009/05/01