「…む、う…」

大量のノートとプリントを抱えて廊下を歩く。

今のあたしは、漫画にありそうな感じで、両手でノートとプリ ントの山を持っている。

一度に持っていこうとしたのが間違いだった…!!

 

 

一度に運ばなくても、分けて運べばよかったんだけど、

そのときのあたしは一回でやったほうが早い、と思って今の状況にある。

両手の上で積みあがったノートとプリントの塔のおかげで、前が見えない!!

 

 

ここで転んだら、よけいに面倒なことになる。

それだけは絶対に避けなければ。

 

 

ゆっくりと、忍者かのような足取りで廊下を進む。

どうか、前から人が来ませんように。

 

 

職員室まで、あと少し。

階段を下りて、廊下を少し進めば職員室。

 

 

 

そして難関はやってきた。階段。

…落ちないように、しなくては。

 

無駄に心臓がどきどきする。

何であたしはこんなことのためにスリル満点恐怖体験をしているんだろう。

 

くそう、全部あたしにノートとプリント持って来いって言った銀八先生のせいだ!!

…嘘。一気に済ませようとしたあたしがいけないんだよね。

 

 

はあ、とため息をつくと同時に気が緩む。

その瞬間に感じる、ずるり、と足がすべる感覚。

 

 

「ーーーっ!!」

ぐら、と体が揺れて傾く。

 

 

 

 

「おっと、大丈夫ー?」

「え、あ……はい」

骨折とまではいかなくとも、足をひねるくらいは覚悟していたのに、あたしは転んですらいない。

ただ、この後ろにいる人にもたれかかっているだけ。

 

 

 

いや正確には、後ろにいる人の右手があたしのお腹あたりにまわって支えられている。

転んでいない、という事実をようやく頭が理解する。

それと同時に安心からか、無意識に入っていた力が抜けていく。

 

 

 

「!そうだノート!あとプリントッ!!」

ばっ、と階段の下を見る。

そこには散らっているはずのノートも、プリントも見当たらない。

 

 

 

「あぁ、これのこと?」

にこにこと笑いながら言うみつあみの男の人の左手には、あたしが探していたものが積み上がっていた。

…あたしを支えてくれたことにも驚いたけど、この人の片手に綺麗につみあがったノートとプリントにもっと驚いた。

すごい。っていうか、あたしが持ってきたときよりも綺麗に積み上がっているような気がするんだけど。

 

 

 

「とりあえず、階段下りよっか」

にこにことした笑みを絶やさず、みつあみの人は言った。

 

 

 

「あの、ほ、ほんとありがとうございます。それからすいませんでしたァァァ!!!」

上半身を90度にまげて、お礼と謝罪を言う。見ず知らずの人に、迷惑かけすぎだあたしィィ!!

「別にそこまでしなくていいよ」

「いや、だって、命の恩人ですから」

 

未だにこの人の手に乗ったノートの積み上がり具合、そしてあたしを支えてくれたこと。

今あたしの中でこの人の株価は急激上昇中なのだ。命の恩人と いっても過言じゃない。

 

 

「大げさだねー。階段から落ちたくらいじゃ死なないよ」

「でも怪我はしますって」

「そう?」

「そうですよ!!」

しないのか!この人は階段から落ちても怪我しないのか!!

 

 

 

「ところでこれ、どうするの?」

左手に積み上がったノートとプリントをひょいひょいと弄びながらたずねる。

「あ、それ職員室まで持っていかなきゃいけなくて…ってすいませんずっと持たせたままで!!」

命の恩人になんてことを!!

あわててノートとプリントに手を出すと、軽やかにその手をよけられた。

 

 

「…あの」

「職員室まで、持っててあげるよ」

神がいらっしゃる。

 

 

最近触れられていない優しさに、涙が出そうになった。

3Zの男共はこんなことは言わない。

ごみ捨てだろうがなんだろうが面倒ごとはすべて人に押し付けるように流すのが基本。

レディーファーストのレの字もあったもんじゃない。

まあ、新八くんあたりは手伝ってくれそうだけど。…お通ちゃんのライブが無い限り。

 

 

 

「い、いいんですか?重くないんですか?」

「全然重くないよ。箸と同じくらいだし」

「冗談にしてもそれは無いですよ」

この人の手の周りだけ重力がなくなってるのだろうか。

でもにこにこ笑ってるのを見ると、本当に重くなさそうに思えてくる。

 

 

「あ、そういえば、名前…なんて言うんですか?」

「神威、だよ」

廊下を進む足取りは緩ませず、前を向いたまますたすたと歩いて言う。

 

 

 

「神威さん、ですか!あ、あたしは」

「Z組の、だよね?」

「え?名前…なんで知って…?」

 

そんなに有名人になった覚えはない。

むしろ、Z組の中では地味なほうに入る…と思うんだけど。

あの組個性強すぎる人だらけだし。

それともやっぱり神様なのかこの人は。お見通しなのか。

 

 

「ちょっと……知り合いに聞いてね。あぁ、あと『さん』はいらないよ」

「あ、はい、わかりました!」

…知り合いって、誰だろう。

そう思っていると、いつの間にか職員室は目の前だった。

 

 

「着いた着いた」

「本当にありがとうございました!!」

お礼を言ってから、ノートとプリントを受け取ろうと、手を出す。

 

「あぁ、そうだ」

にこにこ、と笑ったまま、神威はあたしのほうを見る。

 

「俺のことは、人に話さないほうがいいよ。知りたいとも思わないほうがいい」

 

神威はあたしの顎を右手でつかんで、ぐっと顔を近づけて小さな声で言う。

 

 

「…まだ、死にたくないだろ?」

 

 

とん、と鎖骨の辺りを指で突かれて、よろりと後ろへ下がると壁に背中がぶつかった。

そのまま壁に沿ってへたり、と座り込む。

 

今のは、何、だ。

 

 

「じゃ、俺は行くね。これは…ここに置いておくから、先生呼んで持っていってもらいなよ」

にこにこと笑う顔は変わらない。

さっき一瞬感じたものは、なんだったんだろう。

 

「それじゃあね、

 

くるりと背を向けた神威にハッと我に返って、その背に向かって叫ぶ。

「あのっ、えーと、荷物運んでくれてありがとうっ!!そのうち、お礼しますっ!!」

 

そう叫ぶと、ずっと閉じられていた目がぱちり、と開いて驚きの顔色が浮かんだ。

それもつかの間、すぐに笑顔に戻って神威は軽く手を振ってから歩き出した。

 

 

「…あ、組と学年聞くの忘れた」

どうやってお礼しよう。そんなことを思いながら、あたしは廊下に座り込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

「…か。強くはなさそうだけど…なかなか面白い子だね。もうちょっと…様子を見るのもいいかな」

 

 

 

 

 

不思議な神様との出会い





「うおっ、、なんでこんなとこに座ってんだよ!」

「あぁ、先生…」

「来るの遅いからどうしたのかと…ってお前、一気にこれだけ持ってきたのか!?」

「まあそうですけど、途中で……会った人に手伝ってもらいましたよ」

 

 

…ねえ、先生、神威って人知ってますか。

 

そうたずねようとして、やめておいた。

 

 

 

「そりゃご苦労だったな、。丁度今他の先生いねーから、いちご牛乳でも飲んでくか?」

「普通職員室で出てくるのってコーヒーとかお茶じゃないんですか」


 

 

 

 

 

あとがき

不思議出没人の神威。試作品なので、キャラが超偽者っぽいです。すいません。

なんて難しい人。今回は、幽霊部員ならぬ、幽霊生徒みたいな存在ですね。

2009/03/05