青空の下、毎日元気に看護学校へ通っていた私、坂本は、本日、事故に遭いました。

 

 

といっても、そこまで重体になったわけじゃないんだけど。

私の兄、辰馬と兄の仕事仲間の陸奥姉さんに言われて、私は今病院に来ています。

 

 

 

「あー、じゃ、君、今日から入院。5日くらいは出れないんで、要るもの持ってきてください」

 

 

黒髪の瞳孔ひらきっぱなしの白衣の先生に、そう静かに告げられる。

 

 

「…え、マジですか」

「マジです」

「そ、そんなに怪我酷いんですか…?」

 

見通しの悪い交差点で、運悪く、曲がってきたバイクとぶつかってしまった。

その時乗っていた自転車は見るも無残な姿になってしまったが、私のほうは割りと軽傷だった…はず。

 

 

おろおろと心細げに尋ねる私と、後ろで不安そうな雰囲気を漂わせている陸奥姉さんと辰馬兄。

 

「骨折はしてません。捻挫ってとこですけど、大事をとって、です」

「…まあ、確かに今は痛みは無くとも、後でどうなるかわからんきー、休んでおいたらどうだ

ぽん、と優しく私の肩を叩いて陸奥姉さんはそう言った。

 

 

「なーに、入院費なんか気にするでなかとー。そのくらい、平気じゃ平気」

あっはっは、と笑いながら言う辰馬兄に頭を撫でられながら、私は決心した。

 

 

「…じゃあ、しばらく、よろしくお願いします」

「こちらこそ。あぁ、それと俺ァこの病院の副院長の土方だ」

ぶっきらぼうに言った…土方さんに、私はぺこりとお辞儀をした。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、おんしの荷物はわしに任せておけ。このモジャモジャでは当てにならん」

それに女同士の方がいいだろう、と言って陸奥姉さんと辰馬兄は病院を去った。

 

 

「…で、えーとだったか。立てるか?」

「うーん…ちょっと…それは痛い、です」

 

流石にここまで来るのは救急車だったから、自分で立つとなると辛いものがある。

っていうか、さっきこの人私を名前で呼んだ?普通名字じゃね?

 

 

骨折はしていない、と言われた足をゆっくり動かしてみるが、やっぱり痛いものは痛い。

それに擦り傷は腕や足にもできていて、ピリピリと痛む。

 

「ま、普通は痛ェわな。気にすんな」

土方さんがそういった時、廊下の方からスリッパの音が聞こえた。

 

 

 

「よー副院長ー。今日は患者来て…………おじゃましましたー」

「妙な勘違いをしたまま帰るんじゃねーよこの天パが」

ひょこりと部屋を覗いた銀髪の男の人の腕を掴んで部屋に引き入れる。

この人も白衣を着てる…ってことは、やっぱりお医者様なのだろうか。

 

 

ぼーっとしていると、銀髪の人は私と目線を合わせるようにしゃがんだ。

「で、どーしたの?風邪か?貧血か?」

「い、いえ…捻挫しちゃいまして…」

「運動でもしてたのか?」

「ちょっと…事故っちゃいまして」

 

っていうか色々聞いてくるなこの人!

実際ちゃんとした診断聞いてないんだよ私!大問題だよ!

でも教えてくれないんだよね、土方さん。

そもそも院長は外出中らしくて、はっきりしたことは言えないーとか誤魔化されてしまったんだよね。

 

 

 

「そーかそーか事故か。じゃあ外科だなァ。なら俺の仕事じゃねーのか」

ということは、この人は。

 

「ふざけんなよ天パ。内科患者じゃねーからって暇になると思ったら大間違いだコノヤロー」

立ち上がって背伸びをした銀髪の人に、土方さんは厳しく言う。

「暇なら移動ベッド持って来いよ」

「あ?…え、もしかして入院?」

銀髪の人は私のほうを見て首を傾げる。

 

 

「なんか大事をとって、だそうです」

「そっか。そーかそーか!じゃあ長い付き合いになるかもな」

いや、短期入院です。

そう言う前に銀髪の人は私の手を取って言う。

 

 

 

「俺はこの病院の内科医、坂田銀時。以後よろしくな」

 

 

「えーと、坂本…です。よろしくお願いします」

さっきと同じようにぺこり、と頭を下げる。

 

 

「よし、ちゃんな。じゃあ部屋は…どーするよ多串副院長」

「多串じゃねぇっつってんだろ。部屋は603号室」

「おっ個室じゃねーか。よかったな、くつろげるぞー」

 

病院でくつろぐも何もないじゃないか、と思いつつも「そうですね」と返事をする。

っていうかまた名前で呼ばれたよね。名字じゃないの?

 

 

 

呆然としていると、坂田さんは私の前にしゃがんだ。

「じゃ、。俺が今からお姫様だっこで603号室まで連れてって…」

そこまで言ったところで、バシン、という音が響いた。

 

 

「いってぇ…!おま、カルテは叩くためにあるんじゃねーぞ!」

「うるせーよ。つーか捻挫してる患者に何しようとしてんだコラ。悪化すんだろーが」

 

どうやら土方さんは、言葉遣いは乱暴なものの、本当は優しいお医者様なのかもしれない。

 

 

 

 

坂田さんは、土方さんの机に乗った電話の内線を使って話を始めた。

「おい、大至急で移動ベッド一台、第2医療室まで持って来い。あー?文句言ってんじゃねーよ!」

その後医者とは思えぬ会話…の一部を聞いて、電話が終わった数分後にガラガラという音が聞こえてきた。

 

 

 

「コラァァ!この天パ!私をこきつかうとはどういうことアルか!今食事中だったアル!!」

「食事中ってお前、もう3時過ぎてんぞ。おやつも終わりの時間だろうが」

どーん、と部屋に突っ込むような勢いで入っていたベッドとピンクの髪をしたナース服の女の子。

 

 

 

「ほら、そこの子を603号室まで連れてってやれ。いいか、くれぐれも怪我を悪化させないようにしろよ」

「分かってるネ、私は銀ちゃんとは違うヨ」

ビシッと敬礼ポーズで言って、その子は私の元へ来る。

 

「私、神楽言うネ。何かあったらいつでも呼ぶヨロシ」

言いながら私をひょい、と持ち上げてベッドに乗せる。なんという力持ち…!!

 

 

「わ、私、坂本です…これからよろしくお願いします、神楽さん」

「敬語なんていらないヨ!さんもいらないネ!神楽って呼んでくれればいいアル!」

にっこりと笑って言う神楽に、笑顔で返す。

 

 

「じゃあ超特急で行くアル!ちゃんとベッドに掴まってるアルよ!」

「え?」

 

私の疑問の声を掻き消すように、ジェットコースター並みの勢いで走り出したベッド。

車輪がガタガタと外れそうな音を立てながら、エレベーターに乗り込む。

 

 

 

 

ああ、私、病院選びを間違えたかもしれない。

それよりも。

 

 

 

 

 

この病院、患者さんを名前で呼ぶのがデフォルトなんですか





(ここの先生たちには馴染みやすいかもしれないけど、その他が不安でたまらないんですけど!!!)


 

 

 

 

 

 

 

あとがき

白衣って素敵ですよね。そんな思いから始まった連載です。

まだまだ先生は登場いたしますので、お楽しみに。

2009/03/29