病院生活、2日目の今日。

流石にまだ足は治らず、上半身を起こしてベッドの上から窓の外を眺める。

 

 

6階の部屋なだけあって、景色はとてもいい。

っていうかこの病院、6階建てという結構大きな病院のくせに、人が少ない気がするんだけど。

大丈夫なんだろうか、と思っているとコンコン、と入口の戸を叩く音が聞こえた。

 

 

「具合はどーですかィ、

「あ、沖田さん」

がらりと戸を開けて入ってきたのはこの病院の外科医、沖田総悟さん。

ちなみに沖田さんにも、当然のように初対面で名前呼びをされた。

 

 

「痛みは昨日より引いてます」

「まあ捻挫ですからねィ。唾つけときゃ治りやすぜ」

「それどこの星の常識ですか。無理ですよ」

捻挫が唾で治るなら、医者はいらないじゃないか。

 

 

「ま、この病院の副院長であるこの俺にかかりゃ、普通の倍の速さで治してやりやすぜ」

「わーい頼もしいですー」

「何で棒読みなんですかィ」

どかっ、と私のベッドに座る沖田さん。

 

 

「…あれ?副院長って土方さんじゃなかったんですか?」

昨日病院に来たときに、そうやって紹介されたはずなんだけど。

「あぁ、今はそうですけど…すぐに俺が副院長になってやりますぜ」

フ、と怪しげな微笑を浮かべた沖田さんを見ていると、廊下の方からドタドタと走る音が聞こえた。

そしてバン!と勢いよく私の部屋の戸が開く。

 

 

「沖田ァァァ!!テメー、俺のマヨネーズどこへやりやがった!」

「はっ、どこの世界にマヨネーズ中毒の医者がいるっていうんでさァ。ちったぁ控えなせェ」

「なんだとコラァ!マヨネーズは栄養たっぷりなんだよ!」

「取りすぎは体に毒ですぜィ。俺が親切で捨てて…おっと」

ぱし、と自分の口を押さえる沖田さん。

 

 

「おま、お前捨てたのか!!マヨネーズ捨てたのかァァァ!!」

「親切でさァ。だって、こんなカロリー取りすぎの医者じゃ心配だろ?」

「え、ええー…」

そこで私に話をふるんですか。

っていうか、余りにも病院に似合わない会話のやりとりにびっくりして声も出ないんですけど。

 

 

この事態をどうしよう、なんて思っているとまたバーンと戸が開いた。

ー!元気してるアルかー!?」

満点の笑顔で飛び込んできたのは、神楽だった。

 

「まあそこそこ元気だよー」

「私、に早く元気になってもらうために良いもの持ってきたアル!」

そう言って両手に抱えた紙袋をざばーっとベッドの上にひっくり返す。

 

 

「元気になるには、いっぱい食べることネ!」

ひろげられたのは、どれも美味しそうなお菓子だった。

 

病院で出る食事はあっさりで、栄養のバランスの良いものだった。

お菓子なんて、ここにいる間は食べられないだろうな、と思っていたところにこれはちょっと嬉しい。

 

 

「ハッ、おめーは思考が単純ですねィ」

「うるさいアル、ドS野郎!そもそもお前なんでここにいるアルか」

「外科医が捻挫患者の病室にいたって不思議はないですぜィ…っと!」

言い終わらないうちに、沖田さんはベッドから飛ぶように窓際へと移動した。

 

 

「土方さん、カルテで人殴っちゃいけねーなァ」

「マヨネーズの仇…!」

まだ言ってる!!!

どんだけマヨネーズ好きなのこの人!!

 

 

「ちょ、土方さん、沖田さん、病室で暴れないでくださ…」

そこまで言いかけたとき、ついに開きっぱなしになった戸からまた1人部屋へと入ってくる。

 

 

「神楽ァアアァ!!俺の菓子をどこへ…って何食ってんだテメー!!!」

坂田先生はベッドの上に広がったお菓子の中から、ポッキーを食べている神楽の肩を掴んでガクガクと揺する。

「ちょっ、ちょっと待って、そんなに揺すったらポッキー喉に刺さっちゃいますよ!」

慌てて坂田先生の腕を掴んでその手を止める。

 

 

「そうヨの言うとおりアル!もうちょっと考えるヨロシ!」

「お前が威張ってんじゃねーっつーの」

ペシン、と神楽にデコピンを一発くらわせて、私のほうを見る。

 

 

「つーか何この部屋。なんでこんな人口密度高いの?」

「さあ…なんか、いつの間にか皆さん集まっちゃって…っていうか仕事はいいんですか?」

一番心配なのはそこだ。

ここに医者が終結してしまっていいのだろうか。

 

 

「あーあー、大丈夫大丈夫。今この病院、5人くらいしか患者いねーから」

「あ、そうなんですか………ってうおおーい!それ駄目でしょ!経営ピンチなんじゃないですか!?」

笑いながら軽く言ってのけた坂田さんに思わずツッコむ。

 

「あぁ、まーそこは院長の知り合いとかから、ね」

「ね、じゃないですよそれ」

 

何だか病院の裏側を見てしまった気分だ。

 

 

「それより、俺の菓子返せよ神楽」

「駄目ヨ!これはに元気になってもらうために持ってきたアル」

「元は俺のだろーが」

「銀ちゃんはこんなんばっかり食べてるから糖尿寸前になるのヨ!」

 

なんだと。

坂田さん、糖尿寸前なんですか。

 

 

「…ちゃん、その人を疑う目やめてね。予備軍なだけだから。寸前じゃねーから」

「似たようなものアル」

「お前ちょっと黙ってろよ」

続いてチョコパイに手を伸ばす神楽の手を叩き落として言う。

 

 

「…まあ、になら…わけてやってもいいぞ。何が欲しい?」

ベッドに広がったお菓子を拾い集めながら、優しい声音で言う坂田先生。

 

「じゃ…じゃあ、私は…」

「俺そこのマリービスケットでお願いしまさァ」

「はいはい…っておま、何突然口挟んでんだよ!」

土方さんが振り下ろしたカルテを白歯どりで受け止めながら、ちゃっかり口を挟んできた沖田さん。

 

 

「旦那ァ、1人占めってェのはいけねーぜ」

「わかったから暴れるな。そのマヨ医者連れて外にでも行って暴れてこいよ」

しっしっ、と犬でもあしらうかのように手を振って言う。

そして私のベッドの上で続けられるお菓子パーティー。

 

 

…私、何しにここにいるんだっけ。

 

 

 

 

 

 

 

今更ながら、この病院に来たことに後悔してます





(医者の方が健康状態悪いんですけど!大丈夫なの?本当に大丈夫なの!?)


 

 

 

 

 

 

 

あとがき

皆医者のくせして暇すぎです。

現実にこんな病院があったら、入りたいような、入りたくないような…やっぱり入りたくないな。

2009/04/18