病院生活もついに4日目。

病院とは思えない賑やかさに、目を覚ますのももう慣れてしまった。

 

ぱちり、と目を開けて体を起こそうとして、その異変に気付いた。

やけに体が重たい、というか…だるい。

 

 

「…ま、さか」

呟いた声がかすれていたことに、確信を持つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…微熱、だな」

朝ごはんを持ってきた神楽に体の異変を伝えると、すぐさま土方さんを呼んできてくれた。

 

「ま、こんなくらいなら今日一日安静にしてりゃすぐ下がる。安心しろ」

そういいながら、ぽんぽん、と頭を撫でる。

 

 

「土方さん…手、冷たくて気持ちいい…です」

体は寒いのに、頭だけ妙に熱くて、土方さんの手の冷たさが気持ちよく感じた。

「…とにかく、今ザキが薬持って来るから…」

そう言った時、廊下からだだだだ、といつもと同じ走る音が聞こえた。

 

 

 

が風邪ってマジかよ!?」

「やっと足が治ってきたっつーのに、災難ですねィ」

心配そうにして走ってきたのは、坂田さん。

沖田さんは、心配してるのかそうでないのかがサッパリわからない。

 

 

「テメーらなァ、風邪ひいてる奴がいるところで大声出してんじゃねぇよ」

土方さんの声は、大きくはなかったが、地を這うほど低かった。

 

「うん、わかった。わかったから睨まないでくれるかな多串くん」

「もうつっこむのもめんどくせーよ白髪天パ」

白髪じゃありませんー!銀髪ですぅー!と言う坂田さんの声は、さっきよりは小さかった。

 

 

 

「つーか何でお前らここにいるんだよ。お前らに話した覚えはねーぞ」

「神楽を問い詰め…ゴホン、聞いたんだよ」

「お前…」

呆れなのか、怒りなのか、何ともいえない声で土方さんは坂田さんの襟首を掴む。

 

 

、ちょっとこいつ捨ててくる。大人しくしてろ。総悟もな」

「俺ァ土方さんとは違って病院で暴れたりしやせんぜ」

「俺は暴れてねぇだろーが。あーもうお前もう喋るな」

土方さんと沖田さんのやり取りを聞いているうちに、少しずつ眠くなってきた。

 

 

土方さんが坂田さんを廊下へ引きずって行く。

やがて、姿は見えなくなった。

 

 

「…で。マジで熱出てるんですかィ、

そう言って沖田さんは私のおでこと、自分のおでこをくっつける。

沖田さんのさらさらの髪が頬をくすぐる。

 

手で、測ればいいのに。

そう頭の片隅で思ったが、声は出なかった。

 

 

「ふーん、微熱ですねィ。…あ、そうだ」

ぼすっ、と私の寝るベッドの空いている部分に腰掛けた沖田さんがごそごそと白衣のポケットを漁る。

「あったあった。ほら、に手紙ですぜ」

 

 

差し出された封筒を受け取る。

差出人は…辰馬兄と陸奥姉さんから。

2人とも仕事が忙しいはずなのに、わざわざ手紙かいてくれたんだ。

 

 

今は頭がぼーっとしてて読めないから、後で読もう、と枕元に手紙をそっと置いた。

その時、部屋に山崎さんが入ってきた。

 

「ごめんなさい、遅くなって…ってあれ?副院長は?」

「内科の旦那連れて、どっかいきやしたぜ」

「またか…」

はあ、と胃の辺りをさすりながら山崎さんは私の横へやってきた。

手に持ったお盆には、水と薬。

 

 

「ありがとう、ございます」

「ううん。遅くなってごめんね。大丈夫?起きれる?」

はい、と答えて起き上がろうとすると、山崎さんは背中を支えてくれた。

 

なんだろう、風邪の時って、こんなふうだっけ。

こんなに、小さな優しさを嬉しいって思うんだっけ。

 

私はもう1度、山崎さんにありがとう、とかすれた声で言ってから、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ますと、もう夕方を過ぎていた。

ベッドの脇に置かれた時計は7時を指している。

 

朝のことを思えば、体は少し楽になっていた。

よいしょ、とベッドから上半身を起こすと同時に部屋の戸が開いた。

 

 

「もう起き上がって平気なのか?」

片手に、おそらく私の今日の夕飯を持った土方さんが、後ろ手に戸を閉めた。

 

「大分、楽になってきたので」

「そうか。ま、ザキの薬はよく効くからな」

かたん、とベッドの横に机を移動させて、その上に夕飯を置く。

 

 

「どうだ、食べれそうか?」

「全部は…無理かもしれませんが、結構お腹減りました」

「なら、食べれる分だけ食べとけ。栄養取らねーと、治るもんも治らねーからな」

 

 

言いながら土方さんはごそごそと白衣のポケットを漁りだす。

「確かここに…おっ、あったあった」

そう言って取り出したのは。

 

 

「携帯用マヨネーズ。にゃ、特別にわけてやるよ」

「遠慮します、全力で」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が夕飯を食べてる間、マヨネーズ美味いのに、と呟く土方さんに、少し話しかけてみる。

「…あの、そういえばこの夕飯、誰が作ってるんですか?」

「あ?ああ、それは…」

土方さんがそう口を開いた瞬間。

 

 

「俺でーす!!この内科医にして料理もできる坂田銀時先生でっす!」

 

 

ばーん、という戸の音と共に、坂田さんが入ってきた。

ほんと、そのうち戸壊れるって。

 

「いちいちうるせーんだよテメーは」

「で、どうどう?俺の自信作!」

「聞けよ」

 

 

まったくもって土方さんの話を聞かない坂田さん。

「美味しいですよ。すごく」

お世辞ではない。実際、美味しいのだ。

病院のご飯とは、こんなものだったか、と思うほど。

 

 

「そっか。よかったよかった。が早く元気になるよーにッ!って念じておいたからな!」

私が笑って言うと、坂田さんは嬉しそうにそう言って笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そうだ」

ぽつりと口を開いた土方さん。

 

「ん?何ですか?」

「残念だが、、退院延期な。風邪のこともあるし、もうちょっと様子見ってことで」

 

「……えっ、ちょ、嘘ォォォーーー!!!!??」

 

 

 

 

 

まさかの発熱に退院延期





(病院の人も、出てくるご飯もそりゃ魅力的ですけど、退院はしたいよ!!!)


 

 

 

 

 

 

 

あとがき

ハイテンション坂田。ここまで名字を呼ばれ続けたのは久しぶりだと思います、ね、銀ちゃん。

何だかんだでみんなヒロインが心配でたまらないんです。

2009/05/17