病院生活も5日目を迎えた。

そんな1日の終わり。

 

 

「…ねっ…寝れない…!!」

 

ゆっくりと布団から起き上がる。

目をあけると、ゆっくりと部屋の暗闇に馴染んで、景色が見え始める。

 

真っ白の壁、ぽつりと置かれた小さな机とイス、そして小さな引き出し付きの箪笥。

部屋の電気は病院の元で消されてしまって、ここからではつけられない。

 

昼間の賑やかさからは、ここが病院だっていうことを忘れてしまうくらいだけど…

こうやって夜になると、ちゃんとここは病院で。

 

 

「………」

 

ばすっ、と背中から布団に倒れる。

目は天井を見つめたまま。外は遠くのマンションやお店の電気が小さく光っている。

 

音は、ない。

 

「……」

 

怖い。

個室だからこそ、余計に。

 

ただでさえ寝れないのに、怖くてもっと寝れない。

ふと枕もとのコールボタンを見る。

…いや、こんなことで呼ぶなんて迷惑でしょ。

 

なら、行ってみようか。

「……1人でいるよりは、マシ、だよね」

ぎゅ、と手を握りベッドから降りる。

そして、部屋の扉に手をかける。

 

 

頭の中でぐるぐるとありえない霊現象が回る。

いやいや、あるわけないから。そんなのないから。

少しだけ震えだした手をキッっと睨んで、勢いよく扉を開ける。

 

 

「うおおおっ!?」

「ふぎゃあああ!!」

ガララッ、と扉のスライドする音と共に聞こえたのは叫び声。

つられて私まで叫んでしまった。

 

 

「…っ、な、んだよ、何してんだよこんな夜中に」

「あ…ひ、じかた、さん…」

右手に懐中電灯を持って顔を引きつらせた土方さんがいた。

 

 

「っ!ひ、土方さん、今、お時間ありますか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

半分無理矢理、土方さんを部屋に引き込んで、私はもう1度ベッドに戻った。

私は上半身を起こしてベッドに入り、土方さんは横のイスに座った。

 

 

「どうしたんだ。何か…あったか?」

「いや、その…ね、寝れなくて」

呟くように出た声は、静かな夜には十分聞こえる大きさだった。

 

 

「ま、昨日あれだけ寝てりゃ眠気も覚めるか」

そう。昨日は風邪で、ほとんど丸一日寝てしまったのだ。

 

「…でも、土方さんも仕事…見回り、ありますよね。すみません、引きとめちゃって」

「いや別にそれはかまわねえが…お前はちゃんと寝ておいたほうがいい」

言いながら土方さんは私の肩に手を添えて、ベッドに寝かせる。

 

 

「明日になったら、またあのバカ共が来るだろうからな。体力持たねーぞ」

「あはは、それはそうかもしれませんね」

ふわり、と布団を肩までかけられる。

 

 

「夜の病院は、1人じゃ怖ェだろ。寝るまでここにいてやるから」

「土方さんは」

「怖くねェよ。俺はぜんっぜん怖くなんかねーよ」

 

怖いんだ。

きっとこの人も夜の病院怖いんだ。

 

 

 

「ふ、ふふっ」

「んだよ」

「いえ、なんでも」

最初は無愛想な人だなーって思っていたけど、やっぱりこの人は優しい人だ。

 

 

「ほら、目ェ閉じろ。そうしねーと、寝れるもんも寝れなくなる」

大きくて暖かい手が私の目にかぶさって、視界は完全な暗闇になる。

さっきまで全くなかった眠気が、少しずつ襲ってくる。

 

 

「…土方、さん」

呟いて、私は目にかぶさっている土方さんの手を握る。

少しだけ目を開いて、言う。

 

 

「ありがとう、ござい、ます」

 

そう言って微笑んで、私は、もう1度目を閉じる。

目を閉じる寸前、ほんの少し空いた隙間から見えた土方さんの目が驚いたように開かれていた気がした。

そして私の手は、するりと布団に落ちる。

 

 

 

 

「……」

消えそうな意識の中、土方さんが私の名前を呼ぶのが聞こえた。

 

それから、ぎしり、と顔の両脇でベッドのスプリングが軋む音が聞こえる。

顔に何かが近づく気配がして、それは、すぐに離れていった。

 

 

「…おやすみ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「患者にそういうことすんのは駄目っつったの、多串くんだよ」

「…なんでここにいやがる」

音を立てないように扉を閉めて、土方が廊下へ出るとそこには銀時がいた。

 

 

「や、夜の病院は怖いだろうから、の様子を見に。ちなみに俺は怖くねーから」

「じゃあその手にある消火器はなんなんだよ」

「…何があるかわかんねーだろ。ホラ、強盗とか」

おどけた様子で言ってから、銀時は真面目な顔で土方に向き合った。

 

 

「で。これはマジの話。駄目じゃねーの?そういうことすんの」

「してねえよ。未遂だ」

「でも、する気はあったんだー、副院長」

「うるせーよ」

にやにやと笑う銀時に、不機嫌そうな顔をして土方は呟く。

 

 

「患者とは、禁止だ」

そこで一旦言葉を切る。

「だが…退院したら、話は別だ」

 

 

「ふーん…お前の口からそんな言葉が出るとはな。誰かに重ねてんのなら、やめろよ。が可哀想だ」

「違ェよ。そうじゃねえ」

 

小さな声で、強く言った土方に銀時はにやりと笑う。

「ならいいけどよ。…じゃ、そろそろ戻って俺も寝るから、それ貸して」

言いながら土方の手に握られた懐中電灯を指差す。

 

 

「お前に貸したら俺が困るだろうが」

「じゃあ、これと交換しよーぜ」

「消火器なんざいるか。つーかお前怖いんだろ。一人で暗い中戻るのが怖いんだろ」

「違ェっつってんだろ!怖くねーけど、ほら、その、転んだりしたら危ねーだろ!」

「……」

「………」

「……一緒に戻るか、糖尿天パ」

「…し、仕方ねーな。一緒に行ってやるよマヨ中毒」

 

 

 

 

眠れない夜の病院は怖い以外の何者でもない





(土方さん、ちゃんと1人で戻れたかなあ、なんて思いながら私は夢の中へとおちていった。)


 

 

 

 

 

 

 

あとがき

土方さんの衝撃行動。未遂ですが。

ラストの銀さんは思ったより出番が少なかったので登場。銀魂病院諸法度みたいなのがあるらしいですよ。

2009/05/31