病院生活が6日目を迎えた今日。
朝ごはんを持ってきた神楽が、やけにテンション高く部屋に入ってきた。
「おっはよーアル、ー!!」
「おはよう神楽ー!どうしたの、今日はいつにも増して元気だねえ」
がしゃっと音をたてて、ベッドの横に置かれた朝ごはん。
今日のご飯も美味しそうだ。
「、、グッドニュースヨ!」
「んー?何、どうしたのー?」
「、明日退院できるって、さっき瞳孔副院長が言ってたアル!」
ごくり、とご飯が喉を通りぬける。
「たい、いん?」
ああ、そっか。退院。
「よかったアルな、!」
「う、ん!そうだね!やっと病院生活から解放されるねー!」
あはは、と笑いあう私たち。
「あ、お茶持ってくるの忘れたアル!すぐ持ってくるから、ちょっと待ってるヨロシ!」
そう言って神楽はパタパタとスリッパの音を響かせて、病室から出て行った。
「…退院…か…」
なぜかはわからないけれど、実感がわかなかった。
「……何やってんでィ、バカチャイナ」
「うるさいネ、サド野郎」
「…言ったのか、に」
「……、うれしそうだったアル。だから、私も、が退院できるのは、嬉しいネ」
「…そーかィ」
それだけ言って、沖田はあくびをしながら廊下を歩いて行った。
「…嬉しい…はず、アル。………」
そう呟いた神楽の声が、普段からは考えられないほど弱かったことを、私は知らない。
朝ごはんを食べ終えて、ベッドに座ったまま窓の外を見ていると、こんこんと戸がノックされた。
「よーっすちゃーん!元気してるー?」
「お前病室入るときは静かにしろっつってんだろうが」
ガラリと戸を開けると同時に入ってきた坂田さんと土方さん。
「元気してますよー」
「うんうん。元気が一番。…で、たぶん神楽あたりに聞いてると思うんだが…」
ぽりぽりと頭をかきながら坂田さんは私のベッドの足もとのほうに座って言う。
「はい、明日退院できるんですよね?…ドッキリとかじゃないですよね?」
ここの人たちならやりかねないと思う。
「ドッキリなんかじゃねーよ。だから安心しろ」
「そうそう。どうせ仕掛けるなら、逆に1年入院になったーとか言うぜ」
「ほんっと病院らしくないですよねここ!」
「んでさ」
坂田さんが口を開く。
「もう今日までしかここにいられねーんだし、ちょっと散歩しねぇ?」
「明日いきなり足動かすのも負担がかかるからな。今日から少しくらい慣れておいたらどうだ」
めずらしく、坂田さんと土方さんの意見が合ってるなあ、なんて思いながら私は二人の誘いに乗った。
「わー!やっぱり見晴らしいいですね!」
「おう、絶好のサボ…昼飯処だぞ」
「テメー院内で見ないと思ったらこんなとこでサボってやがったのか」
ぎゃあぎゃあと口論を始める坂田さんと土方さんに連れてこられたのは、屋上。
私が泊っていた6階よりも、ひとつ上の階。
手すりに手を添えて、町を眺める。
ああ、私の家ってあのへんだっけ。辰馬兄も陸奥姉さんも、あのあたりで仕事してるんだよね。
「結構、見晴らしいいだろ?」
私の右側で、手すりにもたれかかる坂田さん。
「遠くまで見えるように、っつって無駄に高く作ったんだよな、近藤さんが」
ふう、と息を吐く土方さんは私の左側に立つ。
「な、ちゃんどこらへんに住んでんの?」
「あのへん、ですよ。ほら、あのマンションが建ってるところの右側」
指をさす私のほほを、冷たい風が吹き抜けていく。
「坂田さんと土方さんはどこらへんに住んでるんですか?」
「俺ァここに住んでんだ。近藤さんも、総悟もな」
言いながら土方さんは、私の顔にかかった髪をそっと払ってくれる。
「俺は結構近いぞ。えーと、あそこにある公園の近くのー…ほら、あれだよアレ!」
ぐいぐいと体を乗り出して指をさす坂田さん。
「ほんとだ、結構近いですね!自転車で行けそうですよ」
「ふははは、羨ましいだろ多串くん!」
「土方だっつってんだろ」
話し合ってるうちに、時間はお昼になっていた。
「んじゃ、俺は名残惜しいけど、仕事入っちゃってるから行ってくらァ」
「がんばってくださね」
そう言うと、坂田さんは優しく笑って、風で乱れた私の髪を撫でた。
「土方くんに襲われそうになったら、全力で叫べよ」
「お前庭にでも埋めてやろーか、マジで」
部屋に戻ると土方さんも「そういえば近藤さんに呼び出し食らってたんだ」と言って病室を出て行った。
そのすぐ後にお昼ご飯を持ってきた神楽と一緒に、私は昼食を済ませた。
「ずるいアル!私もと一緒に散歩したかったネ!」
むきー!と暴れる神楽を抑えて、私は言う。
「じゃあ、今から行く?」
にっこりと笑った神楽に手をひかれて、私は再び病室を出た。
どこにいこうか、と喋りながら歩いていると、新八さんと山崎さんに会った。
「あ、ちゃん」
「新八さん、山崎さん、こんにちはー!」
「ああ、そうだ。聞いたよ、ちゃん明日退院なんだって?」
「そうなんですよ、なんか思ったより長くなっちゃって」
そもそも最初は、入院なんてするつもりは無かったんだけど。
「新八さんは、退院いつごろなんですか?」
「僕は一応、明後日が予定だよ。ちゃんが退院した次の日だね」
にっこり笑って言う新八さん。
「お前退院したってすぐまた入院すんだろーがヨ」
「うるさいよ!今度は気をつけるっていうか、回避するし!!」
そんな二人のやりとりも、今日で見おさめ。
「…さみしい?」
「え?」
言い合う神楽と新八さんを見ていると、山崎さんがそう尋ねてきた。
「寂しそうな顔してたよ、今」
「…さみしい…んでしょうか。でも、退院はしたいですし…」
そう言って少しだけ俯いた私の背中から、声が聞こえた。
「別に、もう会えないわけじゃねーだろィ」
「…沖田さん…」
振り返ると、そこには沖田さんが立っていた。
「会いたくなりゃ、会いに来ればいいんですぜ。どーせ皆忙しくないでしょうし」
普段と変わらぬ声で沖田さんは言う。
「だから、が来たいと思ったらいつでも来りゃいいんでさァ」
病院に、用もなしに来ちゃだめでしょ、と言うはずが、私の口からこぼれたのは違う言葉だった。
「…いいんですか、また、来ても」
「そのかわり、健康状態で来るなら手土産持ってきてくだせェよ」
にやりと笑いながら沖田さんはそう言って、「じゃあ昼寝行ってきやす」と手を振って廊下を歩いて行った。
沖田さんが歩いていくのを見送っていると、山崎さんがそっと肩に手を置いて体を支えてくれた。
「あんまり歩きすぎて、明日疲れちゃダメでしょ。ほら、もうそろそろ病室戻っておこう?」
こくり、と頷いてから神楽を呼んで、新八さんに挨拶を済ませる。
病室への帰り道は、右手を山崎さん、左手を神楽に握られて歩いた。
二人の温かい手に、皆の温かい心に、私は、嬉しさと寂しさを感じていた。
完治した後に感じた寂しさ
(あんなに退院したいって思ってたのに、今は、皆と離れるのが、寂しい、なんて。)
あとがき
ちょっぴりシリアス。皆なんとかテンション上げようと必死です。退院してほしいけど、してほしくない。そんなジレンマ。
全員喋らせたら長くなりました。ハイテンション坂田がいると話が進みやすくて助かるんですけどね(ぁ
2009/06/21