病院生活、7日目。
ついに退院の日がやってきた。
ゆっくりとベッドから起き上がる。
カーテンを開けると、明るい朝の日差しが部屋に降り注いだ。
「今日で、この部屋ともお別れかあ」
入院した当初の私なら、「よっしゃぁぁぁ!退院!退院ー!」と思いっきりはしゃいだだろう。
「…病院が、居心地いいなんて、ありえないよね…」
はあ、と漏れた溜め息と自嘲気味の笑顔。
部屋の隅にまとめられた荷物をぼーっと眺めていると、部屋の戸がノックも無しに開いた。
「おっはよーさん、ちゃん」
「よう、気分はどーですかィ?」
「坂田さん、沖田さん…」
戸の方を向いて、ぽつりと呟く。
もう、明日からこんな風に沖田さんや、坂田さんたちと挨拶をすることもなくなるんだ。
「もっちろん、気分良いですよ!足も治りましたし、家まで走って帰れそうですよ!」
えへへ、と笑って言う。
「…ったく、退院できるっつーんだから、もうちょっと嬉しそうにしろよ」
顔に退院したくないって書いてあるぞ、と坂田さんは言いながら私の頭をそっと撫でる。
「…ごめん、なさい」
「なーに謝ってんの」
ふう、と息を吐いて坂田さんは私と目線を合わせる。
「俺の担当科は?」
「…へ?」
「だから、俺が担当してるのは何科だ、って聞いてんの」
え、えっと、沖田さんが確か外科だから…。
「坂田さんは、内科…でしたっけ?」
「ピンポン。風邪引いたら、まっさきにここへ来いよ。風邪気味とかでもオールオッケーだからな」
そう言って坂田さんはにっと笑った。
「別に風邪じゃなくても、また怪我してきたっていいんですぜ。もっとこう、複雑骨折とかして来なせェ」
「嫌ですよ!!!そんな重症で入院はしたくないです!!!」
「チッ、俺の腕の見せ所なんですけどねィ」
怪我してくることを願ってどうするんですか、と思いながらも私は、いつの間にか笑っていた。
そうだよね。ずっと会えないわけじゃないんだから。
荷物を持って病院の入口へ立つと、辰馬兄と陸奥姉さんが待っていた。
「久しぶりじゃのー、。元気しちょったかー?」
「いや、何その旅行行ってたみたいな言い方。私入院してたんだけど」
「おお、そうじゃったのー」
大丈夫か辰馬兄。
…辰馬兄の方が入院した方がいいんじゃないの…ってのは言い過ぎかな。
「まったく、お前は何しに病院まで来たと思ってる。お前が入院するがいいぜよ、このモジャモジャ」
ふん、と疲れたように言う陸奥姉さん。
…うん、私も、そう思う、よ。
「それじゃ、お世話になりました」
くるりと病院内にいる、坂田さん、神楽、土方さん、沖田さん、山崎さんを振り返る。
皆さん仕事はどうしたんですか、なんてもう聞かない。
「!風邪引いたら、また来いよ!寧ろ直接俺の家でもいいから」
「いいわけあるかァァ!!最後の最後までふざけてんじゃねぇよ!」
スパーン、と平手で坂田さんの頭を叩く土方さん。
「ー!今度は怪我してない時に来るヨロシ!一緒に遊ぶアル!」
「バッカじゃねーのくそチャイナ。怪我も病気もしてなかったら病院来る必要ないだろーが」
「うるさいアルサド外科医!」
「あああっもう、2人ともやめてくださいってば、ちゃん困っちゃいますよ…」
「うるっさいアル地味薬剤師!」
「ザキは引っ込んでろィ」
そこだけ一致団結で叫ぶ沖田さんと神楽。
ショックを受けて固まる山崎さん。
「とにかく、退院おめでとう。」
「土方さん…はい、お世話になりました」
初めは少しだけ怖いと感じていた、瞳孔開きっぱなしの目も、ぶっきらぼうな言葉も、今では慣れてしまった。
「落ち着いて入院…なんてできなかっただろうな」
「そうですね」
ぎゃあぎゃあと揉める3人を止めに入った坂田さんは、何だかんだで一緒に騒いでいる。
「ったくあいつら…うるせーっつーの…」
「でも、お陰で寂しいとか、暇とか思わずに済みましたよ」
1週間も入院して、つまらないとか、退屈なんて思った日は無かった。
部屋に1人でいる時間は少なかった。
「私、この病院に入院できてよかったです。…あはは、何の挨拶でしょうねコレ」
「まったくだな」
そう言った土方さんの顔にも笑みが浮かんでいた。
「それじゃ、これで失礼します。本当に、ありがとうございました!」
ぺこりと頭を深く下げる。
私の鞄を持った辰馬兄と、陸奥姉さんと共に病院を後にする。
背中から聞こえてくる声に、振り返らず手だけ振って、私は歩き出した。
しばらく歩くと、もう病院は見えなかった。
声も、もう聞こえない。
「……時に」
「ん?なあに?」
私の鞄をブンブンと振りながら歩く辰馬兄は言う。
「おんし、就職活動はどうなっちょるん?」
「……あ」
すっかりと、忘れていた。
1週間もあったんだから、求人誌っていうか、就職募集先探せばよかった!!!
ざあっ、と血の気が引く。
どうしよう。
面接とか、たくさん練習してきたのに、もう半分くらい忘れちゃったよ。
「そうか。ももう就職か…専攻は何にしちょるんじゃ?」
「ええと、私今看護学校行ってて……」
あ。
あるじゃないか、就職先。
給料とか、そこらへんは不安だけど。
でも、環境や雰囲気は今まで行ってきた就職希望先のどこよりも良い。
知らぬ間に、顔がにやけてしまっていたのか、辰馬兄は笑顔で私の肩を叩く。
「良いとこ、みつかったみたいじゃの」
「…うん。すごく、行きたいとこ、みつけたよ」
そして、履歴書を持って再びあの病院、銀魂病院へ行くのは、一週間後の話。
退院、そして再来院
(「就職希望で来ました、坂本です!」「…って、ええぇええ!?マジかよ!」
「大歓迎ヨ!これからよろしくアルー!!」
「まさか、その手でくるとは思ってやせんでした」
「うん、ほんっとびっくりしたよ。でも、おかえり、ちゃん」
「気が早ェんだよテメーらは。…で、どうすんだ近藤院長」
「もっちろん、採用っ!」)
あとがき
ギャグになりきれず、ほのぼの王道エンドを迎えました。オ、オチ見えてたらすいません…!
入院話はこれで完結!お付き合い、ありがとうございました!!!
2009/07/03