「いったーい!!」
「そりゃ怪我してんだからなァ」
「そ、それはそうですけど…痛いものは痛いんですっ…!」
今日の天気は、曇り。
団長に連れられて、さっきまでは戦場にいました。
わけもわからぬまま、団長に「合図したら撃ってね」と言われて、バンバンやってきました。
っていうか、団長はいつも何をしているのか教えてくれない。
何してんですか、何かの交渉なんですか。
…っと、それはともかく。
さすがに殺すのは躊躇われたので、私は急所を避けてひるませる程度に射撃をしていました。
その所為か、敵の一発の銃弾が私の肩を貫きまして。
それはもう、痛くて痛くて。
その場で叫んで、肩を抑えて止血して。
そうしているうちに敵…の組織?は団長が殲滅したそうです。うわあ、ご愁傷様です敵さん。
そんなこんなで、敵陣地から帰って今現在。
阿伏兎さんに手当てをしてもらっているわけです。
阿伏兎さん曰く、そこまで傷は重症ではないらしいですが、痛いものは痛いんです。
「地球人は肌も何もかも軟くて…不便だねぇ」
「不便て。…これが普通なんですよ。普通は、撃たれた傷が分単位で戻るなんてありえないんですよ」
「そーかいそーかい」
さっぱり人の話を聞いていないんじゃないか、という返事の仕方で阿伏兎さんは私の肩に包帯を巻いていく。
「よし、これで終わりだ」
きゅ、と包帯の端を結んで、私の肩から阿伏兎さんの手が離れていく。
ちらりと横目で見てみたところ、たぶん、私が巻くよりもきれいに巻けている。
「阿伏兎さん、上手ですね…」
「まあ自分の巻いたりしてたからねェ…。他人のなんか簡単なもんさ」
ふー、と息を吐いて阿伏兎さんは私の部屋から出るため、立ち上がろうとした瞬間にスパーンと戸が開いた。
「、怪我は治ったかい?」
「治るわけないじゃないですか。地球人なめんじゃないですよ団長」
相変わらずにこにこと笑いながら部屋に乱入してきた団長。
阿伏兎さんは出るタイミングを失ったのか、ぽかんとして床に座ったまま。
「おかしいなー。もう治ってると思ったんだけど」
「団長の回復力と一緒にしてくれちゃ困るんですってば」
何度私は地球人だ、って言ったらわかってくれるんでしょうかこの人は。
心の中でため息をついていると、団長は私の肩を見ながら言った。
「ふーん、怪我したのって肩だったんだ。撃たれたの?斬られたの?噛み付かれたの?」
「明らかに最後のやつおかしいですよね」
ツッコミをいれてから、撃たれたんですよ、と小さく言う。
ふうん、と言いながら、いつものニコニコ顔で団長は私の肩を見続ける。
なんなんだ、と思っていた矢先、団長はおもむろに私の着物に手をかけ、一気にずり下ろした。。
「ぎゃああああ!何してんですか団長ォォォ!!!!」
突然の団長の行動に、痛みも忘れてブンっと腕を振り、団長の腕を振りほどく。
そしてすぐさま着物を肩へとあげる。
サラシは巻いてたから、まあ、その、む、胸はガードできたけど、さあ!
何かが。女としての何かが今吹き飛んでしまった気がする。
「元気じゃん、」
「元気じゃないですよ!いきなり何するのかと…!ほら!阿伏兎さんもポカーンってなってるじゃないですか!!」
部屋を出るタイミングを、もはや完全に失ってしまったであろう阿伏兎さんを指差す。
「あれ、いたんだ阿伏兎」なんて言う団長は鬼だと思いました。
「とにかくっ、今日は、ほっといてくださいよ」
押さえた手の下、肩が痛み出す。
ああもう、せっかくおさまってたのに。
「ねえ。そんなに傷口押さえたら、また血が出るんじゃない?」
「え…?」
そっと押さえていた手を退けてみると、うっすらと、包帯に赤がにじんでいた。
「ほぎゃああ!せっかく阿伏兎さんが巻いてくれたのに!」
そう叫んだ瞬間。
「へえ、阿伏兎が」
という団長の冷たい声が響いた。
部屋の温度が下がった気がした。
そして団長は私の怪我をしていない方の腕を引いて、立ち上がらせる。
「…え、何ですか」
「血、にじんでるんだから、取替えなきゃいけないだろ?俺が巻いてあげるよ」
「全力で遠慮してもいいですか」
「駄目」
はあ、とため息をついてから、私の手を引いて前を歩く団長の後をとぼとぼと歩く。
きっとこの後「これくらいの傷なら、3分で治るだろ」とか言われるんだろうな…。
はあ、とため息をつくと団長は部屋を出る寸前に、ぴたりと足を止めた。
「ところで阿伏兎」
「…なんですかい、団長」
私から団長の顔は見えない。阿伏兎さんも、どうやら団長の顔は見えていないみたい。
「を撃ったやつ、俺が殺したっけ」
「多分、アンタだろうねぇ。少なくとも俺は違うぜ」
え、何ですか、急にこんな重い話して。
一人ついていけていない気がして、もどかしくなる。
そんな私の気持ちも知らず、団長は言葉を紡ぐ。
「そいつ殺すときさ、俺笑ってた?」
「……アンタ、あの時ずーっと笑ってたからそうなんじゃねぇの?」
阿伏兎さんがそう言うと、団長は「そう」と短くつぶやいて、また歩き出した。
完全に気を抜いていた私は、急に手を引かれた所為で躓き、団長の背中に顔をぶつけた。
「へぶっ!ちょ、だ、団長、歩くときは、言ってからにしてくださいよ」
「どんくさいねーは」
「もういいです。団長はずっと喋らなくていいです」
結局、さっきの会話の謎は解けなかった。
後で阿伏兎さんにも聞いてみたけど、はぐらかされてしまった。
それよりも驚いたのは、思ったよりも、団長が普通に上手に包帯を巻いてくれたことです。
…そういう、普通のこともできるんですね。
ちょっとヘマして怪我した日
(「を撃った奴は、笑って送ってやりたくはなかったなーなんて俺らしくないかなぁ、阿伏兎」「しったこっちゃない」)
あとがき
資料が少なすぎて難しいんですけどこの2人。
ヒロインを撃った奴にむかつくのもあるけど、阿伏兎が一番にヒロインの怪我の手当てしてたのも気に食わない。
そんな俺様神威のお話でした。
2009/07/27 *サイト二周年記念更新2