春雨の戦艦の中、今日も私は自分の部屋で仕事をしていました。

団長がサボった書類仕事をひたすら処理していました。

 

 

最後の書類を書き終えて机にからん、と筆を落とす。

「お、終わった…終わったぁぁああーー!!」

叫びながら、ばたん、と仰向けに床に倒れる。

なんだか数日前にもこんな感じのことをしたような気がする。デジャヴ?

 

 

気のせいかな。

そう思いながらふと時計を見ると、もうお昼の1時を過ぎていた。

「お昼ご飯…食べに行こうかな」

今日は仕事頑張ったし、ちょっと奮発しちゃおうかなーなんて思いながら鞄を漁る。

 

「……うっそ、でしょ」

財布がない。

 

ふと数日前の出来事が頭をよぎる。

団長に、ニコニコしたまま財布を持っていかれたあの記憶が。

 

 

 

 

そんなまさか、と思っていると部屋の戸がノックもなしに開いた。

「やあ。仕事は終わった?」

ニコニコしたままそう言い放った団長に、私は、叫んだ。

 

 

「…団長ォォォーーーー!!!」

掴みかからんほどの勢いで団長へ詰め寄る。

団長はまったくもって気にする様子も無く、「なに、」とつぶやいた。

 

 

「またやりましたね!!」

「何のことだかサッパリなんだけど」

「財布!!また私の財布勝手に持ち出したでしょう!!」

「財布…?」

 

いつも閉じられている目をぱちりと開いて、団長は私を見る。

それから再び目を閉じて、少し考えるように腕組をして言う。

 

 

「俺じゃないよ。どこかで落としたんじゃないの?」

「しらばっくれても無駄ですよ!団長には前科があるんですから!」

落としたという線は薄い。

この間、出かけはしたけど、帰った時にはあったんだもの。

 

 

「どこかに仕舞い込んだんじゃないの?」

「そんなはずないです!いつもあの鞄に……」

 

…あれ。この間、別の鞄で出かけなかったっけ。

団長の視線を背に受けながら、数日前の出来事を思い出す。

 

 

「……そういえば。この間阿伏兎さんと一緒に出かけたとき、別の鞄に入れて……そのままだ」

 

 

ぽそりとつぶやいてから、もうひとつの鞄を探る。

「あ、ありました!いやぁ、よかったよかった!」

背後に感じる冷気をかき消すように、笑う。

 

 

 

で。俺を疑ったことに対する詫びは?」

 

 

消せませんでした。非常に、お怒りのようです。

 

 

 

「……ほんっとすいませんでしたァァァ!!!」

、君はそんなんで俺が許すと思ってるの?」

「すいません、思ってません」

 

形振り構わず、土下座体勢で謝る。

相変わらず、頭上からは恐ろしいほどの冷気が漂ってます。むしろ殺気じゃないのこれ。

 

 

、顔上げて」

冷たい空気を纏ったまま、私の目の前へきた団長が静かに言う。

 

「…顔上げた瞬間に首パーンとか無いですよね」

「………あるわけないだろ」

「何ですか、その間は!」

視線だけ上へ向けていると、「さっさとしなよ」と強引に髪の毛を掴み上げられて顔を上げさせられた。

 

 

「痛い痛い痛い!抜ける!髪の毛抜ける!」

「うん、そのまま顔上げててね」

「髪の毛抜けることに関しては無視なんですか」

 

何がしたいんだこの人は、と思っていると、団長はごろりと私の膝に頭を乗せて寝転んだ。

 

「え、だ、団長!?」

「うるさい。さっきお昼食べてきたら、眠くなってさ…。昼寝しようと思っての部屋に来たのを思い出したんだよ」

ふああ、とあくびをする。

その反動で膝に乗っていた団長の髪が床に落ちる。

 

 

「…いや、自分の部屋で寝てくださいよ」

「どこでもいいだろ…それに、さっきの侘び。これで、チャラにしてやるからさ」

俺って優しいねー、なんてつぶやく声はだんだんと小さくなっていく。

どこら辺が優しいんだ、と言い返す前に、私の膝の上からはすうすうという規則的な寝息が聞こえ始めた。

 

 

「…私、まだお昼食べてないんですけど」

静かな部屋に、私の声は寂しく響いた。

 

 

 

 

 

 

結局団長が起きたのは、3時間後くらいだった。

もう、私の足は限界を超えていた。

 

「何、しびれたの?弱いなあは」

「じゃあ団長もやってみてくださいよ…!この、この痺れは絶対誰にでもきますって…!!」

「ええー、やだ

 

この我侭団長めぇぇぇ!!優しくない!やっぱりまったくもって優しくない!!!

 

 

 

 

 

財布失踪リターンズ




(「ところで、何で阿伏兎と出かけるときはそんな余所行き鞄なんだい」

「え?そりゃ、お出かけですから」

「俺のときはそのままだったよね」

「団長はいつも急だからですよ!阿伏兎さんとは予定立ててますもん!」

「へー、、あいつとそんなに仲良かったんだ」

「(……あれ、なんか地雷踏んだ?ていうか、今また殺気が流れ出てたんだけど!!)」)

 

 

 

 

 

 

あとがき

神威の不器用シリーズみたいになってきましたね。不器用嫉妬。

ヒロインと阿伏兎は仲良しなんです。苦労人仲間みたいな感じなんです。

2009/09/02