今日も江戸は平和でしょうか。ここからじゃよくわかりません。
江戸に住む両親や友達は元気にしているでしょうか。
なんてことを考えながら、団長の部屋へと足を進める。
命にかかわることもあるから、本来ならば進んで行きたくないのだけれど今日は呼び出しがかかってしまいまして。
…私、別に何もしてないよ、ね?
いや、何かやってたとしたら、その時その場で団長はシメるはず。
そう考えながら歩いているうちに、気づけばもう団長の部屋の前に到着していた。
閉じられた戸に手をかけると、中から声が聞こえた。
「…、…だろ?」
「…何を考えてんだ、アンタは」
団長と、阿伏兎さんの声…?
きょろきょろと周りを見回しても誰もいない。
…今入っても邪魔なだけだし!ちょっと、タイミングをうかがうってことで…!
ぺこりとお辞儀をしてから、そっと、ほんの少しだけ隙間を空けて戸に耳を近づける。
「なんだってアンタはあんな地球人の子を連れてきたんだ。こんな世界は酷だろうがよ」
「じゃあ阿伏兎が書類仕事やってくれるのかい?」
「自分の分は自分で片付けてらァ。アンタも自分のは自分でやれよ」
も…もっと言ってやってください阿伏兎さん!!!
「ええー」とか不満そうに言ってるバカ団長に!もっと言ってやってください!
「つーか、そんなことの為だけに連れてきたのか、って聞いてんだよ」
「そんなことはないよ。の射撃の腕は認めてるし」
…え、あれ、これ私の話だったんですか。
っていうか認めてるって、ええ、私の力なんて、お祭りの射撃で取れないものは無い程度ですけど!
実戦とか無理なんですけど!
「それはともかくなァ、こんな天人だらけの所に放り込んだら、後々大変だろうが」
「そう?結構馴染んでると思うんだけど」
「そうじゃねーよ。アンタや俺がいりゃ、他の奴らは手出しできないだろうが…いないときに殺されてもしてたらどうすんだ」
なんだか物騒な話になってきた。
えええ、私ここにいたら危ないんですか。
「今までやってこれたんだから、大丈夫だろ」
そう言って、団長は少しだけ間を空けて再び口を開く。
「阿伏兎、なんか妙にの肩を持つよね」
「は?」
は?
…心の中で、阿伏兎さんとハモってしまった。
「っていうか、最近仲良いみたいだね。なに、手懐けてどーするの?」
「どうするじゃねーよ。アンタが俺に面倒見は任せた、って押し付けた結果だろうが」
「…そうだっけ?」
「そうだよ」
そういえば、そうだ。
私は団長に連れてこられたのに、ここへきたとたんに阿伏兎さんの前に突き出されたんだ。
「阿伏兎、この子の面倒見てやってよ。それで一人前の狙撃手にしてやってね」と言い放って去っていったんだ。
「そっか、俺が言ったんだっけ」
「今頃になって自分の手元に置いておきたいくらいあの嬢ちゃんが大切になったのか?」
「ハッ、まさかぁ」
鼻で笑いやがった。
そこもうちょっと躊躇ってくださいよ団長ォォォ!!!
私…いてもいなくても、どっちでもいい子、なんですか…!?
「俺は"大切にする"なんて方法知らないんだよ。だからには俺がうっかり殺さない程度に強くなってくれないとね」
「アンタが相手じゃ、大抵の奴は死んじまうぜ」
ご尤もです、阿伏兎さん。
そんな阿伏兎さんの声も気にしないで団長は言葉を紡ぐ。
「ただ、そこにいるのが当たり前になってるだけだよ。阿伏兎と同じさ」
「そーですかい」
「そう。…そこにいるのが、当たり前。俺以外の奴に消されるなんて、ありえないんだよ。だから…」
そう言って、団長は私のいる戸へと近づく。
………え?
「これからも俺の団で働いてね、」
「えっ、ええ!?」
言うと同時に、バーンと開けられた戸にうろたえる。
いつから、気づいてたんですか団長!
「働いてよ。…なあ、?」
「はい。全力でがんばらせていただきます」
ひゅう、と冷たい風が吹いた気がした。
「もちろん阿伏兎もだよ」
「……へいへい。わかってらァ」
はああ、とため息をついてから立ち上がる。
そんじゃ俺は退散するぜー、と言って部屋を出ようとする阿伏兎さんの服をつかんで引き止める。
「ちょ、ままま待ってください阿伏兎さんっ!」
あんな冷ややかなオーラ出した団長と2人にしないで!明日の朝日が拝めなくなってしまいます!
…とは、本人を前にいえなくて。
「あの、だっ、団長とのお話邪魔しちゃってすみません!私の方が、すぐ退散しますんで!」
ぐいぐいっと阿伏兎さんを部屋のほうへ押し込んで、くるりと団長の方へ向き直る。
「団長、お、お話邪魔しちゃってすいませんでした!!!」
がばっと頭を下げて、一目散に部屋を出た。
廊下を走りながら、ふと思う。
団長と阿伏兎さん…やっぱり、種族が同じだから仲良しなのかな。
いや、べつに羨ましくなんてないけど!あんなパワフルな友情私にはついていけないから!
…羨ましくなんか、ないもん!
団長と阿伏兎さんは仲良し
(「…っていうか、俺がを呼んだんだけどなあ」「俺通りかかっただけなんだけどねぇ」
「ま、いいや。それにしても、ほんと仲良いよねー阿伏兎と」
「なんつーか、出来の悪い…放っておけない妹、みたいな感じなんだよ」
「……いもうと、ね」)
あとがき
捻じ曲がった感情と表現をする団長。
そしてほぼ対等に接してる神威と阿伏兎にほんのちょっとだけ嫉妬気味のヒロインのお話でした。
2009/09/15