今日も朝がやってきました。
まだ眠い目をこすって、顔を洗って目を覚まして部屋に戻る途中、神威団長に遭遇した。
「あ、おはようございます……神威団長」
「うん。おはよう」
まだ早朝だというのに、神威団長はかっちりと服を着ている。いつから起きてるんですか。
なんて思いながらも口には出さず、神威団長とすれ違った瞬間。
ふわり、と普段はしない、香水のようなものの香りがした。
「あれ。神威団長って、香水なんてつけてましたっけ?」
「ん?…ああ、何か匂う?」
ぱたぱたと両手を上下に振って尋ねる神威団長。
「何か…女物の香水の香りがしますけど」
「そっか。やっぱ遊郭行くと匂いついちゃうんだねえ」
「そうみたいですね」
「……」
じいい、と顔を見られる。
神威団長の顔はいつもどおりのニコニコ笑顔。…逆に、怖い。
「な、何ですか。顔洗ったとはいえ寝起きに変わりはないんですから、見ないでほしいんですけど」
「そんだけ?」
「はい?」
「遊郭行ってきたことに対する感想は、それだけなの?」
「ええ…まあ…」
何が、聞きたいんだ。
何を言ってほしいんだろう。
だんだん背中が冷たくなってきた。
これ、何か言わないと死ぬんじゃないの私。
「え…っと、あ、神威団長も行くんですね、遊郭とか。女の人に興味無いんじゃないかと思ってたんで、びっくりです」
いやー、ほんとびっくりびっくり。
「………」
「…え、と……」
どうすればいいの、この人。
わからない!私にはわからない!ベストな答えがみつからない!!
「…はさ」
ぽつりと、呟く。
「自分の団の団長が遊郭とか行ってても怒ったりしないの?」
「は、あ…。まあ、個人の自由じゃないんですか」
行きたければ行けばいい。
それで帰ってこないのは困るけど、現に神威団長はここにいる。
しかも、随分ときれいな服のままで。何しに行ったのかと思うくらいに、普通の格好で。
「ほら、たまには息抜きとかしないと、仕事やってられませんしね」
何を考えているのかサッパリ分からない神威団長にそう言いながら視線をあちこちへ飛ばす。
本当にどうして欲しいんだろう、この人は…!
「へえ。じゃあ、は息抜きにどこ行くの?」
「え、わ、私ですか…?」
どこへ、と言われると結構困る。
部屋で寝ていることもあるし、出かけるといっても春雨艦内を歩くこともある。
「しいていうなら…喫茶店とか…あとは買い物、ですかね…」
「一人で?」
「え…ま、まあ…そう、ですね」
実際、春雨の人たちのことはよく知らないのだ。
仲が良いのは、阿伏兎くらいじゃないかなあ。
「そう。それならいいけど」
そう言ってするりと私の頬を撫でる。
本当に何がしたいんだろう、と思うと同時にふと感じる違和感。
ああ、そっか。
香りが、神威団長の香りがしないからだ。
「…あの、神威団長」
「ん?どうしたの」
私の頬を撫でていた手が離れる。
いつもなら同じように神威団長の香りは離れるけれど、香水の香りは未だに鼻にツンとくる。
「あの…息抜きなら、他のところに、しておいてくれませんか」
小さくそう言うと、神威団長はばちりと目を開いて驚いた顔をした。
そしてすぐに、笑顔に戻る。
「いいよ。じゃあ、これから俺の息抜きにはが付き合ってね」
「はい………はい?」
うっかり条件反射でうなづいてしまったけれど、アレ、今なんて言った?
「え、あの神威団長?それってどういう…」
「遊郭行ってほしくないんだろ?じゃあ、が俺の息抜きに付き合ってよ」
にっこりと笑う神威団長の背後に、なんだかただならぬオーラを感じる。
「い、いや、別に、その香水の香りがちょっと鼻に痛いなーってだけなんで、お、お好きなところへどうぞ…」
神威団長のオーラに気圧されて、一歩下がる。
そのたびに一歩ずつ神威団長も近づいてくる。
「ちょうど今、疲れてるんだよね。だからさ、付き合ってよ」
にこにこと笑う神威団長。
疲れてるなんて絶対嘘ですよね。
私のほうが疲れてますよねきっと。
「…っわ、私っ、仕事あるので!今日はお付き合いできません!そ、れじゃあ失礼しますー!!」
ばたばたと全力疾走で神威団長から逃げ出す。
おっそろしい!
っていうか、何で私、神威団長の香りがしないとか分かっちゃったんだろ。
…まあ、いいか。
それにしても…遊郭、かあ。
神威団長も立派に男の人だったんだなあということを学んだ一日でした。
団長も遊郭とか行くんですね
(「何ではああも馬鹿なんだろうね」「アンタも十分馬鹿だろ」
「殺すよ阿伏兎」
「へいへいすいませんでしたー(妬かせたいんなら、まずは普段の行い見直せってんだ)」)
あとがき
ヒロインに嫉妬してほしかった神威。ちなみに遊郭行って何もしてません。ひたすら食べてました。(ぁ
阿伏兎はそんな二人の真ん中で「こいつらほんといい加減にしてほしい」とか思ってます。
2009/10/17