今日は一日快晴です、と朝の天気予報がテレビから流れる。

といっても、ここ春雨の戦艦からはあまり青空は拝めない。

それでもやっぱり快晴と言われると、心が弾む。

 

よし今日も仕事頑張るか、と思いながら私は廊下を歩いていると前から神威団長が歩いてきた。

 

 

「あ、おはよう

 

そう言っていつもと同じ笑顔を浮かべている神威団長は、真っ赤でした。

 

 

 

 

「あ、おはようござ…ってうわあああああ朝からスプラッタァァァァ!!!!」

思わず一歩後ずさる。

朝からなんてものを見てしまったんだろう。

でも、多分夜に見たらもっと怖かった。

 

 

「酷いなあ、そんな化け物を見るような目やめてよ」

「だって、実際、ま、真っ赤じゃないですか!」

ケラケラと笑う団長から距離をとる。

 

 

「ああ、これ俺の血じゃないから」

「それはなんとなく予想ついてましたけど、誰のでも嫌です!」

そういえば昨日の夜に阿伏兎が「どこいくんだコラァ!」とか叫んでいたような気がしなくもない。

苦労してるなあ、阿伏兎。

 

 

「そ、それより、早く着替えるとかしてくださいよ」

普通の日常じゃ見られない量の血が飛び散った服を指差す。

「面倒だなあ」

「面倒でもダメです!」

 

自分の服のすそを摘んで言う神威団長。

その手にもべっとりと血がついている。

 

 

「…神威団長、着替えるのもですけど、まずはお風呂入ってきてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「面倒だよ、どうせまた汚れるし」なんて言う神威団長の背を押して風呂場まで連行する。

また汚れるってどういうことだ!またどこかで殺り合ってくるつもりかこのやろう!

 

 

後のことは阿伏兎に任せようかと思ったけれど、どうやら外出中みたい。

仕方なく私は神威団長の着替えを持って風呂場まで戻った。

 

 

「神威団長ー!着替え、ここに置いておきますねー!」

誰もいない、貸切状態の脱衣所から浴場に向かって叫ぶ。

置いてあるかごに服を入れて、その場を後にしようとすると中から声が聞こえてきた。

 

 

「俺が出るまで待っててー」

 

「は…はあ!?いや、私仕事あるんで!」

それも神威団長が回してきた仕事が!

 

 

、死にたい?」

「死にたくありません」

 

拒否権というものは無いらしい。

 

 

 

 

 

さすがに脱衣所にいるわけにもいかず、少し離れた洗面台のいすに座って神威団長を待つ。

しばらくするとシャツとズボンを穿いた神威団長がやってきた。

「ふー、サッパリ」

「そりゃそうですよ。あれだけべっとり血がついてたら気持ち悪いでしょうに…」

私だったら耐えられない。色んな意味で。

 

 

「神威団長、髪ちゃんと拭いて乾かしてくださいね」

ぽたりぽたりと床に滴を落とす神威団長の髪を見ながら言う。

「えー」

またも不満そうな声を出される。

 

 

 

「…今日は随分面倒くさがりですね」

「眠いんだよね。夜中ずっとゴミ掃除してたからさ」

「……そうですか」

ツッコミは入れないでおいた。

 

 

「そんなに気になるのならが拭いてよ」

神威団長は自分の髪を一房摘んで笑う。

 

「…しょうがないですね。じゃあそこ座ってください」

 

 

 

大人しく座った神威団長の髪をタオルでそっと拭く。

いつもはピンと立っているアンテナっぽい髪もへにゃりと曲がって、なんだか可愛く見えてくる。

 

しかしそんな可愛さを忘れさせてくれるのが神威団長なんです。

 

 

「ねえ、顔に水飛んでくるんだけど」

「ごごごごめんなさい!」

神威団長の後ろに立っている為に表情こそ見えないものの、次やったら私の首が飛びそうな声音だった。

緊張ゆえ手が震えそうになるのを気合で抑えながら髪を拭く。

 

 

「じゃ、じゃあ、乾かしますね」

「うん」

短く返事をした神威団長に、心の中で失礼します、と呟いてドライヤーで温風を髪に当てる。

 

 

少しずつ、自分の髪でもこんなに丁寧にはやらないってくらい気を使って乾かしていく。

だんだん乾いてきた髪は、私の指の間をさらりと抜けていく。

 

 

「…神威団長、すごく髪綺麗ですね」

「そう?」

ふあ、とあくびをしながら神威団長は少しだけ首をかしげた。

 

 

「サラッサラですもん。私より綺麗ですよこれ…」

自分で言っておきながら少しヘコんだ。

ため息をつきそうになるのを止めて、後ろ髪を手で持ち、地肌の部分もきちんと乾かしていく。

ふいに見えたうなじの白さにも目を奪われる。

 

 

「肌、白いですね」

「夜兎族だからね」

当然のように言われる。

同じ夜兎族でも、阿伏兎はここまで白くなかったと思う。

 

 

「…羨ましい、です。ほんとに」

なんだか女として二つも神威団長に負けた気がする。

小さく呟いてから、ドライヤーのスイッチを切る。

 

 

の髪も綺麗だと思うけど」

無音になった空間に、神威団長の声が響いた。

「え」

 

思わず動かしていた手がぴたりと止まる。

そしてくるりと私の方へ身体を回転させた神威団長は、そのまま私の髪を一房すくう。

 

 

「まあ、俺には負けるけどね」

 

にっこりと、物凄くいい笑顔で言い放った神威団長の顔にタオルを押し付けて、私はその場から走り去った。

 

 

 

 

 

 

 

髪は女の命なんですよ






(「あーだりぃ…ったく、団長も面倒な仕事増やしてんじゃねーっつの」

「阿伏兎ぉぉぉーーー!!!」

「ごふっ、ぁあ?どうした嬢ちゃん」

「聞いてよ阿伏兎!神威団長がっ、ひっどいんだよ!!」

「(…あのすっとこどっこい…次から次へと面倒増やしやがってェ…)」)

 

 

 

 

 

 

あとがき

このシリーズが人気らしいので、番外編を書いてみたり。

風呂上がりに上半身裸は色々まずいかと思って服着せました。神威の髪はすごいきれいだと思ってます。

2010/04/16