久しぶりに神楽も新八もいない朝がやってくる。
頭の上で鳴っている目覚まし時計を止めようと手を動かす。
あっれ、どこいったんだよ時計の野郎…、と思っていると音がぴたっと止まる。
「おはよ、銀ちゃん。朝ごはんできたよ」
「…おはよーちゃん。朝ごはんの前に、おはようのちゅーは」
「甘ったれんな」
「すいません」
ざーざーと水の流れる音を聞きながら、洗面台で顔を洗ってから居間へ向かう。
既に居間は、ふんわりと漂う味噌汁の香りで一杯になっている。
「の作る味噌汁、マジで美味いんだよな」
ソファに座って温かい味噌汁を啜る。
「褒めたって何もでないからねー。それに、新八くんのだって美味しいと思うけど」
言いながらも味噌汁を啜る。
「バッカお前新八と比べてんじゃねーよ。の味噌汁が一番…あ、いや違うな」
かたん、と味噌汁のお椀を机に置く。
「一番はお前だお前。が一番美味い」
「……へーぇ…」
…まあ、なんとなくそういう反応が来ると思ってたけど、そのドン引き顔やめてくださいちゃん。
「でも、マジで俺、お前がおかずならご飯軽く50杯はいけるぞ」
「じゃあやってみなよ」
「…いやいや、やれるよ?銀さん本気出せばできるけどさ、うちにそんなに米無いから」
残念だねーと言って笑ってみたけど、未だに送られてくる視線は冷ややかで。
これも全部愛情表現なんだって。気づけよコノヤロー。
なんて心では思ってるけど、嫌われでもしたら堪んねぇから思いっきり謝っておきました。ごめんなさい。
朝飯を食べ終えて、食器を洗うの後姿を見ながらふと思う。
今まで俺は、何回こいつを泣かせてきたんだろうか。
それと反対に、何回笑わせてやれたんだろうか。さっきみたいなおっそろしい笑顔はノーカウントで。
気づけば台所はもう片付いていて、の姿は無かった。
って早いな!行動が早ぇよ!
ばたばたと居間を出て、和室へ向かう。
「みーつけた」
後ろからぎゅうと抱きしめてやると、びくっと肩が震える。あーくそ、可愛い反応しやがって。
「ぎっ、銀ちゃん!びっくりした…」
なにすんの、と言いながらは腹あたりに回している俺の腕をべちべちと叩いてくる。
「何やってんのちゃん」
「え?ああ、布団干そうと思って。せっかくいい天気だし」
だから離して、と言ってくるをしぶしぶ解放する。
つーかこいつ、一人でやろうとしてたのかよ。
「力仕事は銀さんに任せなさい」
べちん、とでこピンを一発食らわせて、布団を持ち上げる。
痛い!と言っているを部屋に残したままベランダに出ると、朝日が目に入り込んできた。
まぶしいなと思いながら布団を干す。
「ありがとうね」
いつの間にか、そう言って笑うが横に立っていた。
くそ、こいつの笑顔も十分まぶしいじゃねーか。
「…いいんだろうか、なあ」
ぽつりと朝日に向かって呟く。
「何が?」
ひょっこりと俺の顔を覗き込んでくるの頭を撫でてから、右手を空に向かって伸ばしてみる。
「俺ァ、みたいな綺麗な人間じゃねーのにさ。お前みたいな奴を好きになっちまっていいんだろーかねぇ」
天人を、人間を貫いた感触を知っている手。
そんな手でに触れていいんだろうか。いやまあ、今まで散々触れてきてはいるけどな。
「いいんじゃないの」
隣から聞こえた声は、随分とあっさりしていた。
「ちょっとちゃーん。今結構銀さん真面目なんだけど」
「私だって真面目だよ」
いやいや。声が真面目じゃねーんだけど。
「いいんだよ。銀ちゃんが選んだ人なら、思いっきり惚れちゃっていいんじゃないの」
視線の先は、朝日の方向。
「寧ろ、そうであってほしいよ」
ぽつりと呟いて、俺のほうを向く。
そしてびしっと俺を指差しては叫ぶ。
「もっと愛しちゃっていいんだよ。ただし、私限定だからね!」
じゃあ、掃除してくるから!と言って足早に去っていくの顔は真っ赤だった。
そしてベランダに取り残された俺の顔も、おそらく真っ赤で。
「…今でも、すっげぇ愛してんだけど。これ以上愛していいのかよ…」
声が震える。
くそう。さっき、を笑顔にさせてやるって決めたばっかりなのに。
俺のほうが笑顔にさせられてんじゃねーか。
ああ、こんなにもを好きになっていいんだろうか。
こんなにのめりこんじまって、いいんだろうか。
その答えは、とりあえず今真っ赤になっているであろう顔の火照りが冷めてから聞きに行こうと思った。
いいんですか?
(いいんですか、こんなにもお前を好きでいていいんですか。ああ、もう絶対に離してやらねぇからな。)
あとがき
ベタ惚れ銀さん。そしてさほど好きでないようでヒロインも惚れてる、隠れバカップル夢。
なんだかんだで銀さんはあんまり他人に深入りしなさそう。ちゃらんぽらんに見えて複雑な人だと思ってます。
2009/12/12 いいんですか?:RADWIMPS