まだ朝日が差し込む前の朝方、俺はひとつくしゃみをして目を覚ました。

 

久しぶりに彼女と俺の休日が被った日曜日。

昨日の夜から俺はの家に泊まりに来たんだっけ。

見慣れていない時計の針は、まだ4時にも届いていない。

 

 

っていうか、あの、さん。

何で布団独り占めしちゃってるんですかちょっとォォォ!?

 

「ちょっと、寒いから布団…」

半分返して、と言いかけたところで見えたの寝顔が可愛くて、その、怒ることもできず。

結局俺は自分に暗示をかけるように、寒くない寒くないと唱えながら……寝れるかァァァ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふああ……」

甘味屋でケーキを食べるの前で小さくあくびをする。

既に日は高く昇って、時間は3時になろうとしていた。

 

「…ちょっと退!聞いてる?」

「え?あ、ああ、なんだっけ?」

ケーキを食べ終えたが不満気な目で俺を見ながら言う。

 

 

「だーかーら!この後どこか行きたいところある?って聞いたの」

ちゃんと聞いててよね!と言いながらフォークをかちゃんと皿に置く。

行きたいところ、かあ。

 

「…じゃあ、布団でも買いに行こうか。ちょっと大きめの」

「布団?何でそんなの必要なの。今ので十分じゃん」

ていうかデートで布団買いに行きたいって、面白いこというね!なんて笑う

いや、布団は切実な問題だよ。俺のためにも。

 

 

 

 

結局布団は却下。

「じゃあ着物買いに行こう!ピンク系のが欲しいんだよね!」と言ったに連れられて町を歩くこと数分。

 

「こっちのもいいなあー。あれもいいし…うーん悩むー!」

右手と左手、両方に着物を持ってうんうん唸る。

「ね、退はどっちがいいと思う?」

「そうだなー。には左のやつが似合うんじゃないかな」

というか両方ともピンク系じゃないんだけど!

 

 

よく考えてみれば、いつもこんな感じだ。

あれが欲しい、って買いに行けば違うものに目移りしてるし。

ころころ気が変わるんだよなあは。

 

 

なんてことを考えているうちに買い物は終わっていたらしく、また俺の手荷物が増える。

しばらく歩いていると、急に立ち止まったが慌てて俺のほうを振り向いた。

 

「さ、退!どうしよう、鞄どこかにおいてきちゃった!!」

空っぽの手を握ったり開いたりしながら、周りを見渡す。

 

 

「…、俺の手、見てみなよ」

「……あ。そっか。さっき持ってて、って頼んだんだっけ」

あーびっくりした!と笑いながらまた歩き出す。

いやいや、それもだけど、既に両手が荷物で一杯なことも気にしてくれないかな!?

 

 

すたすたと先を歩くの背を追いかけながら思う。

 

俺が話聞いてないとすぐいじけたり、機嫌悪くなるのに俺の話は聞かないし。

ちょっと以外の女の人と喋ったりしてるとやきもち妬いて返事しなくなるし。

時々わがままで、強引でどうしようもないんだよ。

 

 

それでも、そんな面さえ可愛いと思えちゃうんだよなあ。

結局、俺が折れてあげれば全部うまくいくわけだし。

 

 

こんなに付き合えるのは俺だけだろう。

…いや、俺だけでいられたらいいな。

 

 

「退、さーがーるっ!何にやにやしてんの?」

その声に驚いて足を止めると、いつの間にか目の前にいたに顔を覗き込まれた。

 

ってちょっと待って、にやにやって…もしかして今思ってたこと顔に出てた…?

驚いて反論もできずにいると、はだんだん不機嫌な顔になっていく。

 

 

「何考えてたの?まさか浮気か!可愛い子でもいたのか!」

「い、いやいや違うから」

のこと考えてたんだよ、なんてことは恥ずかしくていえないけれど。

 

 

「…目移りなんか、しないでよ」

拗ねたような口調で視線を落として言う。

「しないしない。俺は以外見えないから」

 

ほんと、から目が離せないよ。…俺のほうが不安なんだ。

服や小物くらいならいいけど、気が変わったって言って俺のことまで忘れられたらどうしようかって不安なんだよ。

 

 

…そんな意味合いで言ったんだけど。

、なんで顔真っ赤になってるの」

「ばっ、ばか!自分で言ったこと思い出しなさいよ!」

 

くるりと踵を返してまた歩き出したの後を追いながら、さっき言った台詞を思い出す。

何言ったっけ俺。ええと…目が離せない…じゃなくて。

あ、そっかしか見えな………。

 

 

「…うわあ」

ぽそりと小声で呟いたにも関わらず、こういうときだけはよく聞いているは少しだけ俺を振り向く。

 

「そういう不意打ち、しないでよね!」

いや、さっきのは自分自身にも不意打ちだった。

 

 

「…言うなら、家で言ってよ。外じゃ恥ずかしいでしょ」

真っ赤な顔を手で扇ぎながらは小さな声で言う。

ほらもう次行くよ、と言ってまた前を向いたの背中を追いかける。

 

 

きっと今は俺の顔もと同じくらい真っ赤になってるんだろう。

俺の両手には荷物があって、顔を扇ぐこともできやしない。

 

ああもう、どうしてそういう不意打ちをしてくるのかなこの子は!

 

真っ赤になった顔を隠すように下を向きながらも、を見失わないように町を歩く。

見えるのはの後姿と、既に荷物で一杯になっている両手。

これからまたいくつ荷物が増えるんだろうなんて思いながらも、心は幸せな気持ちで一杯だった。

 

 

 

 

 

日曜日、僕は荷物持ち







(とりあえず家に着いたら思いっきり抱きしめてやろう。荷物持ちのご褒美に、それくらいはしてもいいよな?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

文句言いつつもヒロイン大好きな退の苦労と愛情の話。

お互い不安だけど、どこか安心もしてる、そんな恋愛関係。

2009/11/28   日曜日、僕は荷物持ち:藤田麻衣子