「ハーイ、お弁当ですよー」

「私とお妙さんで頑張ったんだよー!」

「楽しみアル!」

「ワリーな、姉弟水入らずのとこ邪魔しちまって」

「いいのよー、二人で花見なんてしても寂しいもの。それより早くお食べになって!」

 

 

 

 

第1曲 お花見は皆で賑やかに

 

 

 

 

季節は春。桜が舞い散る景色の下、私たちはお花見に来ています。

そしてお妙さんと私の手作りのお弁当のふたを嬉々として開けた銀さんは、ピシャリと固まった。

 

「すんません。この重箱の隅の物体は何ですか」

「卵焼きよ」

「うん。お妙さんが、卵焼き得意だって言うから全部任せたの」

まあ確かに、これを一目見て卵焼きだと分かったら褒めてあげたいと思う。

 

 

「…ちゃん」

「…何」

銀さんに小声で名前を呼ばれる。

 

「何で、止めなかったんだよ」

「だってお妙さん楽しそうだったんだもん。止めるの忍びなかったんだもん」

女の子同士の台所は、それはそれは華やかに盛り上がっていた。

華やかじゃなかったのは、この重箱の隅っこだけなのだ。

 

 

「お前はこのかわいそうな卵を見て何とも思わなかったのか」

「…りょ、料理は、真心とか、そういうものだから…ね!」

「そうよ銀さん。ごちゃごちゃ言ってないで、さっさと食べな、さいッ!!」

「もがっ!!!」

 

いつの間にか私の後ろにいたお妙さんが、卵焼きを銀さんの口に無理やり突っ込む。

いっそ勢いよく飲み込んでしまえば味もよく分からないんじゃないかなー…と思ったけど無理みたい。

銀さん、今にも死にそうな目になってる…!

 

 

 

「ガハハハ、全くしょーがない奴等だな!どれ、俺が食べてやるからこのタッパーに入れておきなさい!」

 

 

急に聞こえた声に、皆が振り返る。

「何レギュラーみたいな顔して座ってんだゴリラァァ!!」

「たぱァ!!」

ドパンッとお妙さんの張り手が突如現れた近藤さんにヒットした。

ていうか、もう、クリティカルヒットだ。

 

 

「オイオイまだストーカー被害にあってたのか。町奉行に相談したほうがいいって」

「でも近藤さんって警察だよね」

「そうそう。あの人が警察ですから…相談するにも…」

ねえ、とアイコンタクトをとりながら私と新八くんは頷く。

 

 

 

「そりゃ世も末だな」

「悪かったな」

 

呟いた銀さんの声に、低い声で返事がかえってきた。

 

 

声の先を振り向くと、そこには真選組の人たちがずらりと並んでいた。

その先頭に立っていたのは、土方さんだった。

 

「オウオウ、ムサい連中がぞろぞろと何の用ですか?きのこ狩りですか?」

「そこをどけ。そこは毎年真選組が花見をする際に使う特別席だ」

 

ガンを飛ばすような鋭い視線を受けながらも銀さんは気だるそうに話す。

「こんなもんどこでも同じだろーが」

「同じじゃねぇ。そこから見える桜は格別なんだよ。なァみんな?」

 

 

くるりと隊士のほうを振り返った土方さんに、これまただるそうな声が返ってくる。

「別に俺達ゃ酒飲めればどこでもいいッスわー」

「アスファルトの上だろーとどこだろーと構いませんぜ」

 

 

「じゃあ、一緒に花見しちゃえばいいんじゃないですか?」

ぽつりと呟いた私の声に一番に反応を返したのは沖田さん。

 

「なら、が酌してくだせェ」

「任せてくださいなー!」

沖田さんの持つ酒瓶を受け取ろうとすると、後ろから伸びてきた手に腕を引かれた。

 

 

「ちょーっと待て。、お前こいつらとそんなに仲良かったっけ?」

「そうアル!こんなS野郎に近づいたら危ないネ!」

口々に言われて、一瞬反応が鈍る。

 

「失礼ですねィ。のことはまだそこまで弄りやせんぜ」

 

……まだ?

 

 

「あの沖田さん、まだって何ですか、まだって」

「そのうち調教してやりますぜ、っていう予告でさァ」

顔色ひとつ変えずに言い放った沖田さんに、土方さんがゴスッとチョップを下す。

 

 

「おめーまでそんなこと言ってるから、俺らの評判が悪くなるんだよ」

「土方さんのマヨネーズも十分評判悪くしてまさァ」

「マヨネーズの何が悪い!」

あ、怒るとこそこなんだ。

 

 

「つーか、山崎はどうしたんだ。場所とりに行かせたはずだろ」

「ミントンやってますぜミントン」

言いながら沖田さんが指差した先には、フンフンと力いっぱい素振りの練習をする山崎さんがいた。

 

「山崎ィィィ!!!」

「ギャアアアア!!」

ぴしっと顔を引きつらせた土方さんは、ダッシュで山崎さんに掴み掛かりに行った。

生きて帰ってきてくださいねー、山崎さーん。…と、心の中で応援しておいた。

 

 

 

 

 

 

 

「まァとにかく、そーゆうことで、こちらも毎年恒例の行事まんでおいそれと変更できん」

既に傷だらけの顔で近藤さんは言う。

 

「お妙さんだけ残して去ってもらおーか」

「いやお妙さんごと去ってもらおーか」

地味に土方さんと近藤さんの口論が続く中、銀さんがハッ、と鼻で笑った。

 

 

「何勝手ぬかしてんだ。幕臣だか何だかしらねーがなァ、俺たちをどかしてーならブルドーザーでも持ってこいよ」

挑発的に言って立ち上がった銀さんに、お妙さんたちも続く。

 

「ハーゲンダッツ1ダース持ってこいよ」

「フライドチキンの皮持ってこいよ」

「フシュー」

「米20キロ持ってこいよ」

「案外お前ら簡単に動くな」

 

最後のは新八くんのツッコミ。

だって、万事屋の米の消費量、半端ないんだよ。

家賃すらままならないんだから、貰える時に貰っておかなきゃ。

 

 

「面白ェ、幕府に逆らうか?」

「今年は桜じゃなく血の舞う花見になりそーだな…」

ぐっと土方さんが刀に手をかけたところで、沖田さんの声が響いた。

 

「待ちなせェ!堅気の皆さんがまったりこいてる場でチャンバラたァいただけねーや」

沖田さんはゆっくりと皆の前へ出る。

「ここはひとつ、花見らしく決着つけやしょーや」

 

 

「じゃあ、どうするんですか?」

尋ねた私の声に一度頷いて、沖田さんは言う。

 

「第一回陣地争奪…叩いてかぶってジャンケンポン大会ぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

 

「「「花見関係ねーじゃん!!」」」

 

全力のツッコミで、この春一番の陣地争奪戦が開幕を告げた。

 

 

 

 

あとがき

連載の番外編。丁度季節に合うようにお花見の話をチョイスしてきました!

あとは私が花見の季節が終わるまでに書き終えられるかです。←

2010/02/18