「よーし、片付け完了!」

「ふあぁー、いっぱい遊んだから疲れたアル」

「わふ」

「定春も、もう眠そうだねー。じゃ、さっさと帰ろうか」

「そうですね。…って何か忘れてません?」

「………あ」

 

 

 

 

第6曲 家に帰って寝るまでがお花見です

 

 

 

 

片付け作業をしていてすっかり忘れていた。

桜の木の下で倒れてる銀さんのことを。

 

 

「銀さん、そろそろ帰るよー」

ゆさゆさと身体を揺すってみても、少し唸るぐらいで起きる気配は無い。

 

「駄目ヨ。もっと力入れてやらなきゃ」

言いながら神楽ちゃんはおもむろに銀さんの首元を掴んで、前後に思い切り振った。

 

 

「ほらァァ!銀ちゃん、もう帰るヨ!」

「う、うわああ神楽ちゃん、それ駄目ェェ!」

確かに気絶させたのは私のバケツアタックのせいだけど、それ以前に飲みすぎっていうのがあるんだから。

そんなに揺すったら、逆流してしまう。

 

 

私の声で手を止めてくれた神楽ちゃんは、そのままパッと手を離す。

どしゃっという音を立てて銀さんの体が再び地面に横たわった。

 

「じゃあ、どうするアルか、この酔っ払い」

「う、うーん…もう引きずって帰るしか、ないんじゃないかな」

さんも結構扱いぞんざいですよね」

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず、荷物を私と新八くんが持って、神楽ちゃんが銀さんを引っ張って夜道を歩いていた。

消えかけの街灯の下で私たちは足を止める。

 

 

「あの、本当に2人で大丈夫ですか?」

「うん。大丈夫大丈夫。新八くんこそ、気をつけてね」

 

新八くんは自分の家へ帰るため、ここでお別れ。

わざわざ荷物持ちを手伝ってくれて、お妙さんと別行動で着いてきてくれたのだ。

 

「私がついてるんだから、心配いらないネ。のことは任せるヨロシ!」

さんは大丈夫だと思うけど、その…」

定春の背に持っていた荷物を乗せて、新八くんは視線を落とす。

その先には、さっきからほぼ白目状態の銀さんがいる。

 

 

「まったく、この白髪天パ、何の役にも立たないアル。いっそ捨てっちゃ駄目アルか?」

「いくらなんでも駄目だよー神楽ちゃん。ほら、銀さんがいないと…色々…」

何か理由はないかと頭を回転させる。

 

「…大して困りませんね」

「……うん」

新八くんと一緒に、盛大なため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから歩いて、やっとのことで万事屋へ到着した。

定春も神楽ちゃんも遊び疲れたみたいで、早めに寝てしまった。

正直なところ、私も疲れていたのでさっさと寝てしまおうと思って銀さんの部屋の布団を敷いていた。

 

「ん…あ…?」

「…銀さん?」

布団を敷き終えて、電気を消して部屋から出ようとしたときにうめき声のようなものが聞こえた。

 

 

…か…?」

「うん、そう」

まだ意識がぼんやりしているのか、銀さんは天井を見たままぼそぼそと喋る。

 

「ここ、どこだ…っつーか頭いってぇー…」

「ここは万事屋で…頭は………飲みすぎ。うん、飲みすぎだよ銀さん」

そんなに飲んだっけ、と呟く銀さんを無理やり納得させる。

 

 

「ええと、お水とかいる?」

「あー…後でいいや。とりあえず、、ちょっとこっち」

手だけでひょいひょい、と呼ばれる。

さっさと寝たいんだけど、という気持ちを抑えて銀さんの側へ寄る。

 

 

「そこ、座って」

そう言われて、窓際の月明かりが照らす場所に座る。

その後すぐに膝にふわりと銀さんの頭が乗った。

 

 

「ちょ、ちょっと銀さん!?」

「うおっ、揺らすな!気持ち悪っ…うぅっ」

「揺らさないようにするから、絶対吐かないでね」

ばしっと口を押さえた銀さんに牽制するように言い聞かせる。

 

 

「…銀さん、私ももう寝たいんだけど」

「なら、ここで寝てけばいーだろ」

へにゃりと笑う。

銀さん、私のバケツアタックとは別で、かなり酔ってるんじゃないのだろうか。

 

 

「銀さんも早く寝ないと、明日二日酔いに…」

「綺麗だな」

 

言葉が、止まる。

 

 

「え、あ、ああ、桜?綺麗だったよね」

「それもだけど、お前もだよ。、お前も綺麗だ」

言いながらするりと私の頬を撫でる。

 

 

いつになく優しい表情でさらりと頬を撫でている銀さん。

何、なんなの、この状況。

どくんどくんと心臓の音が早くなっていく。

 

 

銀さんはそのまま手を私の首筋に移動させる。

「ぎ、ぎぎぎ銀さんっ!?」

ぞわりとして、とっさに身を引く。

 

 

「花びら、ついてたぞ」

「へ?」

言いながら指先で摘んだ花びらをゆらゆらと振る。

月明かりに照らされる桜の花びらは、とても、綺麗だった。

 

 

 

「綺麗、だね。…今度は、もっと普通にお花見行けるといいね」

「またいつでも行けるだろ。来年も、ずっと」

ふあ、と小さくあくびをする銀さん。

 

 

「…来年も…私はここにいられるのかな」

「あ?何か言ったか?」

小さく、小さく呟いた言葉は銀さんまで届かなかった。

 

 

「ううん。…またお花見行こうね」

「おう」

ふわふわの銀さんの髪をそっと撫でていると、銀さんはまたうとうとし始めた。

 

 

「…

ぽつりと名前を呼ばれる。

「なに、銀さん」

 

 

「やっぱ駄目だ気持ち悪い…!いちご牛乳持ってきて…!!」

 

 

「結局そういうオチ!?」

「ぐるぐるする!胃が!頭がぐるぐるするうぇぇぇぇ」

「ちょっと落ち着け!!!」

呟いて膝に乗ったままの銀さんの頭をなるべく揺らさないように床に下ろして、私は台所へ走った。

 

いちご牛乳をコップに注いで、側にあったお弁当箱に残っていた桜の花びらを添えて、再び私は銀さんの元へ走った。

 

 

夜は、まだまだ長そうです。

だけど、そんな夜も楽しいと思っている私がいた。

 

 

さあ、明日はどんな楽しいことがあるのやら。

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

帰宅話。帰るまでが、って言われると遠足みたいですよね。

ということで。帰宅したところで、桜連載終了!ギリギリで桜が散るまでに終わりました。

2010/04/10