キンコーン、と授業終了のチャイムが鳴ると同時に号令がかかる。
起立、礼、着席ーという一連の流れの後に私はぐーっと背を伸ばした。
「んーっ…!今日も1日頑張ったー!」
「年寄りくせーな」
「うるさい獄寺」
間髪いれずに低い声で言い放つと、私の席まで歩いてきた山本が笑った。
「あははは、お前ら毎日あきねーのな」
「私はやりたくてやってるんじゃないからね。獄寺がバカの一つ覚えみたいに毎日毎日…」
「毎日毎日疲れた言ってるお前もバカだろーが」
「なんですって!!」
「ちょ、ちょっと落ち着いて2人とも!」
がたんっと音を立ててイスから立ち上がった私と獄寺の間へツナが入ってくる。
「…ってほんと毎日同じパターンだよな、これ…」
ツナがそう呟くほど、私たちはいつもこんな感じの毎日を送っている。
いつもはここで山本が部活に行って、私たちは先に家に帰る。
「あ、そーだ。今日部活休みだから、一緒に帰れるぜ!ツナ、、獄寺!」
「ほんと!?」
「わー、山本と一緒に帰るの久しぶりだね。なんか新鮮な感じだわー」
キラキラと目を輝かせる私たちと反対に、獄寺は小さく舌打ちして「十代目がいるだけでいいっつーの」とか言ってた。
鞄に荷物を詰め込んで、さあ帰ろうとした瞬間、ピンポーンと校内放送がかかった。
「。今から3分以内に応接室まで来るように。遅れたら死ぬと思っておきなよ」
ブツンと、それだけの言葉を残して放送は途切れた。こういう無茶な放送をかける奴は、1人しかいない。
「…ごめん。私行かなきゃ死んじゃうみたい」
「「「頑張れ」」」
見事にハモった3人に哀れみの目で見送られながら、私はダッシュで応接室へと向かった。
せっかく久しぶりに山本も一緒に4人で帰れるチャンスだったのになぁ。
階段を駆け上がり、人を避けて廊下を走りぬけ、応接室の戸をノックする間もなく室内へと飛び込む。
「…2分58秒。ギリギリセーフだね」
「あ…あのね…毎度毎度、無茶な呼び出し、かけないでくれるかな、雲雀!!」
私は肩で息をしながら、ソファに座ったまま時計を眺める風紀委員長様をキッと睨む。
毎度、なんて言ってしまうほどに私はこの生活に慣れてしまっていた。…走るのは慣れてないけど。
ある日突然、こんな風に呼び出されて「君、今日から僕の下僕ね」と言われた。
最初は冗談かと思ってたけど、それからというもの雑用ばっかりやらされて。
「あれ、これって下僕じゃね?……え、あれマジだったの?」という結論に至った。
私…なんかしたっけ…?
「…だから…って聞いてる?」
「え、あ、なんだっけ?」
そう言った瞬間、私の目の前に立った雲雀が手に持っていた紙を物凄い勢いで床にたたきつけた。
その勢いで私の前髪がふわりと揺れる。
おおお恐ろしい…!なんて思いながら、ベシン!と強烈な音を立てて床と激突した紙を恐る恐る拾う。
「…なにこれ、買い物リスト?」
「今から10分以内ね」
雲雀はそうさらりと言ってのける。
「え!?や、10分はどう考えても無理…」
「あと9分56秒…」
「いってきまぁぁーーす!!!」
バンッと応接室の扉を蹴り飛ばすように開けて、私はまた廊下を走りぬける。
自転車置き場へと走りながらメモを見る。
買い物は…コピー用紙とかの事務用品か…。あとケーキひとつ…ってなんで品名まで書いてあんの!
しかもこれラ・ナミモリーヌのじゃん。明らかに10分じゃ無理だろうがァァァ!!
「くっそぅ、雲雀のバカ野郎ーー!!」
叫びながら、私は自転車のペダルに足をかけた。
「遅いよ。8分の遅れだね」
「や…あれだけの買い物を18分で済ませた私を褒めてよ…」
ぜえぜえと色気のカケラも無い呼吸をしながら、私は応接室のソファに倒れこんでいた。
「…まあ、紅茶が冷めるまでに帰ってきたから、咬み殺さずにおいてあげるよ」
「基準は紅茶なんだ。……ってえ?紅茶?」
そういえばさっきから応接室には紅茶の香りが漂っている。
肺の辺りを押さえながらゆっくりとソファから起き上がる。
見えた光景は、私がさっき買ってきたケーキが雲雀の前に。そしてもう1つ見覚えの無いケーキが私の前に。
「え、これ…」
「ひとつしか、なかったんだよ。だから僕の分を買ってきてもらったんだ」
机に置かれたカップに紅茶が注がれる。
「雲雀…普段なら私の目の前で『下僕に与える餌はないんだよ!』とか言うのにめずらしいね!」
「あぁ、そう。はケーキ食べるよりも死にたかったんだね」
「ごめんなさい、ありがたく頂きます」
学ランの下でキラリと光ったものにびくりとして訂正する。
さっさとケーキを食べ始めてる雲雀をちらりと見ながらフォークを手に取る。
「でも、わざわざ呼ぶくらいなら1人で食べててもよかったんじゃ…」
「この後仕事手伝ってもらうから」
「あ、ですよねー!」
買出しに行ってきたんだから、今日の仕事は免除かと思ってたのに…!くそっ、ケーキ美味しい!
一心不乱にケーキを食べていると向かい側から小さな笑い声が聞こえた。
「…ほんとに…君は見てて飽きないね」
呟いた雲雀の顔は、いつもみたいな蔑む笑みじゃなくて、もっと優しかった。
思わずフォークを動かす手も思考も止まってしまうほど、普段とは違いすぎて幻覚かと思った。
普段からそうやって笑えばいいのに。
そう言おうとした瞬間、雲雀の顔から笑顔は消えて。
「さっさと食べ終わりなよ。君の分の仕事、山積みなんだからね」
「…なんで風紀委員じゃない私に仕事があるのか疑問なんだけど」
「は僕の下僕だからね。僕の仕事は君の仕事だよ」
「そんなマイナス面を分け合いたくないです」
最後のひとかけらを口に押し込んで、紅茶のカップを手に取る。
ぐび、と紅茶を飲み干しながらちらりと机を見る。
そこに積み上げられた書類は、普段よりも少なかった。
「……しょうがない、さっさと終わらせるぞーっ!」
「口より手を動かしなよ」
「へいへい」
不器用な主人
(君はずっとここにいればいいよ。僕が君に飽きるまで。…飽きる保障はないけど、ね)
あとがき
むむむ難しいいぃぃぃい!!!
愛はあるんですけど、口調が、口調がつかめない…!別人雲雀ですいませんでした!
2008/10/18