ゆっくりと夜の森の中を歩く。

周りには誰もいない。聞こえるのは、あたしの足音と風が木の葉を揺らす微かな音だけ。

 

そう、それでいい。

たまには1人になりたいときだってある。

 

 

歩く早さはどんどん遅くなり、ついには立ち止まる。

木の葉の隙間から見上げた空には、綺麗な月が昇っていた。

「……はぁ…」

そんな綺麗な月を見ても、ため息しか出せない自分にまた落ち込む。

 

 

視線を地面に戻した瞬間、後ろからぎゅっと抱きしめられるようにあたしの体に腕が回された。

「夜に女の子が1人で歩いてちゃ危ないぜ、

「…エース…気配も無く近寄ってこないでくれる?心臓に悪いから」

「その割には反応が薄い気がするんだけどなー」

 

いつもならビンタの一発でもかましてくるよな!なんていいながら笑うエースの腕を解く。

…いつも避けられてるんだけど。食らわせたことないんだけど。

 

 

「どうしたんだ?また落ち込んでるのか?」

「…そーですよ。1回落ち込むと、どんどん沈むの。だから今あんたの相手してる余裕ないの。じゃあね!」

重く感じる足をなんとか動かして、一歩踏み出す。

けど、後ろから掴まれた手首の所為で前に進めない。

 

 

「…離してくれると嬉しいんだけど」

「駄目だよ。俺、騎士だから、夜に女の子1人放っておくなんてできないんだ」

にっこり、と笑う顔から想像ができないくらいに強くつかまれた手首。

もう1度、あたしは深いため息をついてその場にとどまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

てきぱきと、慣れた手つきでテントを設営していくエースをぼーっと見る。

普段なら手伝うところだけど、今日はそんな元気がない。

あぁもう、なんであたしはこうなんだ。ちょっとしたことで落ち込んで…。

 

 

、また下向いてるぜ」

無意識に下を向いていたあたしの顔が持ち上げられると、しゃがんだエースと目が合った。

「テントできたから、中に入ろうぜ」

そう言ってエースは手を引っ張ってあたしを立ち上がらせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っていうかさ、なんでさっきからそんなに笑顔なわけ、あんた

あたし最初に落ち込んでるって言ったよね。

なのに、ものすっごくニッコニッコ笑ってるんですけどこいつ。

 

「ん?それは、落ち込んでるが可愛くてしょうがないからだぜ」

キラーンという効果音がつきそうなほど明るく言うエース。

 

「…そうだね。あんたはそういう、悪趣味男だったね。すっかり忘れてたよ」

「悪趣味だなんて酷いなぁ」

落ち込んでる子や、うじうじしてる子が可愛くてしょうがない…っていうのは悪趣味に入るだろ!

と心の中でツッコミをいれておいた。

 

 

 

 

 

「で、今日は何で悩んでるんだ?」

綺麗に敷かれた布団の上に座ったエースにそう尋ねられた。

あたしはその横に座って言う。

 

「今日はって…そんな毎日っていうか毎時間帯へこんでる子みたいに言わないでくれる?」

「あははは、毎時間帯こんな風にうじうじしてるんだったら、俺心配でから離れられないな」

「勘弁してください」

ずっとこんな爽やか気取りの腹黒男と一緒にいたら頭おかしくなりそう。

 

 

 

ふぅ、とひとつ息をついてから、あたしは話し出す。

「…ちょっと失敗したの。仕事でミスっちゃったの」

「へえ」

「聞いた割りには薄い反応だなオイ」

顔色ひとつどころか表情さえ変えないままで相槌を打ったエースに思わずツッコミをいれる。

そんなあたしを無視して、エースは話を続ける。

 

 

「それで、誰かが君のことを責めたのか?」

「それはない!…ただ、自分で許せないだけ」

 

この世界へ連れてこられて、思い切って第二の人生を歩んでやろうか、なんて思ってたのに。

結局あたしは変わらないまま。いつも、失敗してばっかり。

しかもそれを、ずるずる引きずって悩みこむから余計に性質が悪い。

 

 

「うっとおしい性格だっていうのは自分でもよくわかってる。でも、なかなか直せないんだよ」

「でも俺は君のそういうところが好きだぜ」

「そんなこと言うの世界中探してもエースぐらいだと思う」

呆れながら「ほんと趣味悪いよ」と言うと「アリスにも言われたことあるなぁ」とエースは呟いた。

 

 

「直さなくていいよ。そのまま、卑屈なままでいてくれ」

にっこり、と笑ってあたしの髪を撫でながら言う。

「…そういわれると意地でも直してやりたくなるわ」

にっこり、なんて効果音がつきそうにない苦笑いでそう返す。

 

 

 

「…うん、やっぱり、意地でも直してやりたい」

そう呟くように言ってから、あたしは布団の上に寝転がる。

 

「夜が明けたら…リベンジしてくる。今度は、失敗しないように、頑張ってみる」

「そんなに頑張らなくてもいいのに」

「水を差すな、水を!人が折角立ち直ろうとしてるのに!」

不満そうな声で言いながら、エースもあたしの横に寝転がる。

 

 

 

「また失敗して落ち込んだら、俺のところへ来なよ。慰めてあげるから、さ」

「誰がエースに慰めてもらおうなんて思いますか!今度来るときは笑って来てやるわ!」

そういったあたしは、既に笑っていて。

 

「あははは、落ち込んでるも可愛いけど、笑ってるも好きだからなー。今度を楽しみにしてるぜ」

ばさり、と掛け布団を手渡すエースはやっぱり笑顔で。

 

 

何だかんだで慰められてしまったような気がして、あたしはすこし悔しくなった。

今度は、絶対笑って会いに来てやる。

 

 

 

 

 

「とりあえず、もっと離れて寝てよ」

「えぇー。寧ろ俺はもっと近寄りたいぜ!」

「ちょっ、やめろ!来るな!ひっつくなー!!」

 

 

 

 

変則的め方法

(落ち込んだときも、笑ってるときも俺のところへ来て。君の表情を全部、俺だけに見せてくれよな。)

 

 

 

 

 

 

あとがき

もはや慰めているのかすら謎です。うおお、まとまり無くてすいません。

とりあえず、落ち込む時なんて誰にでもあるよね。って話…だったはずなんだけど、あれ?(ぁ

2008/10/22