両手に先生から渡された書類を抱えて、応接室へと向かう。
先生によると、あの応接室に入って無事に出てこられるのは私くらい、らしい。
もちろん風紀委員の人たちを除いて、ね。
まあ、普通の人が入ったら咬み殺されるんだろうなぁと思いながら階段を上る。
でも私も無事に出て来られているわけじゃない。毎回毎回、神経磨り減るっつーの!
応接室の扉は教室の扉と違って、ノブを捻らなければ開いてくれない。
両手に抱えた書類をなんとか片手で押さえて、ゆっくりとノブを回す。
「失礼しまー…ってうおわっ!!」
扉を開けた目の前に放置されたダンボール。
思わず持っていた書類を落としそうになったけど、なんとか持ち直す。
「何の用事?」
応接室の奥の高級感漂うイスに座っている物凄く不機嫌そうな雲雀がそう尋ねてきた。
「あ、先生にこれ届けるように言われてさ」
ダンボールを避けて雲雀の前の机にばさり、と書類を置く。
「…ね、このダンボール…もしかして」
「そうだよ。邪魔だから今日中にが片付けておいてよ」
机に置かれた書類に目を通しながら言う雲雀。
「…オッケー、まかせといて!」
普段はこんなにノリ気で返事しないけど、これは別。
だってこのダンボールの中身は。
「やっぱり!新発売のお菓子詰め合わせだー!!」
「うるさいよ」
「すいまっせーん!」
無愛想な雲雀のツッコミにもつい明るく返してしまう。
2ヶ月に1回くらいのペースで、何故かここには発売直前のお菓子が届く。
雲雀曰く「商店街からの貢物だよ」だそうだ。
もうこれ風紀委員っていうより新手の組織だよね…。
そんなわけで、届いたお菓子は私がほぼ全部貰っていくのだ。
1人じゃ食べきれないから、雲雀の好きそうなものは応接室にのこして、他はツナの家におすそ分けしている。
なんだか最近賑やかだもんね、ツナの家。
他にも獄寺や山本、京子ちゃんたちにお昼の時間に配ったりもする。
「でもさ、雲雀はあんまりお菓子食べないよね」
「うん」
雲雀はこっちを見ないまま一言だけの返事を返す。
「いらないなら、断ればいいんじゃないの?」
「…別に、迷惑なわけじゃないから」
「さっき邪魔って言ってたじゃん」
「それ以上言うと咬み殺すよ、」
「すいませんでした!!」
都合が悪くなるとすぐ咬み殺すーって言うんだもんなぁ。
まったく、困った鬼…いや、風紀委員長だよ。
「何か言ったかい…?」
「いいい言ってません!!!」
ドスの効いた声で言う雲雀に思わず土下座でもしそうだった。
え、どっから出したの今の声…!怖っ!
「はあ。暇ならお茶でも入れてよ」
「はいはい」
暇なわけじゃないけど、そう返事をしてカップの準備をする。
それからお菓子も一緒に。
かたん、と机にカップと本日のお菓子のチョコレートを置く。
「…僕はお茶だけでいいんだけど」
「いいじゃん、せっかく貰ったんだから1つくらい食べなよ」
わざわざ雲雀のためにビターチョコを選んであげたんだから!
そう言いながら私はチョコを口に含む。
口の中に広がる苦味とほんの少し感じる甘さが丁度いい。
甘すぎるのもたまにはいいけど、こういう苦いのも悪くない。
「…そんなに食べると太るよ」
「勉強して頭使ったときは糖分が一番なんですー!!脳に必要なのは糖分なんだよ!」
次々に個包装をあけていく私と反対に、雲雀は未だに1つも食べていない。
実際、私よりも頭使ってるのは雲雀だと思うんだけどな。
「糖分足りないと頭回らないよー?」
そう言って雲雀の前のテーブルに左手を突いて、右手にはチョコを持って、身を乗り出す。
「ほら、一個くらい食べたら?あ、味は私が保証するから!」
「余計に不安」
「なんですと!!」
私の味覚がおかしいとでも言うのか!
そう叫んでやろうかと思った瞬間、雲雀は私の右手を引っ張ったかと思うと、
そのまま私の手をUターンさせてチョコを私の口に押し込んだ。
「もがっ、な、なにすんの!」
「そんなに美味しいならが食べればいいよ」
「むー…一応貰ってるのは雲雀なんだから、食べればいいのに」
右手についたチョコを舐めようとすると、また雲雀に手を掴まれた。
「あ、食べる気になった?なら持ってきて…」
「いい。これで十分だから」
そう言って雲雀は、私の指を口に含んだ。
「…え、は!?何やってん…!!」
指先に感じる舌の感触にぞくりとする。う、あ、なんだこれ。
含まれた指に一通り舌が触れると、雲雀はゆっくり指を口から離して呆然としている私の顔を見る。
「…何?」
な、何じゃねぇぇえええー!!
そう叫びたいのに、口の中が乾いて声が出ない。
「あぁ…口の方舐めてほしかったの?」
「そ、そんなわけないでしょうが!!ひっ、雲雀のバカァァァーー!!!」
叫びながら応接室を飛び出す。
ダンボールを持ってくることは忘れずに。
今からツナの家に行ってお菓子パーティしよう!
今のは忘れよう!っていうか忘れたい!!!
夕方の校舎に、私の荒々しい足音が響いた。
バタン、と大きな音を立てて閉まった扉。
「…甘い」
衝撃で波立つカップの中のお茶を見つめながらそう呟いた。
その口元に笑みが浮かんでいることなんて、僕は気がつきもしなかった。
苦味の中の甘さ
(幸せそうにしてる君を見たいから、届けさせてる…わけじゃない、はずだ。)
あとがき
口にちゅーさせる勇気はなかった風村雪です(ぁ
結構ありがちがネタですよね。すみません。お菓子食べたいのは私です。
2008/11/25