授業は全て終わって、生徒達も帰り始める時間。
私は、1階にある教室の窓磨きをしていた。
掃除当番なわけではなく、遅刻した罰なんだ。
いつもなら上手く誤魔化して教室までたどり着くのに、今日は運悪く、恐怖の風紀委員長様にみつかってしまったのだ。
そしてさらに運が悪い。
「もたもたしてないで、さっさと磨きなよ」
その恐怖の風紀委員長雲雀様の監視付きなのだ。
「あの、もう、十分窓綺麗だと思います」
ほらみろ、といわんばかりに窓をこすると、キュキュッと綺麗なガラスの音がする。
「じゃあ次の窓やりなよ。まだ3部屋しか終わってないよ」
「3部屋やっただけ素晴らしいと思わないの!?もう相当疲れたよ!!」
恐るべし風紀委員長。
窓磨きは教室一部屋分ではなく、1階にある教室の窓全部磨いてよ、と言ってきたのだ。
3部屋分終わらせた自分を褒めてあげたい。もう手が痛い。
はー、と溜息をつく。窓が息で白くなる。
あぁ、皆もう帰ってるのに…私も帰りたいのに。
さっさと終わらせるしかないか、と思って次の窓に移った。
「…まあ、少しくらいは休憩してもいいんじゃないの」
そんな声が、後ろから聞こえた。
「え、いいの?」
あの人を馬車馬のように働かせる風紀委員長の口から、休憩していい、なんて言葉が出るなんて…!
「上の奴らも見てこなきゃいけないから。戻ってくるまでにこの部屋の窓は磨いておいてね」
そう言って雲雀は颯爽と教室から出て行った。
上…ああ、一緒に遅刻が見つかったツナは上を磨いているのか…。
それにしても、この教室でまだ磨いていない窓ガラスは、あと5枚。
…休憩、できない。
絶対、物凄い速さで戻ってくるよ雲雀は。
呆然としながら雲雀が出て行った扉を見つめる。
やるしかない、か。
そう思って窓に向き直ったとき、さっきまで無かったものが見えた。
「お久しぶりですね、!」
「…」
シャァァッ!!レールをすべる音と共に、カーテンを閉める。
何か、いた。
ここにいたらいけない人が…いた、気がする。
できれば気のせいで終わらせたかったが、窓を磨くにはカーテンをあけなければいけない。
ぎゅ、とカーテンの縁を掴んで、ばっ、と窓からカーテンを取り払うように開ける。
「酷いですね、いきなり閉めるなんて。あ、照れてるんですか?」
「お前何故ここにいる」
がらら、とゆっくり窓を開けて低い声で言う。
目の前で窓枠に腕を置いてニコニコしているパイナップル頭。…もとい、六道骸。
「僕はのいるところでしたら地獄だろうと何処だろうと行けますよ」
「あんたが言うと冗談にならないんだってば」
ニコニコ、と笑みを絶やさずに言う骸。
こいつなら実現できてしまいそうで、怖い。地獄までストーカーなんて、逃げ場がないじゃないの。
「ともかく、今忙しいの。だから今すぐ帰れ」
「の用事が終わるまで待ってますから、一緒に帰りましょう」
「そんなすぐ終わる用事じゃないんだって。だから、先に帰りなよ」
っていうか学校違うじゃんお前。
「は真面目さんですねぇ…。用事って、窓磨きなんですか?」
私の手に握られたさほど汚れていない雑巾を見て骸は言った。
「あー、まあ、ね。1階の教室、全部やらなきゃいけないから…相当時間かかるよ」
せめて、1階の分を2人で分担にしてほしかった。
「じゃあ、窓が無ければ磨く必要ないですよね。壊しましょうか」
「うおおおい!!!駄目だよ!!何その危ない解決法!!!」
真面目な顔して何を言うかと思ったら…!!
骸は頭のネジが30本くらい飛んでるんじゃないかと思う。
「ですが…」
呟きながら、骸は窓枠に手をかけて、軽やかに教室の中へ入り込む。
そのまま私の両手をそっと握る。
「の手が荒れてしまうくらいなら、窓ガラスなんていりません」
「む、くろ…」
いらないといわれても、ここは並中であって、黒曜中ではない。
勝手に窓ガラス撤去なんてしようものなら、あの風紀委員長様がお怒りになるわ。
でも、悔しいことに、少しだけときめいてしまった。
骸は無駄に顔がいいだけ、得だと思う。日々のストーカー行為すら打ち消されてしまう。
「あぁ、でもの手のヒビわれを僕が舐めてあげるというのも、楽しそうですね」
「ぎゃああああ!!!」
うっとりとした表情で言う骸の手の中から手を引っ込める。
ききき気持ち悪い!!!駄目だ、こいつやっぱり変態だ!!
「おや、どうしたんですか」
「どうしたもこうしたもないわ!!気持ち悪いわ!!」
「気分が悪いんですか。では早退しましょうか、一緒に」
「いや原因がお前だから。一緒にいたら治らないから」
「その場合看病は黒曜ランドよりもの家がいいんでしょうかね」
「話を聞け!!」
会話のキャッチボールがまったくもってできていない。
1人で話を進めていく骸に、私は呆然と立ち尽くすしかできなかった。
そして我に返った時の一言は。
「何勝手に入り込んでるの、君」
部屋の温度が下がった気がした。
「おや、久しぶりですね雲雀恭弥。会いたくなかったですけど」
「僕だって君の顔なんて見たくなかったよ」
歩きながらそう言う雲雀の手には、ギラリと光るトンファーが握られている。
「不法侵入者は、排除」
冷たく言って、雲雀はトンファーを振りかざした。
骸は軽やかに攻撃をかわして、どこからともなく槍を取り出して言う。
「会うたび会うたび、なんなんですか君は!と僕の仲に嫉妬してるんですか!」
ちょっと待てどんな仲だ。
そこは一言物申したい!
…とは思うが、とてもじゃないけどあの乱闘の中に入り込んではいけない。死んでしまう。
もしかしたら窓ガラス、全部壊れるかもしれない。
窓磨きの悲劇
(結局、私はツナと一緒に帰りました。次の日学校行ったら朝イチで応接室に呼び出されました。)
あとがき
骸さんの口調がよくわからない…!
やっぱり彼は変態でナンボだと思ってます。カッコイイのは一瞬です。
2009/02/23