ふあ、とあくびをかみ殺しながらクローバーの塔の中を歩く。

 

この時間帯がぐちゃぐちゃな世界でも、一応あたしは、夜に寝るようにしていた。

ここのところ、昼続きで、寝ようにもエリオットに散歩に行こうと言われたり、

ディーとダムと門の前でカードゲームしたりで、寝るに寝れなかった。

そして、やっと夜が来たと思ったら、嬉々とした表情でブラッドにお茶会にさそわれた。

 

 

…ここじゃ、寝れない。

 

 

 

そう思ってあたしは、閉じそうな瞼を残った気力で持ち上げながら、ここ、クローバーの塔までやってきた。

 

 

本当ならナイトメアかグレイに挨拶をするべきなんだけど、もう、今は、それどころじゃない…!

階段を上るのも辛くなってきた。

仕方なく、廊下を歩いて、適当に…使ってなさそうな部屋に入り込んだ。

 

 

外は未だ夜にはならず、夕焼けのオレンジ色が目に痛い。

カーテンを閉めて、ベッドに倒れこむ。

 

「……おやすみ」

 

10分くらい、部屋借ります。あ、でもここじゃ分とかあんまり関係ないんだっけ。

心の中でそう呟いて、あたしの思考は止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ん…」

ゆっくりと目を開く。

どれくらい、寝たんだろう。時計…も無いし、空はカーテンに遮られていて見えない。

 

 

そこで、ふと気付く。

何か、乗ってる。

半開き状態の目をこすって、よく見る。

 

…なんで、グレイのコートがこんなところに。

 

 

 

「起きたのか、

その声にゆっくり上半身を起こすと、足元の方にグレイが座っていた。

 

「うー…おはよ……って、え?」

なぜ、ここに。

「えっ!?あれ、ここってグレイの部屋…じゃないよね?」

適当に入った小さな部屋。家具も少ないし、空き部屋だと思ってたんだけど。

 

 

「ああ。ここは誰も使っていない部屋だ」

その言葉にほっとする。

「部下にがふらふらしながらこの部屋に入るのを見たと聞いてな。体調が悪いのかと思って様子を見に来たんだ」

 

 

うわあ。それは、申し訳ない。

「ご、ごめん。一言言いたかったんだけど、その前に眠気に負けちゃって…」

実は、と屋敷での眠れない事情を話すと、グレイは少しだけ笑った。

 

「そうか、それでここに…」

「うん。一番寝るのに安全だと思って」

お城でもよかったんだけど、あの迷路を通ってる最中に力尽きたら、と思うとどうしても行けなかった。

 

 

 

「あ、それより、コート…ありがとう」

きゅ、とグレイのコートを握る。

この温かみは、私の体温か、それとも、グレイの体温か。

 

 

「…まだ、寝足りないだろう。もうしばらく、使っているといい」

「え、でも仕事行かなきゃ、でしょ?」

脳裏に血を吐きながら書類に埋もれて駄々をこねるナイトメアが浮かぶ。

 

 

「今から休憩だ。だから、遠慮しなくていい」

そう言って、あたしの頭を撫でて、ベッドから立ち上がろうとする。

 

 

 

 

「…じゃあ、グレイも寝なよ」

「……は、あ…?」

一瞬、何を言われたのかわからない、という顔でグレイは呟いた。

 

「グレイも仕事で疲れてるでしょ?だからさ、寝なよ。ベッド広いし」

あたしは横にスペースを空けてぽんぽん、と叩いて布団を均す。

 

 

「なっ…待て、待て。いくらなんでも、それは…」

突然わたわたと慌てだしたグレイの意図を考えられるほど、今のあたしは頭が働いていない。

また、眠気が襲ってくる。

 

 

「やっぱり駄目だ、いくらなんでも君は…」

「ふあぁ…ほら、休憩時間もったいないじゃん、はや、くっ!」

ぶつぶつと何か言っているグレイの腕を引っ張って、再びベッドへダイブする。

 

ぼす、と音を立てて揺れたベッドは、あたしの眠気を誘う。

 

 

「じゃ…おやすみ……」

グレイの腕から離れたあたしの手は、ベッドに沈む。

 

 

 

「…はあ。どうして、君はそんなに…」

おぼろげになった意識の中で、グレイの声が聞こえる。

そして、ずり落ちていたコートが再びあたしの肩まで引き上げられる。

 

 

するり、と優しく髪を撫でられる感触が気持ちいい。

「あまり無防備でいるんじゃない、。…特に役付きの男の前では、な」

呟かれた声を理解する前に、意識は再び暗闇中へとおちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ん…む…」

ぱちり、と目を開ける。

見慣れていない天井。ここは…あぁ、そっか。クローバーの塔だっけ。

 

眠気に負けて、ここへ来てグレイに会って………どうしたんだっけ。

 

とりあえず起き上がろうかと思ったが、体が持ち上がらない。

ゆっくり視線を下げると、あたしの肩を抱くように、腕が乗っている。

 

 

…いやいやいや、そんな、まさか。

音を立てないように、顔を横へ向ける。

そこには、予想通り、グレイの寝顔があった。

 

 

なんで。

なんで、なんで、こうなってるの!?なんで横で寝てんの!?

 

 

…あたしが引っ張ったんだっけ。

 

 

思考が暗闇に落ちる寸前にやったことを思い出す。

なんてことを、しでかしたんだ、あたしは!

 

思い返して急速に脈打ち始めた心臓の音が、静かな部屋に響く。

 

 

とりあえず今は、グレイが起きたときに何を言うかを考えよう。

それにしても。

 

 

 

 

 

君の寝顔は可愛すぎる






(「…ん…?」「あぎゃああ!(しまったついガン見してた!)」「!?(いや、何もしてない、俺は何もしてない…はず」))

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

グレイのコートは絶対温かいと思うんだ。着たい(黙れ

最初はエースで考えてたんですが、彼じゃ確実に一緒に寝たらいろんな意味でアウトだと思ってグレイに変更。

2009/03/22