ピピピピ、と目覚ましの音が響く。

うう、起きなきゃいけないけど…まだ寝たい。

 

そんな私の気も知らず、目覚まし時計は鳴り続ける。

うるさい…もう、止まれ!

 

心の中で叫んだ瞬間、音は止まる。

 

 

 

「……っ、え!?」

そんなバカな!

 

そう思って起き上がる。

「あ、おはようございます

「え、あ、うん、おはよう」

 

 

…って、ちょっと待て。

 

 

「なんでお前私の部屋にいるんだ、骸ーー!!!」

「本当は夜に来たかったんですけどね、夜は千種と犬のガードが固くて…」

くぅ、と唸って握りこぶしを作る。

 

 

「でも朝もいいものですね。でも、いけませんねぇ

「何が」

「起きるときは王子かっこ僕かっこ閉じのキスで起きなくては」

「どうでもいいっていうか、かっことか細かいな!最初から僕でいいだろ!」

 

 

朝から絶叫したせいで、くらりとめまいがする。

だめだ、遅刻するわけにはいかない…!

恐怖の風紀委員長にまた窓磨きだの、草むしりだのやらされる…!!

 

 

「そもそもなんで朝からうちに来る必要があるの。しかも窓から」

私の部屋の窓は、寝るときには鍵までかけたはずなのに、今や大全開になっている。

 

 

「会いたくなったから会いに来ただけですよ。入口なんてどこでもいいじゃないですか」

「いやいや、お前な。日本の玄関が窓だと思ったら大間違いだよ。窓から入って許されるのはサンタだけだよ」

「おや、はサンタ信じてるんですか」

「もののたとえだっつーの」

朝から腹立つなこいつ…!

 

 

 

「で、いつまでいるの。着替えなきゃいけないから出てってよ」

「いえ、目覚まし王子役は逃してしまったので、ここは着替え担当の執事でいこうかと…」

言いながらがさごそと箪笥を探って制服を出してくる骸。

 

 

「変な設定つくらなくていいからっていうか何で制服ある場所知ってんの」

のことなら、何でも知ってますからね!」

「気持ち悪いんですけど」

私の制服を抱きしめて力説しないでいただきたい。

 

 

「あぁもう!早くしないと遅刻する!ほら、はやくそれ渡して!!」

「嫌です」

骸はそうキッパリと言い放つ。

 

 

 

「あーもう!早くしないと、お母さんも来ちゃうでしょ!」

「それなら大丈夫ですよ。僕が幻覚でちょちょいのちょいとやっておきましたから」

「その能力を無駄なところで使ってんじゃないわよ」

 

何のために使ってるんだこいつは!

でも、これで助けに来てくれる人がいなくなってしまった。どうしよう。

 

 

「早くしないと遅刻してしまうんでしょう?あ、もしかして脱がせるところからやって欲しいんですか?」

「違うって!ちょ、近づくな!!」

ゆっくりと制服を持ったままで私に近づいてくる骸。

 

 

「パジャマ姿のも可愛いので、脱がすのが勿体ないですが…ここは仕方ないですよね」

「だから気持ち悪いことを言いながら近づくな!」

骸が一歩進むたびに私も一歩下がる。

 

 

そして、ついに足を引いたとき、こつんと何かに当たる感覚がして、後ろへ倒れこむ。

ぼすっ、と音を立てたのはさっきまで私が寝てたベッド。

 

 

「ひ、ひええ…」

素早く起き上がって、壁際に張り付く。

「クフフ…もう逃げ場はありませんよ。さ、…」

そう言った骸の手が、私のパジャマにかかる瞬間。

 

 

 

 

「骸さんめーっけ!!」

「犬、捕獲!」

「おっけーらびょん!」

 

ふ、と窓の方を向く。

「いけ!」

「がおおお!」

「おわーー!!何してるんですか犬!!」

「ぎゃーー!窓がァァァーー!」

 

 

ばーん、と勢いよく外れて吹き飛んだ窓。

割れなかったことが奇跡…だけど、寒い!窓無いと寒い!!

 

 

 

「やめなさい、犬!不法侵入ですよ!」

「お前が言えると思っているのか骸」

 

飛び込んできた黒曜中に通う、犬ちゃんに押さえつけられている骸はじたばたと暴れる。

そこへやっぱり窓から入ってきた千種が、私の制服を奪い取る。

 

 

「何するんですか千種!」

「…はあ」

「なに溜め息ついてるんですか!ちょっと!」

 

 

吹き飛んだ窓を呆然と見つける私の視線の先に、ふと制服が映る。

「…骸さまが、迷惑かけた」

「あ…」

困ったもんだ、といった表情で言う千種。

 

 

「ありが、とう」

私がそういうと、千種は「うん」と小さく言って眼鏡をかけなおした。

そして骸の方へ体を向けなおす。

 

 

「骸さま、いい加減彼女に迷惑をかけるのをやめたらどうですか」

「そうらびょん。余計に好感度ダウンしてるびょん」

 

なんて、いい子たち…!

もっと言ってやれ!もっと言ってやれ!

 

 

「ふ…分かってませんね、犬、千種。はツンデレなんですよ!本当は嬉しいんですよ!」

「嬉しくないっつーの」

誰がツンデレだ。骸の妄想癖にはついていけない。

 

 

「とにかく、俺らも学校行かないと…」

「遅刻れすよー」

ずるずると窓の方へ骸を引きずっていく犬ちゃん。

千種は1度、私に向かってお辞儀をして窓から出て行った。

 

 

 

続いて犬ちゃんが窓から出て、骸が窓から引っ張りだされる瞬間。

!」

さっきまでの緩みきった顔とは違う、真剣な顔で言う。

 

 

 

「今夜は窓、鍵かけないでください!王子役のリベンジです!おやすみのキスしに行きますから!」

「絶対来るな」

 

 

今日は、鍵をかけて、カーテンを閉めて、窓の前にありったけの物を置いておこう。

っていうか、その前に、せめて。

 

 

 

 

 

玄関を活用してください






(窓の修理をしてから家を出た私は、盛大に遅刻してやっぱり風紀委員長様に草むしりやらされました。)

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

ヒロインの遅刻理由の半分は骸です。

一番王子っぽいのが千種でその召使が犬ちゃんですね。

2009/04/08