ふわり、と桜が舞う季節。

春休みももう終わりだな、と思いながら何気なく散歩をしていた。

 

 

「ん…?」

ふと、前を歩く人物に見覚えがあった。

 

「田沼?」

ぽつり、と呟くように言った声に、前を歩く人物が振り返る。

 

「ああ、夏目」

「どうしたんだ?こんなとこで」

「ちょっとな。…あ、そうだ。夏目、今から時間あるか?」

「?ああ、大丈夫だけど」

「花見に、行かないか?」

 

 

穴場があるんだ、と笑う田沼に、おれはいいよ、と返事をしてふと思う。

「あ…その前に、もうひとり誘ってもいいか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、ほんとうに私まで来ちゃってよかったの?」

「もちろんだよ」

心配そうに言うさんに笑って言う。

 

 

「それより、おれは2人が友達だったことにびっくりしたんだが」

「おれだって、夏目がと友達とは思ってなかったよ」

 

 

さんは、こっちに引っ越してくる前は田沼と同じ学校に通っていたそうだ。

「友達と言っても、席となり同士になって…私はすぐ引っ越しちゃったからね」

「その後に、おれが引っ越したんだよなあ」

 

「その時田沼は、さんが…妖が見れるって知ってたのか?」

歩く早さは変わらず、話続ける。

「いいや。さっきのが初耳だよ」

「あはは、なんかもう、隠すの慣れて上手になってきちゃって」

そう言って笑うさんは、少しだけ…ほんの少しだけ寂しそうに見えた。

 

 

 

 

 

「っと、着いた着いた」

「うわああー!きれいー!」

「すごいな…」

少しだけ絵山を登ったところに、大きな桜の木が生えていた。

周りにあるのは普通の広葉樹で、一本しかないにもかかわらず、その木は綺麗な花を咲かせていた。

 

 

「よく知ってたな、こんなところ」

「散歩してて、偶然見つけたんだよ。…ニャンニャン先生が」

「…え?」

ぽろり、と田沼の口から零れた名前に思考が固まる。

 

 

 

「遅いぞお前ら!」

「ニャンコ先生……」

ちゃっかり酒瓶を傍らに、桜の木の下で1人宴会をしていた。

 

 

「昼間っから酒なんか飲んでるんじゃない!」

「あほぅ!花見には酒が必須アイテムだろうが!」

お猪口を片手に桜の木の周りを走り回る先生。

 

 

 

「相変わらずだなー、夏目くんもニャンコ先生も」

ふふ、と笑うさんの声が聞こえる。

「…なあ、

「うん?」

 

 

「お前も…妖が見えることで、悩んでたりするのか?」

そういった田沼の声は、ひどく真剣なものだった。

 

「…今は、そんなに悩んでないよ。隠すのも、慣れてきたし」

呟く声は、やっぱり寂しそうで。

 

 

「おれは…や夏目みたいにはっきりは見えないが…」

「田沼、くん…?」

「相談くらいはのってやれるから。辛いときは、言ってくれよ。な、

「……うん。うん、ありがとう」

 

ふわり、と宙を舞う花びらのような消えてしまいそうな笑顔でさんは言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「桜といえば、木の下の死体だな」

酒瓶を奪い取って、少しだけ拗ねていた先生が楽しそうに言った。

「あのなあ。今日はそういうのはナシだよ先生」

 

 

「わからんぞ。案外、漬物とかが埋まっているかも…」

「違うみたいだよ」

きっぱりと言ったさんは、ゆっくりと桜の木に近づく。

 

 

「残念ながら、ここにあるのは普通の地面と桜なんだって」

「…どういうこと…?」

俺がそう尋ねると、さんはゆっくりを上を指差した。

 

 

「あ…」

桜の木の、上の方。そこには、お面を被った子供がいた。

多分…あの子は、妖だろう。

 

 

「田沼くんは…見えないかなあ…」

ほら、いま、手振ってくれたよ!なんてはしゃぐさんに、田沼は薄く笑った。

「はっきりとは見えないけど…何かいるのは、なんとなくわかるよ」

 

 

ふわりふわりと桜の花びらが舞う中で、ぽつりと田沼は呟く。

「…夏目とは同じ世界が見えてるんだな」

「田沼…?」

「いや、少し、羨ましいと思っただけだよ」

 

 

言いながら田沼は、桜の木の幹にそっと手を当てて、上を見上げる。

「…じゃあ、私が…私と夏目くんが実況中継してあげるよ」

さんはすっ、と田沼の横に立って桜の木を見上げて、手を振る。

 

 

「その代わり、田沼くんが見えてる世界は、田沼くんが実況中継してね」

笑顔で言ったさんに、俺も賛同する。

「ああ。俺には田沼が見てる世界は見えないから。…これでお互い様だろ」

「…ありがとな」

 

 

 

「まったく、暢気な奴らだ。の娘、お前は妖に好かれやすくもあるが…喰われやすくもあるんだぞ」

少しだけ、声音に心配そうな感じを含めて先生は言う。

 

「その時はおれがを守るよ」

「……え、あ、ええっ!?」

「他の奴らには話せないだろ?」

「あ、う、うん…」

わたわたと手を振って慌てるさんと、笑って言う田沼を見て、先生は1度だけため息をつく。

 

 

「まったく…これだから人間は」

「ほっとけないんだろ。…先生、守る人が増えたな」

「…ふん」

つん、とそっぽを向いた先生にさんが声をかける。

 

「七辻屋のおまんじゅう奢ってあげるから、ニャンコ先生もよろしくね」

「仕方ないな!まあこの私がついていれば平気だ、安心しておけ!」

「……」

 

 

呆れる俺と、噴出して笑う田沼とさんと、桜の花びらを追いかけるニャンコ先生と。

また来年も、こんな風に笑っていたいと、おれは思っていた。

 

 

 

 

2つの世界とお花見会






「おい夏目、花見には団子もいるだろう」

「何でおれが…」

「ああ、俺行こうか?えっと、4つでいいか?」

「ううん、7つ」

「ななつ?」

「私と、田沼くんと、夏目君と、ニャンコ先生と、木の上の子と、田沼くんの両隣の子の分」

「…りょっ、両隣っ!?(なんかいたのか!?)」

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

田沼くんがいい人になりました。もとからいい人ですけどね!

このシリーズでヒロインを名前で呼ぶ男子同級生は多分彼だけ。

2009/04/12