授業の終わりを告げるチャイムを聞いてから、数分後。
私は屋上から、次々に下校していく生徒を見ながら叫んだ。
「私も帰りたいよちくしょーーー!!!」
綺麗な青空に、私の声は吸い込まれていく。
「…なにやってんだ、おめーは」
おそらく私が叫んだ瞬間にやってきたのであろう、獄寺が屋上の扉を開けた体勢で固まっていた。
「なにしてんの獄寺。帰らないの?」
「こそ何やってんだよ。帰れないって何だ、帰り道忘れたのか」
「バカにすんじゃないわよ」
相変わらず眉間に皺をよせて、獄寺は屋上の扉を閉めた。
ポケットから煙草を取り出して、ふと何かに気付いたようにしてもう1度煙草をポケットにしまった。
「吸わないの?」
私の横、屋上の端の手すりにもたれかかる獄寺にそう尋ねる。
「……ライター、忘れたんだよ」
「ばっかじゃないのー!」
「お前に言われたくねーよ」
「で、何で帰れないんだよ」
どうしてもそれが気になるのか、チラチラと私の顔を見ながら言う。
「この間の英語のテスト、成績悪かったからこの後補習だってさー」
すっかり下校する生徒の数が減った地上を見下ろして、溜め息をつく。
「あーあ。くそう、何で神様は獄寺に頭脳と美貌なんて二物を与えちゃったんだよー!私両方無いんですけどー!」
ひゅう、と風が吹く。
「…」
「え、ちょっと、何黙り込んでんの。反応無いとか気まずいじゃん」
突如黙り込んでしまった獄寺の顔を覗くと、さっきよりもほんのり赤くなっていた。
「…何、赤くなってんの。気持ち悪っ」
「気持ち悪いって何だ!!お、お前が変なこと言うからだろうが!!」
ばっと顔を上げて私を睨みながら言う。
顔が赤い所為で、いつもほどの眼力は無い。
「変って、むかつくけど実際頭いいじゃん」
この間、獄寺の100点のテスト答案用紙を見たときは、ツナと一緒に思考停止した。
「そっちじゃねえよ!」
「もういっこ…?ああ、美貌?」
「っ、意味、わかって言ってんのかよ」
何をそんなに慌てているのか、分からないまま私は答える。
「だって、獄寺さ、ほんと腹立つくらい綺麗な顔立ちしてんじゃん。認めたくないけどさ」
「褒めたいのか貶したいのかどっちだよ」
「褒めてるよー…一応」
パクパクと口を動かして、獄寺は「き、れい…?」と呟いた。
「っ…んなこと、言われても嬉しくねーよ」
「ツナに言われても?」
「十代目のお言葉なら、何でも嬉しいにきまってんだろ!!」
「………」
そんな話をしているうちに、時計の針は補習の時間の始まりを指していた。
「おっと、そろそろ行かなきゃ」
手すりから体を離して、ぐっと伸びをする。
「じゃあね、獄寺」
手を振りながらそう言って、数歩進んだところで声がした。
「待てよ、」
「ん?何?」
「あの、まあ…あれだ」
振り返るとやっぱり赤い顔で、眉間に皺をよせて、ぼそぼそと呟く獄寺が見えた。
「今日は…十代目がリボーンさんと帰ってて、この後暇だから、待っててやるよ」
「…長く、なると思うよ」
補習のプリントといえど、なかなかに手ごわいと思う。
「どうせ帰っても、することねーし」
「宿題、出てるけど」
「んなもん朝の時間で終わらせる」
一度は言いたい台詞だ。
私は朝の数分じゃ終われない。
「…めんどくさくなったら、帰っていいからね」
「なるべく早く、終わらせてこいよ」
「おうっ!頑張るよ!」
笑顔でブイサインを掲げて、私は屋上を出る。
ガチャン、と扉を閉めてから、ふう、と息を吐いた。
「…やっぱり、二物を与えちゃ、だめだよ神様」
せめて頭脳だけにしてくれないと。
悔しいけど、ほんの少しだけ、どきりとしてしまった。
扉が閉まった後、屋上に残った獄寺は、ポケットから煙草を取り出した。
「…あーくそ、俺らしくねぇ…」
はあ、と溜め息をつきながらライターを取り出す。
「何でのために煙草我慢してんだか。その上、待ってるなんて言っちまったし…」
ぐっと見上げた空は、清々しいほどに青かった。
「に愛嬌なんか与えちゃいけねーだろーがよ、なあ神様」
惚れちまったらどうすんだ
(結局、が屋上に戻ってきたのは6時だった。遅いんだよこのバカが!でもを待ってた俺も相当なバカだ!)
あとがき
獄寺との恋はめっさ青春っていうか見てて悶々する感じだと勝手に思ってます。
最初煙草吸わなかったのは、ヒロインの体を思ってだったりする。
2009/05/11