閉じた瞼の上から、かすかな光が照らす。

ああ、そっか、もう日が昇ったんだ。

なんて思いながらあたしは布団を頭まで被って、再び寝る体勢に入った。

 

 

そして、また夢の世界へおちていこうとしたとき。

頭上の方向にある襖がスパーンといい音を立てて開いた。

 

「Good morning、!」

 

とんでもないバッドモーニングです。

 

 

 

布団を被ったまま、あたしは無視を決め込んだ。

どうせ朝日が昇ったとはいえ、現代で言う5時とか6時とかその辺なんだろう。

せっかくトリップして、学校という名の睡眠時間削除イベントから解放されたんだから、朝はゆっくり寝たい。

 

 

「おい、朝だっつってんだろ、起きろよっ!」

ぐいいと引っ張られる掛け布団を内側から掴んでなんとか持ちこたえる。

 

「まだ、早朝じゃないですか…!もうちょっと寝かせてください、政宗さん!」

布団が千切れるんじゃないかという力で引っ張り合うあたしと政宗さん。

あたしの力はほぼ限界だけど、おそらく政宗さんはまだ力セーブしてるんだろうな。

 

 

「No!駄目だ、俺が起きてんだからお前も起きろ」

「どんな我がままっ子発言ですか!嫌です!朝弱いんです!」

ぎゅう、と布団の裾を体の下へ押し込む。

なんとしても布団から出まいと、今のあたしはカタツムリみたいな感じになっている。

 

 

「ああもう!あと30分…ってこの時代でなんて言うんだろう…」

「さんじゅっぷん?」

おそらく初めて聞く単位だったんだろう。

政宗さんの疑問の声が布団越しに聞こえる。

 

…えーと、一刻が2時間でしょ。

じゃあ半刻のさらに半刻?

うう、もうわけわかんない。眠気で頭が回らない。

 

 

「とにかく、もう少し寝かせてください。そしたら起きますから」

こうやってる時間も、もったいないんだから。

 

 

「嫌だ」

「子供みたいなこと言ってないで、いい加減布団から、手はなしてくださいってば!」

未だにギリギリと布団を引っ張っている政宗さんに、なんでこう諦めが悪いんだろうなんて思いながら

あたしは布団の中でこっそり溜め息をついた。

 

 

 

「ああもう、わかりましたよ。起きればいいんでしょ起きれば!」

だんだん目も覚めてきた。

2度寝の気分はどこかへいってしまった。

 

「You should do that from the beginning!」(最初からそうしてりゃいいんだよ!)

「何言ってんのかわかんないです」

朝から英語なんかできるわけがない。

 

 

「で、起きますから、部屋から出てってくださいよ」

「Ah?何でだよ」

「何でって…」

 

そんなもん、寝起きの顔なんか見られたくないからに決まっているだろうが!!!

 

 

「…何でも、です」

 

おそらく布団から手は離れているんだろう。

引っ張られる感覚はもう無い。

だからあたしも、布団から手を離す。…もちろん、被ったままで。

 

 

「…なるほどな」

「!わ、わかってくれたんですか!?」

普段はデリカシーのデの字も感じさせない俺様っぷりを発揮する政宗さんが、こんなことに気付くなんて…!

 

 

「俺が部屋出た瞬間からもう一回寝ようとはいい度胸してんじゃねぇかーーー!!!」

「違ぇぇええええ!!!!!」

叫ぶと同時にバッと勢いよく捲られる掛け布団。

 

 

「っぎゃあああああ!!」

気付いてなかった!やっぱり気付いてなかった!

それどころか布団まで捲られるなんて!

 

とっさにあたしは叫びながら側にあった枕で顔を隠す。

ボッサボサの髪の毛は、どう頑張ってももう隠せない。

 

 

 

「Put that aside!何で俺と顔あわせねぇんだよ」(それどけろよ!)

「だ、だから、寝起きっ、寝起き顔なんか見られたくないんですってば!」

できる限り枕を顔に押し付ける。

 

 

「今のあたしきっと酷い顔してますから!顔洗ってきたら政宗さんに改めて挨拶しに行きますから!」

「そんなもん見てみなきゃわかんねーだろ」

そういいながら、今度はあたしの両手首を掴む。

 

 

「ぬあっ!やめてくださいってば!ほんとガッカリしますよ!普段でもガッカリな容姿なのに更にガッカリしますよ!」

「Ha!そりゃねぇな!寧ろ普段cuteな奴がどう変わるか見てェし」

「だっ、だだだ誰がキュートですか!」

 

おま、女中さんの顔見たことないのか!

可愛い人だらけじゃないか!あたしより、数倍、可愛いじゃないか。

 

 

だからこれ以上、貴方に可愛くないところは、見せたくないのに。

 

 

「もう、離してくださいってばーー!」

っていうか洗面所へ行かせてくれれば万事解決なんですってば!

 

そう叫ぼうとしたとき、開きっぱなしになっていた襖の外から小十郎さんが顔を出した。

 

 

 

「政宗様、を起こすのにどれだけ…かかって…」

 

カラン、と何かが落ちる音がした。

 

 

突如あたしの手を握る政宗さんの手が強張った。

「こ、小十郎…」

顔を引きつらせながら、政宗さんは後ろ、小十郎さんの方を振り向く。

 

「政宗様…あなたは、朝から何をしていらっしゃるんですかァァァ!!!」

「うおあっ、wait!ま、待て待て小十郎!」

「待ちませぬ!朝餉の前にしっかり話を聞かせていただきます」

 

ゴゴゴ、と何かが燃え上がっている小十郎さんを、ちらりと覗く。

ずんずんと近づいてくる小十郎さんを避けるように、政宗さんは部屋から出ていった。

 

 

朝から台風が来たみたい、なんて暢気なことを考えている場合じゃなかった。

 

!お前もさっさと顔洗って来い!」

「ひええ!すいまっせん!行ってきまぁぁぁす!!」

 

 

枕を放り投げて、あたしも走り出す。

結局この後、洗面所に張り込んでいた政宗さんに寝起き顔を見られて絶叫するのは、もう少し後のお話。

 

 

 

寝起きハプニング






(「やっと来たか!」「ぎゃああ!」「やっぱりcuteじゃねえか」「小十郎さぁぁん!政宗さんここにいまーす!」「!?」)

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

寝顔見られるのも嫌ですけど、寝起き見られるのも相当嫌です。

見るのは好きですけど、見られるのは嫌です←

2009/06/17