愉快な音楽が流れている遊園地。

せっかく遊ぶなら、誰かを誘おうと思ってボリスの部屋へ向かったけど、部屋の主は不在。

次にゴーランド…は、いたとしても忙しいだろうなあ、なんて思いながらも彼の部屋を目指す。

 

 

「おっじゃましまーす…って、いないし」

ガラン、というには楽器だらけの部屋に入る。

 

「にしても、何かしら間違ってるよね、ここの楽器」

このトライアングルなんて、丸いし。どうやったらこんな間違え方できるのさ。

 

 

部屋の中を見回してから、ピアノに触れる。

鍵盤を軽く押すと、ポーンといい音が鳴った。

 

「…うーん。人もいないし…ちょっと、借ります!」

 

誰もいない部屋で、ピアノに向かって手を合わせてから、あたしはそっと鍵盤に手を乗せた。

 

 

 

 

 

 

 

くあー、とあくびをしながら廊下を歩く。

時間帯は夕方から昼へと変わった。どーせなら夜になってくれりゃよかったのに。

 

「暇だなー。とかアリスとか遊びに来ないかなー」

そう呟いていると、ポロン、とピアノの音が耳に届いた。

げ、まさかおっさん!?…と思ったけど、もしそうなら、音が聞こえた時点で耳が壊れそうになってるはずだ。

 

「…じゃあ、誰だ…?」

呟いてから、音を出してる主が気になって俺は廊下を走り出した。

これでもし本当におっさんだったら俺死ぬな。なんて思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

鍵盤から音が流れる。

ふふ、あたしもまだまだ捨てたもんじゃないね!

…なんて言えるほどに上手くはないけど。

 

つっかえつっかえになりながら、音を紡ぐ。

気づけば空の色がオレンジから青に変わっている。

 

 

とりあえず、この曲弾き終わったら、またどこか行こうかな。

そう考えながら手を動かす。

そして部屋に響く音は、終焉を迎えた。

 

 

「ふー…弾ききったー…!」

ぐいーっと背中を伸ばす。

ふうっと息を吐いて立ち上がる寸前。

 

 

「すっ、すっげーよ!!!」

 

扉の方から声が聞こえたと思ったら、背中にどーんと衝撃がきた。

「うおわっ、何っ、ボ、ボリス!?」

 

いったいどこから!?っていうかいつから!?

そんな問いかけをする間もなくボリスは口を開く。

 

「俺、こんな普通の音楽つーか曲聞いたの初めてだ!!」

「いや、それは大げさでしょ」

うしろからあたしの首に腕を回して、肩のあたりに顎を乗せているボリスの頭をぺちぺちと叩いて言う。

 

 

ごろごろと懐いてくるボリスをどうしようか、と考えていると廊下からダダダッという足音が聞こえてきた。

続いて、既に開きっぱなしの扉が破壊されるんじゃないかと思う勢いで、誰かが入ってくる。

 

 

「今のっ、今の誰がやってたんだ!?」

はあはあと息を切らしながらたずねるゴーランドに、あたしは控えめに自分を指差す。

「そうか…が…!」

 

ゴーランドは感極まったかのように呟いて、ぎゅう、とあたしの両手を包み込む。

え、何、なんでこんな大事になってきちゃってんの?

 

 

っ、お前も俺と同じ音楽家の道を歩んでいたんだな…!」

「歩んでないんだけど」

 

ただ、暇だったから、そこらへんに散らばっていた楽譜を拾って弾いていただけだ。

ピアノは昔少しだけ触ったことがあるから、まあ、初見は無理だけど、練習すればなんとか聞けるくらいには弾ける。

 

 

 

「なら今から一緒に目指そうぜ!音楽家のトップを…!」

どこのスポコン物語?と思っていると、肩越しにボリスが声を出す。

 

「おっさんの雑音と一緒にしてんじゃねーよ」

「…ボリス。お前、どこにいやがる」

「ん?の背中」

いつごろ離れるのかなーと思っていたけど、どうやら自覚アリでひっついていたみたいだ。

ってことは、きっとしばらく解放されないな…ま、いいけどさ。

 

 

「バッカてめー、そんな風に肩に負担かけてんじゃねえよ!音楽家生命にヒビが…」

「ならないって言ってんだけど!話聞こうよゴーランド!」

いち学生だったはずが、このままでは音楽家になってしまう。

 

 

 

延々と拒否をしていると、ゴーランドはしょんぼりしながらもやっと納得してくれた。

「それよりさ、もっと他のも弾いてよ」

「えぇ、いや、あたしそんな上手くないし」

一人だと思っていたからこそ弾けていただけで。

聞いてる人がいるなんて、緊張で手が震えてしまうじゃないか。

 

 

「じゃあさっきのでもいいからさ。俺、もっと聞きたい」

言いながら首筋に顔を押し付ける。髪の毛が頬に当たってくすぐったい。

「あんなきれいな曲、俺初めて聞いたよ」

 

そう言ったボリスは、本当に気持ちよさそうな顔をしていて。

…今まで大変だったんだなあと思った。

 

 

「初めてって、あの曲なら俺が前に弾いてやっただろ。ほら、が初めてここへ来たときも弾いてやったし」

「「嘘だ」」

 

あたしとボリスの声は、ぴったりハモった。

 

「百歩譲って弾いてたとしても、絶対違う曲になってた!つーか、曲ですらなかった!」

「同感っ!残念だけどゴーランド、あれは曲って言わない!」

初めてゴーランドに会った時は耳を壊されるのかと思ったほどだ。

 

 

口々に、アレは雑音以外の何物でもない!なんて叫んでいると、ゴーランドが泣きそうな声で叫んだ。

 

「な、なんなんだよお前ら!いじめか!

「「どっちがいじめてると思ってんだ!」」

 

またしても、あたしとボリスの声は、ハモった。

 

 

 

 

 

 

耳だけはお助けを




(「なあ。俺の耳おっさんの雑音聞きすぎてもう危ないんだって。だから、癒してよ」

「その前にこの楽譜…このピアノにファシャープ無いから無理」

「…おっさん!ピアノくらいちゃんとしたやつ置いとけよ!」

「あれ?何か間違ってたか?」

「そりゃもう、いろいろと」)

 

 

 

 

 

 

あとがき

遊園地の仲良し具合が好きです。何あの家族みたいなフレンドリー。

耳壊れるのは勘弁ですが、結構住んでみたかったり。

2009/07/04