「え、何アリス、今なんて言った?葡萄会?」
「舞踏会よ。ベタな間違え方するわね、」
午後なのか午前なのかは分からない、晴天の下であたしとアリスとビバルディはハートの城の庭でお茶会をしていた。
「へー舞踏会かあ。そんなの本当にやるところあるんだね」
「ほう。の住んでおったところには無かったのか?」
ビバルディは静かに紅茶を飲みながら尋ねる。
「うーん。無い…ねえ…」
舞踏会なんてものは、物語の中のものだと思っていた。日本での舞踏会…うーん、盆踊りくらいしか思いつかない。
「そもそもドレスとか着るときないしね!」
あっはっは、と笑いながら言うとビバルディはキョトンとして言った。
「なんじゃ、はドレスを着たことが無いのか?」
「え、うん。無いよ」
ドレスを着る機会なんて、結婚式くらいしかパッと思い浮かばない。
「ええー、なら似合いそうなのに」
言いながらアリスはクッキーをつまむ。
「似合わないってばー」
「そんなことないと思うぜ」
「いやいや、だから…………あ?」
今、あたし誰に返事した?
ぐるっと首を回して声のした方を見ると、そこには頭に葉っぱやら折れた木の枝をくっつけたエースが立っていた。
「いやー、久々にベッドで寝たいから帰ろうと思ったんだけどさ。道に迷っちゃって」
あははは、と笑って髪や服についた葉や枝を落としながらエースはあたしの横に立つ。
ふと向かい側に座るビバルディの顔を見ると、それはそれは不機嫌そうな顔になっていた。
「陛下、そんな顔してるとシワ増えますよ。それにしても喉渇いててさー、これ貰うよ」
あたしが何も言う前に、目の前にあったティーカップを持ち上げて、ごくっと紅茶を飲み干す。
そんなごくごく音を立てて飲んだら、どこぞのボスに怒られるよ…。
「って何してんだお前ェェェ!それあたしの紅茶なんですけどォォ!!!」
さっきアリスが注いでくれた紅茶が!
ていうかティーカップ!高級そうなそのあたしの使用中カップを使うな!
「まあまあ。まだそこのポットに入ってるだろ?いいじゃないか!」
「なんかもうエースのデリカシーの無さにはガッカリだ!」
ばっとエースの手から奪ったカップの中身は、綺麗サッパリなくなっていた。
「の言うとおりよ。あんたもうちょっと遠慮するとかないの?」
呆れつつもしっかり自分のティーカップをガードしているアリス。さっすが、この城での生活が長いだけあるわ…。
「だって俺との仲だし。なっ」
「そんな仲になった覚えはありません」
肩に乗っかったエースの手を叩き落とす。
「ええー。同じ布団で寝た仲だろ。忘れちゃったの?」
言いながらちゅ、と耳元に口付ける。
「変な言い方しないでっていうか、耳!気持ち悪っ!」
バッと顔をエースから避けた瞬間、ビュッと耳に風の音が聞こえた。
「おっと」
ひょい、と顔をずらしてエースはその何かを避ける。
ドスっと鈍い音がして、『それ』は木に突き刺さる。
「ひっどいなー陛下。フォーク投げるなんて。刺さったらどうするんですか」
「刺すつもりだったからな。わらわの前でその子にセクハラするとは…殺してくれと言ってるのではないのか?」
「若干あたしも死にかけたんだけどビバルディ」
マナーも何もあったもんじゃないお茶会のテーブルに肘をついて、
お前に当てるわけがないだろう、と笑いながらビバルディは二本目のフォークを手にする。
「あはは、怖いなあ…っと、今度はこっちか!」
何を感じ取ったのか、エースはぐるりとあたしたちに背を向けて、剣の平面を草むらに向ける。
その直後、キンッキンッ!と2回、金属音が耳を突く。
その瞬間、アリスの肩が震え、まさか、という呟きが聞こえた。
「駄目だなあ。その位置から撃つと俺とを貫いて、さらにアリスにまで当たっちゃうぜ、ペーターさん」
にっこりと笑って庭を見つめるエースの目は鋭い。
そしてガサリと葉が揺れる音と共に、白いウサギ耳が見えた。
「ふん、僕がアリスを撃つなんてヘマするわけがないでしょう」
「それあたしは死んでるよね」
「害虫…もといエース君を消すための尊い犠牲です」
ニッコリとペーターは笑う。なんて恐ろしいウサギさん。
「ペーター。に怪我させたら、一生口利かないわよ」
ぎろりと睨むような目でアリスは言う。
「わっかりましたアリス!貴女が望むなら、まあ、は僕の友人ですし…エース君だけ殺しますね!」
「それも駄目よ」
何でですか!と叫ぶペーターに、アリスはお茶会を血まみれにしないでよね!と叫んだ。
「あぁ、うるさい!忌々しい昼をこの子たちと過ごして気を紛らわしていたのに…お前らのせいで台無しじゃ!」
ビュンッと今度はペーターに向かってフォークが飛んでいく。
それを持っていた銃でキィンとはじき落とし、銃を時計に変える。
「陛下のストレス発散にアリスを付き合わせないでください!彼女が迷惑してるでしょう!」
「してないわよ。寧ろ今はあんたの方が邪魔よペーター」
容赦の無い言葉と共に、アリスは立ち上がってペーターの頭をぺちぺちとはたく。
「あっははは、邪魔だってペーターさん!」
「「いやお前もだから」」
見事にハモったあたしとアリスの声。
アリスアリスと叫ぶペーターにうんざりするアリスと、それを眺めるビバルディ。
そしてエースは未だあたしの横に立っている。
「でさ、ドレスなんだけど」
「ここにきてそんな話を持ち出すのかお前は」
もう忘れたと思ってた。っていうか、あたしが忘れてた。
「今度着てみてくれよ」
「嫌だよ!何でも無い日に着てたら頭おかしい子みたいじゃん!」
「陛下はいつでも着てるぜ?」
「職業の違いです」
女王と一般市民を比べてどうする。
なんて思っていると、ふいにエースはあたしの横にしゃがみ、そっとあたしの右手を取った。
「今まで舞踏会に行ったことないんだろ?だから、俺が経験させてあげたいんだ」
そのまま右手の甲に唇を落とす。
「それに、をエスコートする一番初めの男になりたいしさ」
いいだろ?と上目遣いで言うエース。
不覚にも、姫と騎士のような、御伽噺のようなシチュエーションに少しどきりとした。
「ま…まあ、一回くらい…なら、いいかな。その、しっかりエスコートしてよね!初心者なんだから!」
「ああ。任せてくれよ!優しくするからな!」
非平和なお茶会
(「!エース君がそれだけで済ませるわけないじゃないですか!」「え」「あははは、何言ってるのかなーペーターさん」)
あとがき
普通の人が言ったら普通なのに、エースが言うとなんか卑猥。後から読み返すとえらく卑猥。何でだエース。
ヒロインは舞踏会イベント後にトリップしてきた設定……の場合の話←
2009/09/13